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電車でなにがなんでも座りたい人のためのマニュアル

僕はとにかく電車で座る。1駅でも座る。0.7人分くらいのスペースしか空いていなくてもケツを捩じ込みながら座る。

1駅座るということは1駅分の体力が回復するということだ。そして、1駅立っていると1駅分の体力が減少する。

つまり、お気づきだろうか?

1駅座るか座らないかの選択によって2駅分の差が生まれるのである。土曜日出勤すれば仕事が1日増えるだけでなく休みが1日経るのと同じだ。なんということだろうか。神は世界にこんなに意地悪な悪戯を仕掛けているのだ。これを1駅のパラドックスと呼ぼう。

1駅のパラドックスの存在を知った今、座らないという選択肢があり得るだろうか? いや、あり得ない。

では、座るための極意を伝授しよう。


1.出入り口選び編

まず初めに伝えなければならない。座席取りゲームにおいて、電車に乗る前に9割は勝敗が決まっている。ボートレースが位置取りでほぼ勝敗が決まるように、座席取りゲームを決するのは位置取りである


■人の出入りを予測せよ

まず基本原則は人が少ないところを選ぶ。これは当たり前の話だろうが、イチローが毎日素振りを繰り返していたように、バカにはできない基本要素である。人が多いのは階段やエレベーターがある近くだ。ホームに出てすぐの出入り口で止まりがちな初心者がたまる可能性が高いだけではなく、階段やエレベーターの近くは電車から降りてくる人も多い傾向にある。つまり、乗り込みが遅れるのだ。絶対的に避けるべきである。

逆に空いている可能性が高いのは、階段を降りてすぐに折り返した死角だ。ぼーっとしながら階段を降りてくる初心者はそのまま直進する傾向にあるが少し視界を広げて折り返し位置を見てみると、実はかなり待機人数が少ないということがあり得る。特に階段の裏や柱の裏などは狭くなっている関係から、あまり人がたくさん並べないし、列がどう構成されているのかが判断しづらく、心理的に並びづらい。たくさんの人が並べないということは、ライバルが少ないということである。

だが、ここで注意しなければならないのは、座りやすさは決して人数だけでは決定されないということである。どういうことか?


■グループの後ろはスイートスポット

例えば、どの出入り口にも3人並んでいるとして、出入り口Aが3人とも知り合い同士で会話しており、出入り口Bは3人とも非知り合いでそれぞれスマホを眺めているとしよう。この場合どちらを選ぶべきだろうか?

答えは明白である。Aだ。

なぜか? 自分がグループで電車に乗ったときのことを思い浮かべれば簡単な話である。空席が1つあって、こちらは3人。誰か1人が座るのは忍びないので結局誰も座らないのが普通ではないだろうか。

つまり、Bを選んだ場合はギラギラと目を輝かせて空席を狙う3人を出し抜かねばならないのに対し、Aはモジモジと席の譲り合いをする3人組さえ出し抜けば済む。だからAを選ぶべきなのだ。知り合い同士の後ろに1人で並ぶプレッシャーや、その騒々しい印象から、素人はAを避けようとするが、実はAこそがスイートスポットなのである。


■周囲の車両選びを予測せよ

あなたが男性ならば、女専専用車の隣は避けなければならない。なぜならば、「あ、やべ女性専用車だ」と気づいた人が隣の車両に逃げ込むことで、隣の車両は通常以上の人員を抱えることになるからである(同様の理由から弱冷車の隣も可能な限り避けるべきである)。逆に女性専用車が「女性専用車ではない時間帯」は女性専用車を狙う。なぜなら、そのことに気づかずに男性が女性専用車を避けている可能性があるからである。

自分が待っている駅では均等に待機位置に並んでいたとしても、その前の駅、さらに前の駅で、各車両の人数にばらつきが生じている可能性はある。それを可能な限り予測しなければならない。

「せいぜい1人か2人の差なんだから意味ないだろう‥」と呆れたかもしれないが、肝に銘じて欲しい。1人分席が空くか空かないかの差だけであなたが座れるかどうかが決定されるのである。数%の積み重ねが運命を変えるのだ。


■車両の中央扉を選ぶ

1車両に扉が3つあるタイプなら、迷わず真ん中の扉の位置を選ぶべきだ。なぜか? 真ん中の扉はそもそも有利なのである。

図を見れば明らかだろう。

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扉A|エリア1|エリア2|扉B|エリア3|エリア4|扉C
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例えばこのようなタイプの電車で、扉A〜Cに均等に10人ずつ並んでいたとしよう。電車が止まってエリア1には扉Aから10人が殺到することになり、同様にエリア4にも扉Cから10人が殺到する。だが、エリア2とエリア3はどうだろうか? 扉Bの10人は平均して5人ずつ左右に分散される。つまり初めから有利なのだ。

また、真ん中の扉を選んだ場合、乗車時の座席の状況を見てから、左右どちらに進むかを判断できるという利点もある。

(扉Aの左側にも席があるタイプの電車の場合も、車椅子用のスペースのために座席数が少ないなど扉Aが不利な立場にあることは変わりない。また、優先座席をどう解釈すべきかは議論が分かれるが、ここでは通常の席と同列に扱う)


■列の右側に並ぶか、左側に並ぶか

例えば、直角に曲がりながら列を作るタイプの駅。これは必ず内角側に陣取るべきだ。その理由は図を見れば一目瞭然だろう。

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電車
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    〇●
〇〇〇〇〇●
●●●●●●

●の最後尾は8番目なのに対し、〇の最後尾は6番目である。同列にいるように見えて実は〇の方が圧倒的に優位なのだ。

もちろん、実際に電車が来た際には、列が崩壊してしまうケースもある。だが、繰り返すが数%の積み重ねが重要なのである。


2.乗り込み編

さて、場所選びを終え、電車がやってきたとき、あなたは虎視眈々と停車しようとする電車の空席を見つめているだろう。そして、「さっさと降りろ」と乗客を睨みつけているはずだ。それでいい。

乗り込み時に大切なことは、順番を抜かさないことと、降りてくる人を邪魔しないこと。そして「この人はどうあっても座りたいのだろう‥」などと悟られないことである。なぜなら、一度そのような好奇な目線で見つめられれば最後、その後の電車空間を楽しめないからである。

つまりマナー違反は控えるべきなのだ。マナーのギリギリを攻めて座りにいく。それがプロのあるべき姿である。

さて、それでは具体的にどのように振る舞うべきなのだろうか?


■周囲の動きを観察する

空席の位置を確認しいよいよ扉が開くとき。自分の前に並んでいる乗客がどの空席に収まるのかをある程度予測しておこう。

乗客の様子を観察してみるといい。明らかに座りたそうに前のめりになっている男は間違いなく座りにいく。ならば彼が座るであろう席をあなたが狙っても、すでに地の利を得ている彼に敵うことはない。つまり他の席を狙うべきである。

では、どこを狙うべきなのか?


■座り難きを座る

ここでも基本原則は変わらない。ライバルが少ない席を狙うのだ。例えばパーティ席の1番奥である。

席1|スペース|席2
席3|スペース|席4
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通路

JRにありがちなこのようなタイプの座席の場合。最初の人が席1に座ったとき、次に座る人は1人目に対面したくないという理由から席4に座る傾向にある。次の人は座りやすさから席3に座る。その状況で席2に座る人はほとんどいない。つまり通路から最も遠く、かつ人で囲われアクセスしづらい席2だけが、日本中の電車で無駄になっている。

だがプロは席2を見つけたとき、ニヤリとほくそ笑むのだ。少し足を伸ばし、「すみません」と一声かければ他の3人は座らせてくれる。なぜなら、その席を座りづらくしているのは紛れもなく彼らの責任であり、僕には一才の責任はないからである。座席に座ることは僕の権利である。それを不当に妨害される筋合いはない。

他にも、微妙に隙間を開けて座る乗客のせいで、0.7人分くらいしか空いていないスペースがある。これは強引にケツを捩じ込めばいいだろう。すると、彼らは少し詰めてくれる。繰り返すが、これば僕の当然の権利であり、詰めずに座っている人が悪いのである。


3.敗者復活編

さて、このようにして座席に座れたときはいい。だが、プロボウラーが毎回ストライクを出すとは限らないように、どれだけ周到に準備しても座れないときはある。だが、プロと素人の違いはそこから確実にスペアを取りに行けるかどうかである。

つまり、座れなかったとして、どこに立ち、いかにして1駅でも早く座るか、である。


■自分の縄張りは3人

当然だが、入り口付近で待機するような愚かな真似は避けよう。そんなところで待っていてもチャンスは一向に訪れない。待機すべきは座席の目の前である。

その際できるだけ足を広げ、自分の前の人物だけではなく、左右の2人分までが自分の縄張りであることを周囲にアピールしよう。そうすることであなたは3人のうち誰か1人でも降りれば座ることができる。もちろん、すぐ隣にライバルが立っているということもあり得る。その際はいかにして自分のテリトリーを確保すべきなのか?


■トルネードインを使いこなせ

自分の隣の人が立ち上がったとき。彼が立ち上がりかけている瞬間からもう勝負は始まっている。まず彼が立ち上がった瞬間には自分の体は吊り革を軸にして斜めに滑り込むような状況になければならない。彼を避ける素振りのまま、自然と回転しながら座席に滑り込むことで、ライバルを出し抜くのだ。このテクニックはトルネードインと呼ばれる、初心者が習得すべき基本技である。

トルネードインを使いこなすには、降りる気配を察知することである。カバンを肩にかけたとき。スマホをしまったとき。本を閉じたとき。イヤホンを外したとき。どれもミスリードである可能性があるため過信はできないが、肝に銘じていて損はない。


■グループの前は避けよ

乗車時は格好の餌食であったグループだが、一度乗り込んだ後は、隣り合って座る3人組の前で待機するのは愚策である。

なぜか? 彼らは同一の目的地を目指している可能性が高いからである。人1人が駅Aで降りる確率が仮に10%だとすれば、目の前の3人が他人同士だったならば駅Aであなたが座れる確率は27.1%となるが、グループで目的地が同じだった場合の確率は10%である。つまり、座れる確率が約3分の1に減少するのだ。


■降りる駅を予測せよ

他にも寝ている人、パソコンを操作している人、本を読んでいる人の前で待機するのは避けるべきだろう。安心して腰を落ち着けている人は、終点近くまで乗り続ける可能性が高く、そそくさと出ていくことは稀である。

また、相手が学生ならば制服などから降りる駅を予測できるし、スーツ姿のサラリーマンならビジネス街で降りることが予測できる。誰かのライブに来たような人なら、会場の駅だ。活用できる場面は限られるが、そのような考えも忘れずにいよう。


4.もっとも大切なこと

さて、これまでいかにして座るかを伝えてきたわけだが、最後に伝えなければならないことがある。


妊娠している方やお年寄り、体の不自由な方には席を譲ろう。


席は譲り合おうね。

1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!