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さすがにそろそろワールドコインについて語るか【雑記】

ワールドコイン。ベーシックインカムの話をするなら、さすがに避けて通れないテーマだ。

ワールドコインが何なのかは、適当にググって欲しいわけだが、一言で言えば民間主導のベーシックインカム実現を目指す暗号通貨プロジェクトである。

オーブと呼ばれる生体認証装置で人間であることを登録すれば、毎月自動でワールドコインが配布される。AI失業時代に備えて、グローバルな再分配のシステムを構築しようという壮大な計画である(OpenAIのCEOがガッツリかかわっている点も、おそらくこのプロジェクトに説得力を付与している)。

僕はベーシックインカム信者であり、かつ無政府主義者傾向がある。そのため国家の軛から逃れた通貨によるベーシックインカムを目指すワールドコインとは一見相性がよく見えるかもしれない。とはいえ、僕はワールドコインをさほど好意的に捉えていない。

その理由を少し整理してみたい。


■暗号通貨と権力

そもそも僕はお金というシステムが好きではない。なぜなら、お金には他者を強制する権力という側面が存在し、その結果「労働(強制される仕事という意味での)」が発生していると考えるからだ(僕は誰も強制されない「労働なき世界」の実現を目指している)。

では、お金の権力はどこに根拠があるのかといえば、僕は「暴力(支払いや税金を拒否すれば暴力によって刑務所に入れられる)」と「非自給自足状況(金がないと食っていけない)」にあると考えている。

そもそも暗号通貨は「国家の暴力」という根拠を代替しようとする。

暗号通貨全般は、ブロックチェーンというオープンなテクノロジーと相互信頼によって通貨の価値を担保していて、日本円やドルのように国家の暴力を背景にしているわけではない。この点に関して、無政府主義傾向のある僕のワクワクを掻き立てなかったと言えば嘘になる(実際、僕はかつて暗号通貨をいくらか買い込んでいた)。

そもそも貨幣の成立には暴力が欠かせなかったし、いまだに貨幣取引が適切に遂行されない場合は警察や刑務所という暴力が動員される。日本円は暴力によって支えられているわけだ。

※そのあたりの話はこちらも参照。

一方で、ビットコインのような暗号通貨の価値は暴力が根拠にあるわけではなく、相互信頼とブロックチェーンが根拠となっている。新しい通貨の形態として、期待を集めることも納得できないこともない。

とはいえ、暗号通貨の場合は権力の解消にはつながらないと考える。なぜなら暗号通貨のメカニズムは特定の人々に権力が集中することになるからだ。

たとえばプルーフ・オブ・ワークという仕組み(でっかいサーバーでガンガン計算した奴がビットコインを稼ぐという仕組み)は事実上、計算能力の保有者が権力者になる。イーサのプルーフ・オブ・ステーク(持ってるやつがさらに稼ぐ)やネムなんかのプルーフ・オブ・インポータント(いっぱい取引した奴が稼ぐ)も、結局は「持てるものが持つ」仕組みだ。いずれにせよ、オープンソースといわれたところで、テクノロジーギーク以外にはちんぷんかんぷんな仕組みなのだ。エリートギークに権力が集中するのは避けられない。

ところが、権力集中の解消に乗り出したのがワールドコインであった。

(余談:
また、暴力から完全に抜け出せるわけではない。というのも、現時点では暗号通貨取引が滞った場合、結局のところ暴力を呼ばなければならないからだ。ビットコインで電子書籍を購入する・・・みたいなやり取りであれば、システムの信頼性だけで取引は事足りる。だが、たとえばお肉屋さんでホクホクのコロッケとビットコインを取引する場面を想像してみよう。コロッケをほおばりながら支払いを拒否し、逃げ出そうとした人物がいたなら、お肉屋さんは警察という暴力に頼らざるを得ない。つまりビットコインの価値は事実上、警察という暴力装置にただ乗りしている格好になる。国家の存在を前提にせざるを得ないのだ。ではアルソックのような民間企業に委託すればいいのか? アルソックが日本の暴力を独占し、人々から安全保障料の徴収を要求し始めたなら、それはもう国家である。結局、通貨とはほとんど国家を前提にするシステムなのだ。)


■ワールドコインの懸念点

ワールドコインの独自性は明らかにプルーフ・オブ・パーソンフッドと呼ばれるメカニズムだろう。これは要するに人間だったら全員にコイン配るという仕組みであり、事実上のベーシックインカムだ。これは富の偏在化を解消しつつ、「非自給自足的状況」を解消し、強制力という意味でのお金の権力を弱体化させることになる。

が、果たしてこれはうまくいくのだろうか?

非自給自足的状況を脱するために、手っ取り早い状況はワールドコインでコロッケが買えるようになることである。誰もがお店で当たり前のようにQRコードを読み込み相手のウォレットに送金するようになる状況だ。

こうなったときに黙っていないのは政府である。

現状、コロッケの売り上げを暗号通貨で受け取った場合は、一応は税金の支払い義務が発生するわけだが、真面目に払う人がいるとは思えない。暗号通貨を日本円に変換するとなると税務署が嗅ぎつけるわけだが、コロッケの購入にも使用できるような状況になればわざわざ日本円に変換する人は減っていくだろう。

そうなったとき、政府はおそらくなんとかして追跡しようとするだろう。だが、多様な通貨を課税するようなめんどくさいことをするくらいなら、「安全性」がどうのこうのといちゃもんをつけて暗号通貨そのものを否定するようになると思われる。

※実際スペイン政府はすでに禁止している。

なら、配布されたワールドコインを日常的に使うのではなく、日本円に交換してから使えばいいのだろうか?

そうなったときに日本円との交換レートを維持できるか、かなり怪しい。毎月10万円相当かそこらの金額が配られるにもかかわらず、受け取った突端に誰もが日本円と交換しようとして売り払う。しかも日本円と交換する時点で税金も取られる。そんな通貨が価格を維持できるとは思えない


■僕が日本円でのBIにこだわるわけ

やはり、ワールドコインをベーシックインカムの代案にするのであれば、日常利用が欠かせない。それは先述の通り、政府に喧嘩を売る行為である。とはいえ、うまく政府に取り入ることは可能かもしれない。課税のゴタゴタさえうまくしのいで、政府と共存できるなら、生き残る道はあるかもしれない。

しかし、だったら僕は思うのだ。「はじめから日本円でベーシックインカムをやればよくないか?」と。

先どのみち通貨を運用するには国家という暴力装置に頼らざるを得ない。それに解消可能かもしれないが課税のゴタゴタもある。なら、ワールドコインを採用するメリットをあまり感じないのだ。

ワールドコインは政府に敵対する者として現れる。ところがベーシックインカムは(実際は政府の権力を弱体化することになるわけだが)、政府の味方であるような印象を装うことができる。BIは「経済成長して、財政健全化しますよー」みたいな保守論調で語ることもできるのだから。

そして最終的には・・・


■そもそも、通貨の廃止を目指すべき

僕は通貨そのものは、人々が貢献を欲しないという価値観や、他者の強制を前提としているため、人類社会から最終的に廃止されるべきものであると考えている。

そして、金が全く存在せず、自由に、誰もが欲望を追求し、欲望のままに貢献し合う社会こそが目指すべき社会の姿だと考える(すべてが無料なら警察はいらないのである)。

そうなると代替案が求められるのは規模の経済を実現するシステムと、暴力を抑止するメカニズムである。このあたりに関しては全世界的な統一システムを構築するよりは、ボトムアップで場当たり的に生み出されていくものであると考えている。コミュニティによって最適解は異なるはずなのだから。少なくとも大規模に組織化された暴力装置が消え、あらゆるものが無料で手に入るようになれば、暴力や支配よりも楽しいことで社会があふれかえっているはずである(そもそも信頼を前提にした社会なら、信頼は不要であると僕は考える)。

とはいえ、この辺りはなにがどうなるかはわからない。まだまだこれからも考えていきたいところである。ともかく、現時点でのワールドコインに関する印象はこんな感じである。

僕はギークではない。ので、はっきり言って暗号通貨のシステムに関しては細かいところはよくわからない。「なんとなくこういうことだよね」くらいの理解なのだ。詳しい人はいろいろ教えて欲しいのである。


(余談:
ワールドコインって計算能力を使った承認作業を行うインセンティブはどのように設計しているのだろうか? ビットコインは思いっきりあるし、イーサもネムも承認作業に参加しなければ新規発行されたコインが手に入らないから、一応ある。プルーフ・オブ・パーソンフッドの場合、別に承認作業に参加しなくてもコインがもらえるわけだから、誰もサーバー貸してくれないんじゃないのだろうか? どうやって計算能力を確保しているのか、誰か知らないかい?)

1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!