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なぜ仕事は不愉快なのか?

「ベーシック・インカムを配ると誰も働かなくなり社会が成り立たなくなる」という想定は、「社会を成り立たせる仕事は全て不愉快である(だから十分な金があるなら誰もやらない)」という想定がなければ生じ得ない。

なるほど、これには一理ある。僕自身も、職場で不愉快な思いをしたことは一度や二度では済まないし、サザエさんを見ているときには憂鬱な気分になる。ほとんどの人は同じだろう。

では、なぜ仕事は不愉快なのか?

仕事においては私たちが嫌悪している特定の作業をしなければならないから、というのが真っ先に思いつく理由である。

しかし、これは少し考えれば誤っていることがわかる。僕たちにとっていちご狩りは金を払ってでもやりたい心休まるレクリエーションだが、いちご農家にとっては仕事である。ある人にとってはトイレ掃除は苦痛だが、僕にとっては苦痛でもなんでもない。むしろ好きだ。ある人にとってピザを焼くことは仕事だが、僕にとっては休暇中の一幕である。大工仕事とDIY。漁師と釣り人。保育士と子ども好き。この手の例は枚挙にいとまがない。

要するに、作業Aは苦痛を伴う仕事であり、作業Bは楽しいだけの趣味‥というように分類できる客観的な基準は存在しない。特定の作業は嫌々取り組む仕事にもなるし、楽しみながら取り組む趣味にもなる。

となると、仕事を苦痛に感じる理由は、作業そのものの中にあるわけではない。ではなにか?

答えは明白である。金をもらうが故の責任とやらが存在することである。それはつまり、上司の命令を聞かなければならないことや、上司の嫌味に耐えなければならないこと、モンスタークライアントを相手にしなければならないこと、意味があるのかないのかよくわからないことをやらされること、他人に害を及ぼす場合でもノルマやら何やらのために嘘をつかなけらばならないこと、生活のために好きな時間で会社を去ることができないこと、などである。

逆に言えば、これらの要素を取り除いたとすれば、仕事は不愉快なものではなくなる。誰かに命令されることもなく、嫌味を言われることもなく、理不尽な要求に屈する必要もなく、意味があると感じることだけに取り組むことができ、他人に害を及ぼすことは控え、好きな時間にやめられる仕事なら、きっと楽しい。というか楽しくないわけがない。

BIを導入した世界がこれである。仕事で不愉快なことがあればいつでも辞められるのだから。誰もがそんな風に生きたなら、どうなるだろうか?

必要な技能を習得する前に、誰もがすぐ仕事を投げ出すようになり、一人前の大工が世界から消えるだろうか? いや、そうとは思えない。僕たちは壁を嫌悪することはなく、むしろ、壁を愛している。嫌悪しているのは失敗したときに文句を言ってくる上司やモンスタークライアントなのだ。何も言われないなら、失敗しようが、それでも意味のある壁を設定し、勝手に乗り越えていくのが普通だろう。

では、誰もトイレ掃除をしなくなるだろうか? その可能性もなくはないが、いつか誰かがやるだろう。どうせ退屈しているのだ。パスカルが言うように僕たちは部屋の中でじっとしていることはできないのだ。

業務効率化の議論も、この観点から議論した方がいい。僕たちは効率化を本当に望んでいるのだろうか? 釣り人はスーパーで魚を買う方が効率的だが、それは望ましいことなのか?

効率化とは、時間あたりの作業量を最大化する営みだ。時間あたりの作業量を最大化したい場面とは、実はそこまで多くはない。決められた時間内に何かをしなければならない必然性はそんなにないのだ。

生命はあらゆるものが過剰である。なぜなら、過剰でないのなら、少し何かが不足しただけで死ぬからだ。過剰を蓄積した結果、現代の人間たちは膨大な過剰を抱えている。となると普段は過剰な時間やカロリー、リソースを使い切ることのほうが重要であって、わざわざ効率化する必要はない。効率化とは、生命にとっては余計なお世話なのだ。

実際のところ、僕たち人間は有り余る過剰の大半を不愉快な労働に費やしている。そのくせ、作業そのものを不愉快なのだと思い込み、効率化を図ろうとする。だが、繰り返すが、作業そのものは不愉快でもなんでもなく、上司やモンスタークライアント、時間を縛られることなどが不愉快なのだ。ならば、効率化の必然性は消える。むしろ効率化は私たちを不幸にする。なぜなら、私たちを口うるさい上司に耐えながら時間あたりの生産性を最大化するような営みに私たちは全力投球しなければならないからだ。僕たちを幸せにするのは、不愉快な上司や無意味な仕事からいつでも逃げられるBIである。そうすれば今まで以上に、有意義な仕事に取り組むことができるはずだ。

公務員の友達がこんなことを言っていた。手紙を封筒に詰めて切手を貼るような作業をアウトソースして効率化(低賃金の奴隷に外注しただけなので効率化とは呼べないかもしれないが、そのツッコミは無視する)した結果、延々とクレーム処理する羽目になったと。今までなら時間がないのでクレームをあしらえたのが、クレーム処理の時間が確保できてしまったと。作業が減ることは良いこととは限らないのだ。

早くBIを。もう育休終わるじゃん。働きたくないよー。

1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!