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伊藤計劃によるAmazonレビュー一覧

この記事は伊藤計劃がAmazonに投稿したレビューの一覧です。このレビューは書籍化されていません(たぶん)。
消えたらヤなのと、まとまってないと読みにくいので。一覧を作ってみました。

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ジェイコブス・ラダー [DVD] ティム・ロビンス

近づいている

2002年8月3日

キューブリックの「フルメタル・ジャケット」が「ベトナム」とはなんの関係もない映画だったように、この映画もまた、ベトナムとはなんの関係もない。そのときのアメリカにとって手近なトラウマがベトナムだった、ってだけ。もっともらしいクスリの話とか陰謀とか出てくるけど、それはあからさまにやる気がない。最後のテロップの唐突さは笑っちゃったくらい。
んじゃ、これは何の映画なのさ。
これは、とても嫌な映画だ。「究極的には、我々はみな死人だ」という言葉がある。生まれてから、死に向かってノタノタ行進していくぼくらのカラダ。この映画に満ち満ちているのは、それだ。映画という「進行する」媒体の根源にあるイヤーな特質。時間に拠ったメディアの最も見たくない面。それは「始まって、終わりに向かって進行してゆく」こと。始まった映画は必ず終わる。「終われば何でもハッピーエンドだ」と某映画監督は言ったっけ。でも、それは裏を返せばこういうこと。
「映画は終わる。終わりがイヤならすべての映画はーーバッドエンド」
この映画に満ち満ちているのはその空気だ。終わる。あああ、終わりに向かって進行してゆく。俺にはそれが止められない。終わる。終わっちまう。そんな、ぼくらが生きている上で意識したくない感覚が、画面のいたるところから触手を伸ばし、時間という無慈悲なマシーンへぼくらをからめとろうとする。
だから、この映画は見ておいたほうがいい。映画というメディアが、いかに呪われた力を有しているのか、それがわかる。わかるからイヤになるのだけれど。

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF) ウィリアム・ギブスン

「そこ」の印象

2002年7月15日

 テクノロジーが、政治とかエリートとかのてっぺんだけじゃなくて、どぶ底レベルの人間から変えてゆく。そういう認識を、コンピュータが生み出す人間の新たな認識の地平とからめて描き出した…というインパクト、いわば「最初にやったもん勝ち」の衝撃を取り払ってみれば(それもかっちょよくて凄いことなんだけど)、この小説に残るのは「場所」の印象、静かにまぶたに残る空間の雰囲気、だったりする。
 冒頭のチバシティこそごちゃごちゃしてて猥雑だけど、あとはイスタンブールのエキゾチックな感じ、空港ターミナルのあの雰囲気、人気のない高級リゾートの、塵一つない奇妙な清潔さ、熱心に清掃された漆喰の廃虚のような無人空間、がらんとしたプール。そんな「場所」と、奇妙に歪んだドアとかグロテスクなホログラムとかの「オブジェ」が現代美術のような「妙な感じ」を残す。
 思えば、サイバースペースにしてもこうした「場所」の印象たちの一つにつらなるものとしての役割が大きかったのかもしれない。
 ぼくにとってこの本は、猥雑でブレラン的なチバシティのステロタイプなイメージよりも、リゾートやお城のがらんとした廃虚感に身をゆだねる(バラードの風景の乾いた心地よさに近い)「きれいな小説」だ。そして、ギブスンの最近の作品はいよいよそんな「場所」の印象、記憶、そんなものをだらだら展開するインスタレーションみたいな作品になってきているんだけど、それはまた別の話。

ラスベガスをやっつけろ [DVD] ジョニー・デップ

吹き替えでアホさ倍増

2002年7月15日

のっけから主役二人はクスリをキメている。
ここには「トレインスポッティング」の「明るく悲惨」なポップさはない。では何があるんやねん、というと、もう、ただただらりぱっぱ、最初から最後まで、という映画なのだった。
物語性皆無のカオス状態をひたすらアホなテンションで乗り切る、ただそんだけ。LOVE&PEACE時代へのノスタルジー?70年代批評?そんなものは微塵もありゃしません。文化批評してるヒマあったらラリってろい、という描きたいことのプライオリティがはっきりした映画。アホ、この一点が勝負なので、酔っ払いの無茶苦茶を遠くからながめてゲラゲラ笑えないひとはやめておいてね。
なぜこのDVDをお薦めするか、というと、
日本語吹替の存在。
こういう公開規模と話題の映画だと、大都市の大手レンタル店ならともかく、普通の店には1本入荷がせいぜい。ということは日本語吹替版ビデオなんて入るはずもなく、だけどお兄さん、この映画、吹替えで観た方が100万倍、なんてバカ数字をつけて強調したくなるほど笑えるんでやんす。だから吹替え付きのDVDを買ったほうがいい。絶対に。
劇場で観た時も、パトカー警官の「寂しいんだ」とか、60年代のフラワーな落書きトイレでLSDをやる主人公とヒッピーのスローモション(この場面の音楽がアホ過ぎてサイコー。ほとんどドリフといえよう)に大笑いしたけど、吹替えで見ると笑いは字幕の比じゃない。ドラッグをやっている自堕落さに無茶苦茶自分突っ込みを入れる自覚的ダメ人間特有のアホな冷静さが、あなたの部屋をアホ空間に変えてくれるでしょう。
というわけで、ジェファーソン&エアプレーンの曲と共にアホ空間をエンジョイしてください。ギリアム、あんたサイコーだよ、やっぱ。

ヨーロッパ [DVD] ジャン・マルク・バール

あなたはだんだん眠くな~る

2002年7月15日

(筆者注:なぜか文字が化けてしまっている)
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スパイ・ゲーム [DVD] ロバート・レッドフォード

レクイエム・フォー・スパイ

2002年7月15日

 トニー・スコットの映画を面白い、というのはすっげー勇気のいることだ。
 トニー・スコットの映画がつまらないと思えるようになれば、映画ファンとしての格が少しあがったような気がする(人がいる、本当)。トニー・スコットをけなしておけば、無難だと思っている人もいる。トニー?ああ、アレね。
 わかる。すっげーわかる。ぼくにもそういう時代があった。映画ファンの駄話というその個の人格を賭けた戦いの場で「トニーの映画が面白い」などと言おうものなら、それ以降あなたは映画シロウトとして無知をいたわるような優しさで遇されることになるだろう。
 でも、この映画を見たあと、
 そういうくだらないことはもうどうでもよくなってしまった。
 かつて、冷戦という時代があった。 地球を何度も壊せるだけの爆弾を抱えて、ふたつの勢力がにらめっこしていたあの時代。どちらが人類に真の幸福をもたらすことのできる国なのか。今となっては滑稽な、このにらめっこのプレイヤーは、銃でもミサイルでも戦車でもなく、スパイとよばれた者達だった。
 撃ってしまえば全ては終わり。そんな「発砲できない」核の時代の兵士たちの戦争は、まさにその戦争の性格上、公になってはならなかった。称えられることもなく、語り継がれることもない、闇の世界の静かな戦い。
 彼等はゲーム・プレイヤー。駒はその人格と命。
 苛烈を極めるその戦いは、しかしある日、あっけなく終わりを告げた。
 彼等はどこへいったのだろう。
 彼等はどのように戦ったのだろう。
 彼等は何のために戦ったのだろう。
 物語は基本的にCIAの会議室だけで展開する(ブロックバスター狙いにしては、すげー度胸だ)。しかし、この退屈なはずの場面が無茶苦茶面白くてしかたない。特に出席者の目線のやりとりや表情の変化が全部、何かのメッセージだったり伏線だったりして、ここで交わされる情報の量は台詞の数倍ある。椅子に静止していながらも、その一瞬一瞬が次の一手になっている面白さ。目線のやりとりだけで伏線をはれる映画って、最近はめっきり減ってしまったけど、久しぶりに面白いものを見た気がする。
 冷戦、かつてそういう時代があった。そういうテーマが全面に出てきているわけではないけれど、やはりこの映画はそこから始まってそこで終わるしかない。会議室での証言という形でブラピの活躍場面は登場するけれど、それは同時に主人公の戦いの記憶でもある。ベトナムに始まり、ベルリン、ベイルート、とまさにそれぞれの時代を象徴するベタベタな場所ばかりセレクトされているのも、そのためだ。「ほとんど聴聞会のような会議で、引退するスパイが過去を語る」という構成自体、「スパイへのレクイエム」として書かれた、フレデリック・フォーサイスのマグレディ・シリーズ(「騙し屋」「売国奴の持参金」等)とおんなじだ。
 実は複雑な構成を、どどんと通俗的に死ぬほどわかりやすくもっていった脚本、これがけっこういい仕事だと思う。ほとんど全編が指し手になっている会議室シーン、これも凄い(ここでダレる、ってお人は、本当に画面を見てるのかしらん。もしかしたら台詞しか聴いてないんちゃうか)。そして、ゲーム映画のようにスコーンとさわやかな後味。結構重いものを抱えている割には、あんまり深刻になり過ぎない演出。いいよ、トニー、いいですよ。高尚ぶらず、あくまで通俗、通俗の誇りをもってこれからもやっていってくださいな。作家主義にまみれたハリウッドにあって、あんたは変に作家ぶらない、ハリウッドの良き職人になりつつあるんですから。
 香港駐在作戦担当官にアントニオーニ映画でおなじみデビッド・ヘミングス(俺世代的には「エアーウルフの開発者」なんだが)、ドイツ大使夫人に「愛の嵐」のシャーロット・ランプリングを配したマニア受けキャスティングも楽しい。とはいえ、ナイス傍役No.1は無論、嫌味なエリート官僚CIA局員ハーカー役のスティーブン・ディーレーン。ポジション的には「悡役」っぽいんだけど、その目線、仕種がいちいちお茶目で笑え、この人だけ見ていても結構楽しめる(個人的にはレッドフォードへのツッコミどころを見つけてノリノリになり、「腹ぺこだ」と指を鳴らす場面。あんたサイコー)。

カウント・ゼロ (ハヤカワ文庫SF) ウィリアム・ギブスン

「ニューロマンサー」よりいいかも

2002年2月20日

メランコリックで、ノスタルジックで、ほんのすこしウェット。これは多分、ギブスンの長篇の中ではいちばんきれいな小説かもしれない(短編では「クローム襲撃」収録の「冬のマーケット」がとてもきれいだ)。
たしかに「ニューロマンサー」のインパクトはない(続編だもの)。けれどこれは旗振って人目を惹くようなタイプの小説でもない。「ニューロマンサー」よりいささか地味だけれど、ぼくはこれが「ニューロマンサー」より好きになり始めている。この物語のクライマックスはギブスンの小説の中では最もきれいで切ない。新聞のきれはしやレースのはぎれなど、かすかな記憶の断片たちを封じ込めたちいさな箱のオブジェ。雨のガウディ。そんな、すこしノスタルジックな風景のイメージが、読み終えたあとに残る。
この小説にはいつまでも心に引っ掛かってとれない、ちいさなちいさな痛みのようなものがある。それはものすごくかすかなテクスチャーみたいに埋め込まれているから、それを感じ取れなければ、ただ「地味」な小説で終わってしまう可能性もある。でもこれは多分、電脳空間3部作の中ではいちばん詩的な作品だ。インパクトでなく、静かに横たわる美しさを求めているのなら、ぼくは「ニューロ」よりこちらを推す。
と、地味地味書いてきたけど、アクションもたっぷり(企業傭兵のターナーがかっちょいい)、美少女あり(アンジイかわいい)、とキャッチーな要素が「ニューロ」より濃いのは不思議なところ。そういう意味では「ニューロ」より読みやすいかも。訳も「ニューロ」よりは抑えめで落ち着いているし(あの訳で挫折した人でも、多分読めると思う)。

強襲部隊―米最強スペシャル・フォースの戦闘記録

ロクでもない世界の、ロクでもない闘い

2002年1月29日

人はどんな事柄からもやたらと教訓を引き出そうとする。戦争ならばなおさらだ。「地球よりも重い」ところの命が大盤振る舞いでドカドカ消費され、金もインフラも壮大に失われる。湾岸戦争で石油の利権云々ゆーおめでたいアメリカ陰謀論者もいたけれど、現代の戦争のコストは、はっきりいってそんなもんではとーてー見合わないほど巨大なものにふくれあがっている(とくにアメリカ式の戦争のコストは)。現代の戦争は支配とか利権とかでは埋め合わされない、ムチャクチャ効率の悪いソリューションだ。
というわけで、アメリカがソマリアに介入したとき、それは多分、本当に善意からだったんだろう。ある種の無神経さがあったとしても、ソマリアはアメリカの「利権」にとってなーんの意味もない、ただの地図の場所にすぎなかったわけだもん。飢えてる人々がいる、虐げられている人々がいる。そしてアメリカはやってきた。俺達がなんとかしてやる。悪い指導者を打倒し、この乾いた大地に平和の二文字を打ち立ててやる。
そしてアメリカ兵が死んだ。損耗18パーセント。30パーで敗北と言われる現代戦の基準から言えば、こいつはムチャクチャ高い数字だ。なんてたって5人に1人が死んだってことだからね。
この本はその戦いの記録だ。ベトナムより後の戦闘では最大の損害を出した、アメリカ軍のある戦闘の記録だ。
なんてたって陸軍はレンジャーにデルタ、海軍はSEAL、海兵からリーコンと、映画でもお馴染みのアメリカの特殊部隊だけが99人投入されたのだ。作戦が1時間で終わると考えても決してごう慢とは誹れないだろう。彼らはカウントされてる数字で500人(本当は1000人近くともいわれる)のソマリア人を殺したんだから、キルレシオからいえば勝利といってもおかしくない。
でも彼らは負けた。
この闘いはロクでもない。意味もなく、教訓もない。それでもあえて教訓を探すとするなら、熱いヤカンには触るな、とか、悲惨な国が悲惨なのは、彼らが悪い指導者に虐げられているからではなく、国民自身が心の底から平和を望んでいないからだ、という身も蓋もないこれまたロクでもない教訓でしかない。
そしてそれがぼくらの世界なのだ。無意味な世界の、無意味な戦争。ぼくらがアフガンに注目している間にも、アフリカはどんどんひどいことになってるんだけど、それは報道されないから「存在しない」ことになっている。
だから、ぼくらはこいつを読むべきなんだ。




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近づいている
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「そこ」の印象
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吹き替えでアホさ倍増
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あなたはだんだん眠くな~る
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「ニューロマンサー」よりいいかも
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ロクでもない世界の、ロクでもない闘い
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