見出し画像

選挙カーとかいう公害

そういえば統一地方選挙が近いらしく、近ごろ地元の政治家たちは浮き足立っている。駅前だけではなく家の近所にまで選挙カーがうろつき始めた。

もうすぐ娘が生まれることを思うと憂鬱だ。0歳児の寝かしつけをしたことのある人なら、選挙カーがどれだけ邪魔な存在か、理解できるだろう。長い抱っこと度重なる背中スイッチを乗り越えて、ようやく寝入った赤ん坊の寝顔を微笑ましく見つめながら、ようやくひと段落ついた瞬間に限って、選挙カーがやってくるのだ。寝かしつけにセーブポイントはない。初代スーパーマリオのように、また1-1からのスタートとなる。辛い。

その選挙カーが、子育て支援を謳っていたならお笑い種としか言いようがない。お前が真っ先に取り組める子育て支援は、その馬鹿みたいな騒音を止めることだというのに、これじゃただの子育て妨害だ。

その結果、僕の妻はいつも選挙カーがうるさくない政党に投票するらしい。そりゃあそうだ。

真面目な話、選挙カーに意味があるとは到底思えない。「バイトするならタウンワーク」みたいな連呼系CMは意味不明でもとりあえず効果があるのは理解できる。だが、選挙カーで名前を聞いたからと言って「お、投票しとくか」となるわけがない。

騒音と排気ガスを撒き散らすデメリットを補って余りあるほどのメリットがあるとは考えられないにもかかわらず、これまでそうだったからという理由で選挙カーを乗り回す政治家に、何かを変える力があるとは到底思えないわけだが、もちろん僕は「今の時代はSNS!」と叫びながら河野太郎を褒めちぎるようなことをしたいわけではない。なんと言っても僕は地方議員も国会議員も議員定数を10割削減すべきだと考えているタイプの人間なのだ。

まぁそんなことはこの際どうでもいい。とにかく僕は育休をとっている以上、これから産まれる娘を抱き、寝かしつけなければならないのだから、黙ってくれればそれでいい。

最近、人間が有袋類だったら、どんな暮らしになっていたかを想像している。奴らは抱っこ紐と授乳ケープが標準装備なのだ。選挙カーで妨害され、寝かしつけが失敗しても、袋の中でほったらかしにしておけばいつかは寝るのだから、正直カンガルーが羨ましい。

どうして人間には袋がないのだろうか? 進化に質問してみると答えは明白で、「あれよあれよといううちにそうなった」だ。

有胎盤類は、胎盤を通じて栄養を与えることで、ある程度成熟した子どもを産める一方、カンガルーは胎盤を持たないが故に未熟な子どもしか産めない。だから、産んだ後に袋の中で育てるというスタイルを採用した。しかし、胎盤を発達させたグループのうち、胎盤の機能を中途半端にしか使わなかった種があった。それが僕たち人間だ。

馬も、羊も、胎盤を有効活用して胎児を成熟させるので、生まれたての赤ん坊もしばらくすれば歩き始める。しかし僕たち人間は二足歩行に伴って産道を狭めつつ頭を大きくするという謎の進化を遂げた結果、胎盤の機能を使い切ることなく未熟な子どもを産む。

にもかかわらず、既にカンガルーのような袋はとうの昔に捨ててしまった。だから僕たちは場当たり的に社会性をやたらと育て上げ、社会で子どもを育てることにした。おっぱいが出る母親はたくさんの子どもにおっぱいをあげて、誰彼かまわず世話をした。子ども1人を育てるには村1つが必要という話があるが、実際そうなのだ。抱っこ紐や授乳ケープ、粉ミルクを発明しても、村を失った現代は、恐らく狩猟採集民より子育てがむずかしい。

颯爽と選挙カーに乗って登場した政治家や国家は、村の代替品になることに今のところ失敗している。複雑な官僚制によって、保育園から母親たちは締め出され、申し訳程度に支給される子ども手当は近所の世話好きのおばちゃん以上に助けになることはない。

もちろんデヴィッド・グレーバーが言うように、官僚制にも魅力はある。Gカップのグラビアアイドルが水着を着てはしゃぐDVDを購入したいとき、カウンターに金を置けば自動でそれが提供されるようなシステムが、この世から全く消えて無くなることは、僕だって望まない。当然、官僚制にも良し悪しがある。シンプルで分かりやすい官僚制を作るなら、それはそれで政治家のいい仕事だ。そうでないなら、相互扶助を育む地盤を整えたり、あるいは福祉国家を突き詰めて本当に村に成り代わったりしてもいい。

まぁきっと、選挙カーで公害を撒き散らす政治家たちにそんな変化を起こすことはできないだろう。選挙とかいう民主主義のアリバイづくりに付き合わされる僕たちは、テイルズオブアライズに登場する奴隷によく似ている。

彼らは支配者たちの権力争いのために、奴隷労働を強いられているのだが、選挙という税金の無駄遣いのために搾り取られる自分と重ね合わせずにはいられなかった。それでも奴隷たちはなかなか反乱を企てない。習慣って恐ろしいものだ。

選挙の時期になるとそんなことを考えてしまう。あー、嫌だ嫌だ。

1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!