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「映画を早送りで観る人たち」と「華氏451度」 読書感想文


この本の構造はまさに「映画を早送りで観る人たち」向けに組まれている。タイトルもそうだし、特に章の名前が傑作だろう。捻りが全くない。岩波新書黄版のペストにあるように「雨の日には糖蜜を」なんていう章は許されないのだ。

 この新書を読んでいる時に常に感じていたことがある。同じことが繰り返し登場するので「繰り返して言えばロバでもわかる」というアラブの諺みたいだなということと、せっかちな人向けなのか「これは000pのインタビューだが」というのがいっぱい書いてある。
 ただ、一番驚いたことは2020年の私立大学に行く大学生は、家賃を差し引いた月2万円弱が生活費兼遊びの金らしい。ちょっと前は講義に出なくても入れ替えのため卒業させられたし、加藤典洋曰く「全共闘の時なんて25枚の卒論を書けばA判定を貰えた」と聞く。物価も上がった都内で月2万弱では生活に困る。食費などを削った結果はスーパーサイズミー的な感じになり。陰鬱になり、創造力(人間は創造ができるかと言うトウェイン的問題はともかく)も失ってゆく。

 著者は「映像を早送りして観る」原因は半導体集積度やネットワークによる映像配信技術や教育環境等に求めているが、私は第3章「とにかく失敗したくない」にある「Z世代の親の子育てのトレンドは『締め付けるのではなく優しく』であって、そのように大事にされた子供は失敗に対して耐性がなく、失敗したこと自体に大いに傷つく。このことは『回り道』や『タイムパフォーマンスが悪い』を恐れる人たちの気質に直結している」とあるが、これの真意は「子供が望んでもいないことを親が『優しさ』によって強要してくる」ということであって、「親も自分を思う気持ちや親切からやっているのだし、親の期待に応えたい」という(子供1人では生きていけない(扶養されている))状況による強制力も合わさって行われる暴力(パターナリズム)こそ原因だと思う。
 そういえばヒトラーも母親から自分が望まないピアノを4ヶ月習わせられていたっけ。

一体全体何がどうなったらこうなるんだ!ママの愛情が足りなかったのか!?

アメリカ軍 訓練教官

「それをみても自分には理解できないだろうから」これを本書では妙な謙虚さとかいているが、私にはこれは極端な自信のなさ、自身への信用の銷失だと思える。彼らは自信を失っている。自身を信用し自身に判断を任せる、能動的に行動を決定するのは大変に体力がいる。ホモ・サピエンスの脳の質量は体重の2.5%、脳に流れる血は体全体の20%の800ml/min。ホモ・サピエンスの主な死亡原因は餓死だということからも、いかに脳がエネルギーを食っているかが分かる。あれだけ虐待されている若者が、まだ他人の話題に付いて行こうとしていることだけでも驚くべきことだ。幼年において、大体において悪いのは自分ではなく周りなのだ。それに気づき、それを信じ、自分を信用するには、まず体調を整えなくてはならない。アンソニー・ホプキンスの言葉を借りよう「生きてゆくことは戦いである。何もしていなくても我々は常に戦っているのだ」一貫性のある自己を維持できているだけで僕には奇跡のように思える。



もしかしたら著者は(というかきっと)華氏451度を知らないのだろう。

この状況はいつから始まったんだろう? 当然そういう疑問はわくな。(略)われわれの暮らしにまとまりができはじめたのは、写真術が確立されてからなんだ。つぎには――活動写真、二十世紀初頭のころだな。ラジオ、テレビジョン。いろんな媒体が大衆の心をつかんだ。
(略)
十九世紀の人間を考えてみろ。馬や犬や荷車、みんなスローモーションだ。二十世紀にはいると、フィルムの速度が早くなる。本は短くなる。圧縮される。ダイジェスト、タブロイド。いっさいがっさいがギャグやあっというオチに縮められてしまう。
(略)
古典は十五分のラジオプロに縮められ、つぎにはカットされて二分間の紹介コラムにおさまり、最後は十行かそこらの梗概となって辞書にのる。もちろんこれは誇張だよ。辞書は参考に使うものだ。ところが「ハムレット」について世間で知られていることといえば(略)《古典を完全読破して時代に追いつこう》と謳った本にある一ページのダイジェストがせいぜいだ。わかるか? 保育園から大学へ、そしてまた保育園へ逆戻り。これが過去五世紀かそれ以上もつづいている知性のパターンなんだ。
(略)
フィルムもスピードアップだ、モンターグ、速く。カチリ、映像、見ろ、目、いまだ、ひょい、ここだ、あそこだ、急げ、ゆっくり、上、下、中、外、なぜ、どうして、だれ、なにどこ、ん? ああ! ズドン! ピシャ! ドサッ! ビン、ボン、バーン! 要約、概要、短縮、妙録、省略だ。政治だって? 新聞記事は短い見出しの下に文章がたった二つ! しまいにはなにもかもが空中分解だ! 出版社、中間業者、放送局の汲みとる力にきりきり舞いするうち、あらゆるよけいな込み入った考えは遠心分離機ではじきとばされてしまう!
(略)
就学年齢は短くなり、規律はゆるみ、哲学、歴史、外国語は捨てられ、英語や綴りの授業は徐々に遠ざけられ、ついにはほとんど完全に無視されてしまうだろう。時間は足りない、仕事は重要だ、帰り道ではいたるところに快楽が待っている。ボタンを押したり、スイッチを入れたり、ボルトやナットを締める以外にいったいなにを学ぶ必要がある?
(略)
人生は挫折の集合体になったんだ、モンターグ。バン、ボコッ、ワーオ! なにもかもがこのとおりさ。

華氏451度 レイ・ブラットベリ 伊藤典夫訳 

ブラッドベリは個人の尊厳や精神の自由に危機をもたらすものとして、盲目にもなれる力である科学・技術の中に見出した。華氏451度には一回だけ物語の舞台の西暦が登場する。2022年。「古典は十五分のラジオプロに縮められ、つぎにはカットされて二分間の紹介コラムにおさまり、最後は十行かそこらの梗概となって辞書にのる。もちろんこれは誇張だよ。辞書は参考に使うものだ。ところが「ハムレット」について世間で知られていることといえば(略)《古典を完全読破して時代に追いつこう》と謳った本にある一ページのダイジェストがせいぜいだ。わかるか? 保育園から大学へ、そしてまた保育園へ逆戻り。これが過去五世紀かそれ以上もつづいている知性のパターンなんだ」映画を早送りで観る人たち(光文社新書)が出版された年は2022年であり、華氏451度が書店の目立つ位置に置かれているのはNHKの「100分de名著」で取り上げられたことが関連している。手元の2024-02-15第20刷には水色と黒と白で「100分de名著に登場」と書いてある。これはきっと笑うべきなのだろう。ブラッドベリがあと10年(2012年6月5日(91歳没))生きれば大いに笑ったにちがいない。


(略)必要なのは、趣味の集まりにパーティ、アクロバットに手品師、無謀な遊び、ジェットカー、バイクヘリコプター、セックスにヘロイン、自動的な反射作用でできる、ありとあらゆるものってことだ。もしドラマがつまらなかったら、映画を見てもなにも伝わってこなかったら、芝居の中身がスカスカだったら、テルミンでガンガン刺激してくれりゃあいい。そうすればこっちは芝居に反応している気になれる。たとえそれが振動にたいする触覚の反応にすぎなくてもな。かまやしないさ。こっちはしっかり愉しめればなんでもいいんだから。

華氏451度 レイ・ブラットベリ 伊藤典夫訳

思えば刺激という点であの留学生も同じ結論にたどり着いたのだった。本書では「彼の持論」としか書いていないが探れば山ほど出てくるだろう。今ではポケットの中にスロットマシンが入っている。特定非営利活動法人ASK(https://www.ask.or.jp/article/676)曰く全世界のギャンブル用の電子的ゲーム機械(EGM)約770万台のうち、59.8%を日本のパチンコ機が占めているらしい。この普及率から言っても日本のソシャゲ課金の敷居は低かったりするのだろうか。

にしても情報収集のためのモードで見るって聞くとE-3を思い出す。このAN/APY-2レーダーは6個の運用モードを備えている。PDES、PDNESなどのパルスドップラーレーダー。これらのレーダーは両者共ドップラーシフトを利用し背景のグランドクラッタを除去している。PDNESはレーダー水平線を超えた長距離の探知を行えるが、目標の位置と移動情報しか把握できない。高度等の情報が欲しいときはPDESを使用するがこれは探知距離が短い。超長距離探知にはBTHモードを使う。BTHではパルス送信を行わないので通常のレーダー水平線を遙かに超えて目標を探知できる。艦艇目標には低パルス繰り返し周波数を用いた艦艇用モードを。E-3は受動的にも目標を探知できる。これは相手が発信するレーダー波やEAを受信して目標を探す。そしてシステムを待機状態にしておくスタンバイモードがある。
 これらのモードの一部は併用が可能で、PDNES + 海洋モードやPDES + BTHのように使用可能だ。さらに360度を32個のセクタに分割して各セクタごとに併用を含む個別のモード設定を使用可能だ。
 つまりE-3は空域ごとに異なった空対空モードを使用し、一部では海洋監視を行うことが可能なのだ。
 さらに、レーダーを補佐するのがAN/APX-103 IFFで、レーダーがとらえた目標に対して質問電波を送信し目標が民間機か友軍機か敵機かを判定する。近年は主翼端にイエローゲートシステムやAN/AYR-1などのESMを装備......
 情報収集モード。私にはその言葉がこう聞こえる。

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