権力者は、その権力ゆえに愚か者になってしまう

権力者というのは、有無を言わさず命令を実行させる力がある。暴力装置なのか、経済的な生殺与奪を握ることなのか、マックスウェーバーのいう「支配の正当性」なのか、なんらかの力を借りながら。

これは、対等な人間関係においては不可能なことだ。

友達に対して何かを行動を促す場合を考えて欲しい。相手がいまどんな仕事に取り掛かっていて、どんなプライベートの厄介ごとに振り回されていて、どんな経済事情を抱えていて、なにに興味があって、なにに興味がないのか、全てを考慮した上でなければ、友達を動かすことは難しい。

自分よりも権力を持つ者を動かす場合は、さらに事情は複雑だ。権力者が今朝どんな気分で目覚めたのか、昨日ギャンブルで勝ったのか負けたのか、奥さんとの人間関係はうまくいっているのか、全てを熟知しなければならない。

また、お願いをするに至った背景や、権力者がそれを実行すべき合理的な理由、どの程度の手間と時間がかかるか、どんな手順を踏むか、どの成果を求めているのかといった具体的かつ周到なお膳立てが求められる。

それをしなければ権力者は臍を曲げてしまい、何も実行してくれないどころか、部下自身の立場を危うくしてしまう可能性がある。だから、部下は、権力者の気持ちを慮る想像力や、未来を予測する思考力、計画性などを培うことになる。

一方で、権力者の命令は、これほどまでに体系立てられなくても構わない。「あれをやれ」と一言言えばいいのだ。部下は「あれ」がなんなのか聞き返すこともあるが、そうしないことの方が多い。その意味を推測し、恐る恐る実行する。もし、実行内容が少しでも権力者の意向と異なれば、権力者はまた臍を曲げてしまうため、部下は入念に想像力を働かせることになる。

また、それが現実的に実現不可能な命令であったとしても、何とかして実行しようと策を練ることになる。運良く上手くいけば何事もないが、それが上手くいかなかった場合は、責任は部下に着せられ、命令の妥当性が検証されることはない。

こうして権力者は無用の長物となった想像力や思考力、計画性を失っていく。つまり愚かになっていくのだ。

その愚かさは、指摘されることは滅多にない。権力者は自分が愚かになっていることに気づかないまま、ますます愚かになっていくのだ。

ここまで極端な権力者は少ないかもしれない。多少の良心を働かせる人も中にはいるだろう。しかし、それはあくまでイレギュラーだ。権力とは他人に命令する力を指すのだから、構造上、権力者は愚かにならざるを得ない。

その一方で、権力を持っている人物は、「その賢さ故に権力を握っている」という社会通念は根強い。権力を握った当初に限ればある程度それは正しいのかもしれないが、時間が経つほど彼は愚かになっていくため、社会通念と現実が乖離していく。

これは、そこそこのスキャンダルだと思うのだが、どうだろうか?

しかし残念ながら、僕がこんなことをインターネットの片隅で主張したところで、この文章を権力者が読むことはない。相手を慮る必要がない故に、権力者は文章を理解する能力が欠落している可能性が高いからだ。とくに、権力者自身の主義主張と反する文章の場合、その傾向はさらに強まる。

人類にとって権力構造が必要なのか、必要ないのかは誰にもわからない(個人的には必要ないと思っているが)。いまの社会から権力を引っこ抜いたら間違いなく混乱するだろうが、権力のあるいまの社会も十分に混乱しているので、どちらがいいのかはわからない。権力がなくても、時間をかければ秩序ある社会を作れる可能性もあるし、失敗する可能性もある。

いずれにせよ、権力には弊害があることは認識すべきだろう。きっとみんな薄らとは認識しているだろうが、「権力に弊害はない」という前提で物事が進んでいることの方が多い印象だ。明確に認識して、議論の俎上に載せたいものだ。たぶん、こんなことを言っても載らないのだが。

僕の頭の中には、権力を潰す方法が3つある。

1つ目は暴力で潰すこと。2つ目はボエシの『自発的隷従論』に書いてあった通り、権力をみんなで無視すること。3つ目は、アナキスト デヴィッドグレーバー式のボトムアップで勝手に新しい秩序を作ることだ。

1つ目は失敗例の方が多そうだ。僕が好きなのは2つ目と3つ目。この方法を実践していれば、権力者のやっていることが、だんだん「おままごと」であるかのように感じていくだろう。

ティール組織はビジネス界隈のアナキズム(=権力の否定)なわけだが、『ティール組織』を読む限り、権力を否定した組織は楽しくやっているらしい。

しかし残念ながら、『ティール組織』で紹介されているティール組織が誕生するときは、権力者が権力を否定するという「権力者の自殺」という工程を経ている。これは変態的な行為であって、社会のあちこちで自然発生すると期待するのは難しい。

ならば、権力者を無視することや、ボトムアップによってティール組織を作ることはできるだろうか? 僕は前例を知らないが、なんだかできるような気がする。

会社員の仲間うちで、初めてみるといいかな? どうかな? 潰されるだろうか?

まぁとりあえず、権力者を馬鹿にする気持ちを忘れないでいようと思う。さっさと自殺してくれ、権力者たちよ。

1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!