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世界は「名前のない仕事」でできている

ここにも書いたけれど、「AIが仕事を奪う!」という危機感ばかりが煽られているのも虚しく、実際のところテクノロジーの歩みは重要なポイントを何ひとつ飛び越えることなく、テクノロジー進化論者は未だにAIが囲碁棋士に勝ったという賞味期限切れの武勇伝を語り続けている。

2023年になってもウクライナにはターミネーターの大軍ではなく、AK-47で武装した古臭い兵士たちが進行している。そこに第二次世界大戦を戦った兵士が紛れ込んでも何の違和感もないだろう。

華々しく宣伝されるテクノロジーの進歩といえば、初代PSのクラッシュバンディクーのような解像度でプレイするメタバースとか、不法移民以外の誰が必要としているのかよくわからないブロックチェーン、詐欺商品のNFT、人々を不安に駆り立てるくらいしか役に立たないゲノム編集技術、セキュリティを破壊する不安ばかりが煽られる量子コンピューターなどである(もちろん僕はこういうものを発明している人を攻撃する意思はない。ただ、必要以上に持ち上げられることに違和感があるだけだ)。

最近、僕たちの暮らしを多少なりとも変えたように見えるのは、自動レジくらいだろうか(5Gは僕たちの暮らしをガラッと変えるはずだったんだけど、もう無かったことになってるし)。アメリカではAmazon Goみたいなものも始まっていて少し先をいっているように見える。

だが、残念ながらあんなものはイノベーションでも何でもない。とっくの昔からあるものを、わざわざ小難しく作り直しているものなのだ。

Amazon Goの設備投資費用と万引きによる損失、どっちが大きいだろうか。

「空飛ぶ車が欲しい」みたいなことをピーター・ティールは言ったらしいけど、僕はそれすらも別にヘリコプターと大差ないと思っている。それに、わざわざ飛んでまでどこに行きたいと言うのだろうか?

もっとこう、未来が見たいのだよ。可愛がられるしか能のないロボットではない、畑仕事や洗濯ができるロボットとか。『ニューロマンサー』のように感覚ごとジャックインできる電脳世界とか。どこでもドアとか。タイムマシンとか。人工冬眠とか。

最近はAIが絵を描けるようになってきた。文章も書けるようになってきた。Midjourneyとか、ChatGPTとか、あれはあれで面白いけれど、面白いだけで、生活を大きく変えるほどではない。きゃっきゃする分にはいいけど、あれはあくまでオモチャに過ぎない。

『ハートギア』という漫画では、AIが意識を持つきっかけに「エモーションコード」なるものの発見があった。残念ながら、現実世界でエモーションコードは発見されそうにない(まるでもうすぐ発見されるかのようにAIの進化は喧伝されているが)。最近は「汎用AIが完成しなくても、チューリングテストクリアすればシンギュラリティってことでOK」みたいな風潮もあるが、僕は景品表示法違反だと思う。それっぽいことをペラペラと話すだけの胡散臭い広告営業みたいなマシンに何の価値があるのか?

イノベーションは起きていない。洗濯機や電子レンジほどに僕たちの暮らしを変えてくれるポテンシャルが、ゲノム編集技術や量子コンピューター、ブロックチェーンにあるだろうか。

自動運転には多少は期待できる。それでもドライバーは運転だけをしているわけではない。検品したり、荷積みや荷下ろしをしたり、雨が降ったらカバーをかけたり、荷物の状態を見て積み替えたり、トラックの窓を磨いたり、エンジンオイルの調子を見たり、配達のついでに請求書を持って行ったりする。「名前のない家事」ならぬ、「名前のない仕事」て埋め尽くされているのだ。

ロボットやプログラミングで効率化すれば、すべての労働が自動化されるわけではない。スプレッドシートをいじいじする仕事は効率化できても、「名前のない仕事」はほぼ何もできない。配膳ロボットが登場すればウェイターは要らないなんてことはない。テーブルを拭きあげたり、薬味を補充したり、子ども連れの客を察知して子ども用の食器を用意したり、テーブルの下のゴミを拾ったり、お冷を継ぎ足したり(会話に文字通り水を差すのを控えて継ぎ足さなかったり)、「名前のない仕事」は無数にある。配膳など仕事のごく一部に過ぎないのだ。

他人の仕事を単純化する傾向は、誰にだってみられる。「配膳するだけやろ?ロボットでもできるやん?」というわけだ。できるわけがない。

一方で自分の仕事が自動化できると考える人は少ない。「名前のない仕事」の複雑さを知っているからだ。

もっと「名前のない仕事」が注目されるべきだと思う。エッセンシャルワーカーはもとより、ブルシットジョブですら「名前のない仕事」が含まれるはずだ。例えばAIに仕事を奪われる論で最初に脱落すると想定される経理職のような仕事ですら、領収書を持ってこない社員をつついたり、会計ソフトへの入力方法をレクチャーしたり、入金が滞ったクライアントに催促したり、色々あると思う(たいして思いつかなかった。経理やったことある人は教えて欲しい)。

AIが進化したら、一握りのクリエイティブな人以外はTwitterでレスバトルするくらいしかやることがないと、この動画で宇野常寛が言っていた。

そんなわけあるかいな。

宇野常寛のメガネを作る人はもちろん、箱に詰めたり、トラックで運んだり、店に並べたりするクリエイティブじゃない仕事をする人がいて、初めて宇野はTwitterを眺められるのだ。その人たちが仕事をせずにAIに全て丸投げすれば、彼は近視でTwitterを眺めるどころではなくなる。

もうね。そろそろそういう話するのはやめといて、現実を見よう。

世界は「名前のない仕事」でできている。山田孝之のCMはさっさとセリフを変更するといいよ。

1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!