ミックスナッツと後輩くん
「リアクション薄いって言われるんですよね」
と、会社の後輩が話していた。たしかに、彼は暖簾に腕押しを体現した人物で、会話に手応えを感じない。
ただ、解決策は単純だ。大袈裟にリアクションすること。それだけなのだが、どうにも抵抗があり、まるで自分を偽るかのような気分になるらしい。
ここで僕は彼の過ちに気づく。彼は自分の「真に自然な心理を表現する、真に自然なリアクション」とやらが存在すると思い込んでおり、それを偽ることは自然に反する行為であると思っているのだ。
実際はそのようなものは存在せず、リアクションとは単なる習慣に過ぎない。真に自然な心理なるものは、シナプスの中に存在せず、僕たちが想像する世界の中にしか存在しない。初めは不自然と思われるリアクションも、トレーニングを積んでいるうちに、自然なものとして感じられるようになっていくのだ。
板についたぶりっ子は、女に嫌われない。嫌われるのは、ぶりっ子のトレーニングが足りないからだ。
この歌を『SPY×FAMILY』の設定に媚びただけの薄っぺらいアニソンとして解釈してはならない。
これは、スパイが作った特殊な家庭に限った話ではなく、人間関係における「真の自己」とやらの不在を歌っている普遍的な歌なのだ。
そして‥
真の自己の不在を受け入れ、それでも僕とあなたがいるという事実だけを受け入れて生きかざるを得ない。そのことを宣言している。
僕たちは人間関係の網の中にある結び目に過ぎず、他者との関係性の中にしか自己は存在しない。ならば、ここに僕がいてあなたがいるという事実以上に、なにも必要ないのだ。
いい歌詞だ。そして、この日常はある種全てが偽りであるという不愉快な事実をはちゃめちゃなリズムの乱打としてぶちまけて、それを受け入れさせてくれるキャッチなメロディで表現している。ヒゲダンはいいバンドだよ、本当に。
(King Gnuとヒゲダンは同時に売れたけれど、King Gnuの歌詞は5分で書いたとしか思えないものばかりで、うんざりさせられる。歌詞を書くことに興味がないなら、作詞家呼んでこいマジで)
後輩くんのようにコミュニティーに悩む人には、ミックスナッツを聴かせるといいね。役者になるのだ。どうせ僕たちは既に役者なのだから。
1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!