受動的エンタメを楽しみ尽くせ
USJでハリーポッターのコスプレをしたり、『silent』を観たり、YouTubeでゲーム実況をダラダラ観たり、『ホグワーツ・レガシー』をプレイしたり、パズドラをやったり。楽しみ方を提示されてそれを受動的に消費するだけのエンタメは、隙間時間で楽しめる上に、一般的に低俗なものだとされている。
一方で、サックスを演奏したり、犬小屋をセルフビルドしたり、マドレーヌを手作りしたりするような能動性が求められる趣味は時間がかかり、比較的高尚なものとして受け止められている。
「有り余る余暇を手に入れた人類」といった話題になったとき、真っ先に人々の脳裏をよぎるのは前者だろう。要は、「人間なんて休みを与えてもどうせ低俗なことしかしない」と想定されているのだ。
その考えは正しいかもしれないし、正しくないかもしれない。しかし、週15時間労働を実現したとして、人々がアニメ『PSYCHO-PASS』を1期からみはじめようが、近所の耕作放棄地でトマトを育て始めようが、僕はどちらでも構わないと思っている。
そもそもなぜ僕たちは、受動的エンタメにばかり邁進していて、トマトを育てる人は少数派なのか?
デヴィッド・グレーバーは次のように説明する。
つまり、まとまった時間がないから受動的エンタメを選ばざるを得ないのだ。
「『ゲーム・オブ・スローンズ』を全シーズン観るのはかなり時間が要るんじゃないか?」という反論が真っ先に思い浮かびそうだが、ここではグレーバーは1時間区切りで観れてしまうということを指摘しているのだろう。逆に言えば、1時間以上のまとまった時間をとることは、僕たちにとって難しい。
『ホグワーツ・レガシー』が一部のユーザーに不評だったのもこの点だ。実際、30時間も40時間もかかるゲームをクリアするのはそこそこ難しい。なぜなら、ニーアオートマタのアニメを観たり、呪術廻戦の新刊をチェックしたりする時間も確保しなければならないからだ。
しかし、週15時間労働が実現したならどうだろうか。トマトを育てながらホグワーツ・レガシーをプレイし、同時に呪術廻戦をチェックするも容易くなるのではないだろうか。
残念ながら、世の多数派を占めるシニカルな現実主義者は次のように反論する。「PSYCHO-PASSのアニメとAmazonプライムを維持するためには、週40時間(かそれ以上)の労働が必要なのだから、余暇の追及など不可能だ」と。
この考え方をグレーバーは否定する。テクノロジーが発展したにもかかわらず、ケインズが予測した週15時間労働がなぜ実現していないのかという問いに、グレーバーは次のように応える。
つまり、週40時間以上の労働は、PSYCHO-PASSのアニメとAmazonプライムを維持するために行われているわけではなく、そうではない「あたらしい仕事」のために行われていると、ブルシット・ジョブ論の産みの親グレーバーは主張している。もちろん、この「あたらしい仕事」なるものがブルシット・ジョブなのだ。
問題は循環している。ブルシット・ジョブが増殖した結果、(テクノロジーの発展にもかかわらず)人々は長時間労働を強いられ、隙間時間で楽しめるエンタメを消費するほかなくなった。そして、エンタメを生み出すためにブルシット・ジョブは必要とされる(と想定されている)。
この構造は環境問題についてのシニカルな見方にも当てはまる。つまり、脱炭素を実現するには、ディズニーランドやネットフリックス、キャラメルフラペチーノを諦めなければならないが、そんなことを人々は望みはしない、というわけだ。実際のところは、地球環境は人々が望んですらないもののために破壊されている。破棄されるために作られた服とか食べ物とか、破棄される商品を運ぶトラック、ブルシット・ジョブのために作られたコンクリートのビル、ブルシット・ジョブのために走る自家用車や通勤電車などだ。
ここでも余暇の追及が解決策になり得る。環境問題を解決する手っ取り早い方法は、仕事を辞めることだ。
人々が受動的なエンタメに邁進したとして、そのために必要な労働はそこまで多くないし、それによって起こされる環境破壊もそこまで多くない(むしろ減る)と僕は思っている。ならば、受動的なエンタメの何が悪いのか? 好きなだけゲームオブスローンズを観ればいいのだ。
もちろん、トマトを育て始めたければそうすればいい。僕たちはどちらを選択することもできる。
余暇こそがすべてを救う。後先考えずに余暇を選ぶ。そのために僕はベーシックインカムを求めている。
残念ながら、人は休むことに対して異常なまでに怯える。明日食べるものも無くなるのではないか? 少年ジャンプが読めなくなるのではないか? 誰もがダラダラと酒を飲んで過ごすのではないか?
もしかしたらそうなるかもしれない。だが、多分そうはならない。1つの組織にフリーライダーなんてせいぜい1人か2人だ。必要なことは、みんなそこそこ真面目にやる。
それでも十分に時間は余る。余暇万歳だ。エンタメを楽しみ尽くそうぜ。
1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!