見出し画像

『AIが書いたAIについての本』を読んで

ChatGPTが登場したあたりで、誰かがそのうちやりそうなアイデアではあったが、思えば今まで見かけたことはなかった。AIが書いた本。

この本はSF映画のアトラクションとしてなら優れている。人工知能が僕に対して話しかけてきている。USJでETが僕の名前を呼んだ時のように、まるで映画の登場人物になったような気分になれた。

AIに関する入門書としても優れている。ベーシックなAIに関する知識を取り揃えていて、やはり池上彰的だった。

僕自身、数年前にAIに関する本をいくらか読んだものの「あ、AIって大したことないわ」と思って以来、しばらくAI関連の情報を摂取していなかった。そういう意味では、いい復習になって良かった。

だが、総括すれば、この本はセミナー屋の営業活動に過ぎなかった。

この本の著者はAIということになっているが、実質的にAIを使って本を書いたのはジェームズ・スキナーという経営コンサルタント。つまり、セミナー屋だ。

セミナー屋がAIを語る口調は決まっている。「何もせずいるならばAIによる自動化で即座に職を奪われるが、私のセミナーを受け、AIを活用する側にまわれば勝てる」というものだ。この本は、セールストークの前振りとして「AIはすごいぞ、こんなこともできるんだぞ! こんな本も書けちゃうんだぞ!!」と騒ぎ立てているだけの本だった。

まぁ、AI失業論には一理なくもない。AIはほとんどの場合、生産のためのテクノロジーではなく、搾取と支配のためのテクノロジーとして機能する。AIを活用する人材とは、神託を受ける神子のような存在であって、そのポジションをとれば失業するリスクは少ないかもしれない。

AIによって自動化される実質的な仕事はほとんどないと思われる。本の中の失業リストには農家や物流業者が挙げられていたが、AIがどうやってそれらの仕事を失業させるのか、僕には見当もつかないが、どうやら失業させられるらしい。というか、この本の中では製造業は既に情報革命で失業しているらしい。実際はグローバルサウスに仕事を押し付けただけだというのに。こういう言説は、実質的な仕事とはほとんど何も生み出していないとか、ロボットがやってるのと何も変わらないという、職業差別的な世論を形成するのに役立つ。そして、AIを使って搾取する側の権威を際立たせる。

そして、搾取側にまわろうとする人の横でジーパンを売ったリーバイスが一番儲けたように、AIで搾取側にまわりたい人の横でセミナーをするジェームズ・スキナーが一番儲ける。そういうことがやりたかったのだろう。この本を書く時どのようなインプットを与えたのかは知らないが、やたらとジェームズ・スキナーのイデオロギーが透けて見えた。

僕はもっとAIのピュアな、利害を抜きにした目線が知りたかった。もちろん、世の中のAIに関する言説はセミナー屋やら何やらが書いた利害に塗れた文章や、それを間に受けた意識高い系の文章ばかりなのだ。そんなものをインプットすれば、そりゃあそうなる。

AI周りはまだまだこれからも胡散臭いセミナー屋が跋扈することだろう。僕はAIが娘のオムツを替えてくれるようになったら、AIを褒め称えようと思う。

まぁ、とっ散らかったが、そんな感じの本。あんまり期待しない方がいいかもね。

1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!