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ほな漏らせっちゅうんかえ

いかにも平成初期に建てられた雰囲気の商業施設には、1〜2台のおむつ替え台とカーテンで区切られた1〜2席の授乳スペースがあるだけの、申し訳程度のベビールームが備え付けられていることが多い。

イオンモールの充実ぶりには遠く及ばない、その申し訳程度ののベビールームはたいてい、女性専用と書かれていたりする。

狭くて女性が威圧感を感じるからなのか? それともまだ男性の育児なんてほとんど認められていなかった平成初期にできた建物だからなのか? わからないがとにかく男は入れないらしい。


ほな漏らせっちゅうんかえ。


ベビールームの案内を頼りにエレベーターを乗り継いでやってきたというのに、おむつ替え台は使えないし、ミルクを調乳することもできない。はるばるログポースを辿ってグランドラインを一周したのに、ロードスター島にワンピースがなかったときのゴールド・ロジャーみたいな気分だ。


おしゃれブティックの前でウンコつきのオムツを替えてやろうか?


フードコートのど真ん中でウンコつきのオムツを替えてやろうか?


そんな気分で僕は堂々と女性専用の表示を無視して中に入る。どうせ寂れた商業施設なのだ。利用者はほとんどいない。

もし誰かに「女性専用ですよ?」なんて言われたらこう答えようと思っている。「女性ですよ?」と。僕は女性だ。生物学的な性別をその場でチェックすることはできない。ならば僕は心でもなく、体でもなく、女性になる。

とは言っても、まだそんなふうに言われたことはないが。

もちろん、中で女性がおっぱいをあげていたなら、仮にカーテンで仕切られているとはいえ遠慮するかもしれない。女性も緊張するし警戒するだろう。

だが、それでも切羽詰まっていたら入ると思う。女性が緊張するのと同じように、僕だって女性専用の部屋に入るのは緊張する。同じ気持ちだと思って許して欲しい。許してくれないと思うが。

まぁ、実際に授乳中の母親や女の子のオムツ替えをジロジロみて興奮する男も稀にはいるだろうから、気持ちは分からんでもない。都市で生きている以上、他者への恐怖が染み付いているわけだ。

とはいえ、こちらだって切羽詰まっているので、煙たがられようが何しようが入る。「女性専用」というのは、あくまで成文律に過ぎない。常に成文律は不文律に劣り、例外なく不文律は成文律に優先する。なぜなら、成文律を読み解くためには不文律が必要だからだ。

ベビールームの場合、僕は不文律を知らない。他の人もよく知らないと思う。だから僕には不文律を作る権利がある。「女性専用と書いているが、まぁやむを得ない場合もあるよね」という不文律だ。

というわけで、世の男性諸君もどんどん入ってオムツを替えてくれたまえ。やっているうちに女性たちも慣れてくれることだろう。

1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!