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モンゴル式食べ放題の立ち飲み屋をやりたい

「モンゴル料理食べ放題」との謳い文句に惹かれて友達3人でモンゴル料理店に行ったことがある。

オフィスビルの地下にある薄暗い店内には、モンゴル料理が所狭しと並べられている様子はなく「あ、ビュッフェ形式ではなく、オーダーバイキング形式ね」と僕たちは察する。

オーダーバイキングならば、それ用のメニュー表があるはず。しかし、おそらく店長と思しきカタコトの日本語を話す中年男性(のちに判明するが内モンゴル出身らしい)はドリンクのオーダーを取った後で「料理は食べ放題だから!」とだけ言い残して、メニュー表を渡すことなくどこかへ行こうとした。

「食べ放題用のメニュー表はありますか?」と僕が聞くと、彼は首を傾げる。そして「いや、食べ放題だから!こっちから料理出すから」と言われた。

僕たち3人は同時に感じた。「それは食べ放題ではなく、コース料理では?」と。これがカルチャーショックというやつである。

しかし、後から分かったことは、それはコース料理ではなく、紛れもなく食べ放題だった。ただ、それは僕たちの知る食べ放題ではなかったのだ。

モンゴル人店長は次々に料理を持ってきた。「これは美味い、これも美味い」と僕たちが話をしていると店長が割り込んできて「これはね、中国料理と思われているけど実はモンゴル発祥で‥」と蘊蓄を教えてくれる(似た話が何度も登場するあまり、すべての中国料理はモンゴル発祥なんじゃないかという気すらしてくる)。そしてその後に「美味しかったなら、もっと食べる?」と尋ねてくる。「ぜひ!」と僕たちは即答する。

しばらくして僕たちは気づく。「食べ放題って、こういうことだったんだ」と。

次から次へと料理を出して、気に入ってくれたならまた作る。たまに話に割り込んで蘊蓄を語る。特にオーダーがなければ適当に作る。まるで親戚のおばちゃんの家に遊びに行ったときのように、完全にこちらの注文を聞くわけでもなく、完全に言いなりなわけでもなく、とにかく腹一杯になるまで食わせてくれるスタイルだ。

こういうモンゴル式食べ放題(?)のお店を僕は知らないが、よくよく考えれば良いんじゃないかと思う。

居酒屋に行って誰かと飯を食うとき、何を食うかは大して重要ではない。むしろ選択をこちらに委ねられることで、ちょくちょくメニューをみて店員を呼びつけてオーダーをすることで話が中断されてしまい、フラストレーションの元になる。

たいていの大人は出てきた料理を美味しく食べるし、唐揚げにレモンがかかっていようがかかっていまいがどっちでもいい。ならば人とのコミュニケーションが主体である居酒屋においては、モンゴル式食べ放題はいいのではないか?

僕は料理が好きだが、毎日同じ料理を作るのは好きではない。モンゴル式食べ放題なら毎日同じメニューにする必要はないし、多少失敗しても許してもらえる。

ただ、代金の問題は生じる。少食の人も、大食いの人も同じ値段だと不公平感がある。かといっていちいち料金を設定し出すと、食べ放題ではなくなる。

そうなると解決策は1つ。料金を言い値にするのである。

食べ終わった客が、その日の料理のクオリティやボリューム、接客サービス、お店の雰囲気といった総合的な満足度から、自由に金額を選び支払う。全く自由となると戸惑うかもしれないので、不満なら1000円、普通なら2000円、満足なら3000円、大満足なら4000円といったざっくりとした基準だけを儲ける。その基準通りでもいいし、そうでなくてもいい。

これで不公平感はない。もちろん、そうなるとドリンクも飲み放題である。飲み放題にするなら、いっそセルフサービスにしてもいいかもしれない。ビールサーバーとサワーのサーバーを設置して、あとはウイスキーと焼酎と氷と水を置いておく。居酒屋のドリンクメニューなんてビールとサワーとウイスキーと焼酎だけで十分だろう。

そうなれば僕は好きに料理を作って、好きに料理を提供し、好きに会話に混じっていくだけ。とにかく好きなことだけできる。立ち飲み屋なら皿を下げてテーブルを拭く工程も最小限で済む。

最大の問題は、それで経営が成り立つのかどうか?だろう。もしかしたら苦しい状況になるかもしれない。ならば、経営状況をオープンにしてみるのはどうだろう。材料費と家賃と光熱費と人件費と売上を全て公開し、その数字が芳しくないなら、気に入ってくれている客の方は多少頑張ってくれるかもしれない。税務署にごまかしが効かなくなるのが難点ではあるものの、悪くないやり方だと思う。

それに、多少打算的に考えてみると、目の前に僕がいて、1000円札1枚出して帰るなんてなかなかできることではない。普通なら3000円くらいは出そうと思うだろう。それに、例えば後輩を1人連れてきて奢ろうとしたときに、1000円だけ出すのはみっともない。酒も入っているならば、2人分で5000円か、1万円くらい出してくれてもおかしくはない。

うん。なんとかなりそうだ。

屋号は決めてある。「イイネ」だ。もちろん「いいね」と「言い値」をかけていて、ミヤネ屋っぽい雰囲気もあって覚えやすい。そして「イイネ家行こう!」と言っても恥ずかしくない名前だ。

いい、居抜き物件はないものだろうか。週末だけやっている居酒屋が近所にあるのだが、間借りしてみようか。どうしようかな。

1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!