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右翼と左翼の交差点に立てる人に大きな価値がある【雑記】

現体制の中でスマートに生き残る方法についての本を書く人を右翼とし、現体制を破壊するための本を書く人を左翼とする。そうした目線で書店を眺めてみよう。右翼はわかりやすい本を書き、左翼はわかりにくい本を書いていることが即座に明らかになる。

歴史的に左翼はインテリであり、小難しいロジックをこねくり回す傾向にあった。マルクス。プルードン。クロポトキン。ポール・ラファルグ。ボブ・ブラック。ハキム・ベイ。大杉栄。小学生や中学生がお年玉を握りしめて、目を輝かせながらを彼らの本を書店のレジカウンターに置くシーンは、どうやっても思い浮かべることができない。

小学生や中学生に限った話ではない。入社3年目の悩める若手女子社員が『7つの習慣』を買う場面は想像できても、『資本論』や『貧困の哲学』『相互扶助論』を買うことはないだろう。するとどうなるか? 自分の人生が苦境にある理由を、彼女は自分の責任であると捉え、社会問題として解釈することはない。もちろん、その姿勢は個人の人生としてなんら間違ったことではないとは言え、誰もがそのような態度をとったとき、社会の変革は停滞する。まさしくいまはそのような状況にあるわけだ。

では、左翼の小難しい本を読む人はと言えば、象牙の塔で侃侃諤諤の議論を続けるラディカル気取りの学者たちか、カビ臭い古本屋の奥でたむろするインテリ気取りの大学生である。彼らが小難しい理論を理解したところでたいていの場合は無意味である。なぜなら「ふん、しょせん愚民にはこれは理解できまい‥」とマウンティングの材料に使われるだけであり、社会の変革など望むべくもないからだ。

これは執筆する側にも責任があるだろう。彼らは誰しもが理解できる言葉でなにかを伝えることよりも、自分がずば抜けた知能とレトリックのセンスを持つ思想家であると左翼仲間に納得させることの方を優先してしまった。全く伝える努力をしなかったわけではない。マルクスは労働者向けの本も書いてきたわけだし。しかし、その努力は資本主義社会で虎視眈々と利益を追求するマーケッターやコピーライターの足元にも及ばなかった。

人に伝えるテクニックは、商業の領域ではとてつもなく発展した。ビジネス書や自己啓発本の著者たちは即座にそれを取り入れた。しかし、左翼はそのテクニックを取り入れなかった。きっと資本主義的なテクニックを取り入れることを、彼らのプライドが許さなかったのではないだろうか。

それだけではない。

左翼に決定的に欠けている論点はもう1つある。それは人間のモチベーションに関する理論だ。人間がどのような場面でモチベーションが高まり、能力を発揮するかについての研究をリードしてきたのは、マルクス主義者ではない(彼らがその点についてどれほど無知であったかは、歴史を見れば明らかだろう)。それは常にビジネスコンサルタントマネジメント理論の研究者の仕事であった。

彼らは繰り返し指摘してきた。トップダウンのマネジメントのもとで働くよりも、自発的で、ボトムアップ的で、賞罰を抜きにした心理的安全性の高い職場で働く方が、人々の生産性が高まることを。人参をぶら下げるようにをちらつかせて人を動かそうとするなら、人のモチベーションがさがることを。だからこそ現代の先進的な経営者やマネージャーたちは、金や権力を振り翳したい欲望をグッと堪えて、ボトムアップ式の職場をデザインしようと躍起になって、成功したり、失敗したりする。

僕から言わせればこれは縛りプレイのようなものである。営利企業内の賃労働において、金や権力を骨抜きにしようとするのは、そもそも矛盾を感じてしまう。だったら、営利企業という仕組みや賃労働という仕組みそのものを疑いたくなるのが左翼の習性なのだが、ビジネスコンサルタントたちは決してその前提に疑いを向けることはない。

一方で左翼は、そもそもビジネスコンサルタントたちが蓄えてきた知見を有効活用しようなどとは思わない。マルクス主義者の書く本の参考文献にカーネギー『人を動かす』が列挙されている事態は想像しづらい。これも、広告宣伝と同様に、左翼のプライドが邪魔をしているのだと思われる。

しかし、明らかに人間のモチベーションに関する知見は、左翼が理想的な社会を想像するためにも有益であることは間違いない。ならばプライドをかなぐり捨てて、ビジネスコンサルタントに教えを乞うべきではないだろうか。

このように考えたとき、本当に社会を変革できるのがどのような人物なのかが、浮き彫りになる。スティーブ・ジョブズの「理系と文系の交差点に立てる人に大きな価値がある(※)」という言葉に習えば、次のように言えるだろう。


右翼と左翼の交差点に立てる人に大きな価値がある。


※厳密に言えば、エドウィン・ランドという人の言葉らしい。

資本主義が生み出した、広告宣伝やモチベーションに関するメソッドを、資本主義の破壊に向ける。その姿勢こそが、社会の変革に必要なのだ。

これを読んでいる人は、僕がどんな結論を下そうとしているのかが薄々理解できてきたと思う。僕は右翼と左翼の交差点に立とうとしている。

『14歳からのアンチワーク哲学』は社会を変革するための本だが、僕が意識高い系ビジネスマンだった頃に読んだ自己啓発書やビジネス書、マネジメント理論に関する知識もふんだんに取り入れた。その上で、これ以上ないほど噛み砕いて単純明快な本に仕上げた。そしてこれを広めるために資本主義が生み出した広告宣伝のメソッドを活用することになんの躊躇いもない。

思えば僕はいい時代に生まれた。僕が100年前に生きていたならレーニン主義者になって、内ゲバに終始していたかもしれない。しかし、左翼の屍が積み上がり、ビジネスコンサルタントが縛りプレイに躍起になっている時代に生まれた結果、僕は右翼左翼両方の利点と欠点を理解できた。両者の知見を取り入れるべきだという結論に到達できたのだ。これは21世紀を生きる人類だけに許された特権である。

さて、そうとわかれば革命だ。着々と準備は進んでいる。資本主義が生み出した弾丸を、資本主義に向かってぶっ放す日は近い。

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