ONE PIECE1056話から見える尾田栄一郎のアナキスト性

ONE PIECE 1056話に逆懸賞金という概念が登場した。これまで世界政府や海軍が一方的に海賊などの犯罪者に対して懸賞金をかけていたのに対し、海賊であるバギーとクロコダイルとミホークによる組織「クロスギルド」が逆に海軍に懸賞金をかけはじめたのだ。

これはありとあらゆる考察が飛び交うワンピース考察会においても、一切予測されてこなかった展開だ。

国民国家である日本国の支配の元に暮らす僕たちは、政府や海軍という権力が当たり前に存在し、海賊は追われる身であるという価値観を、疑うことができない。逆懸賞金は、国家の存在を相対化するアナキスト的な発想だ。

ギルドという言葉には単に同業者組合という意味合いだけではなく、王政を拒否して自治都市を形成していった反国家的な意味合いも込められている。その側面に注目しなければ、逆懸賞金というアイデアには辿り着かないはずだ。尾田栄一郎の発想は、完全にアナキストのそれである。

逆懸賞金をかけるということは、「世界政府と我々は対等である」という意思表示でもある。ならば、最終的にバギーは独自通貨の発行に取り組むのではないかと、僕は考えている。

世界政府には徴税権もあれば、恐らく通貨発行権もある。そのため懸賞金の支払いで財政破綻することはあり得ない。ところがバギーはベリーという通貨の通貨発行権は持たない。対等を名乗るなら、最終的に独自通貨の発行が伴わなければならないだろう。

恐らくこれ自体は、そこまで難しいことではないように思える。暴力を背景に独自通貨による徴税を宣言すれば、独自通貨は独自通貨たりうる。

現代社会では国家はインフラ整備や教育などの様々なシステムを構築していてそれに代替するのは難しいだろうが、恐らくあの世界の政府の役割はもっぱら防衛であって、インフラ整備も、教育も提供していない。ならば、暴力装置と徴税システムさえあれば、誰しも国家を名乗れる。

実際、ビッグマムやアーロンなんかは、国家と呼んでも差し支えないような徴税システムを導入していた。彼らはある意味で世界政府のシステムの内側で権力を発揮しているが、彼らでも十分に独自通貨発行は可能だっただろう。ただ、単にその発想がなかったに過ぎない。

海賊の歴史とは、アナキストの歴史でもある。歴史上、海賊は独自の秩序と国家を築いた。この歴史を尾田栄一郎が知らないとは思えない。

とは言え、ONE PIECEという少年漫画が、国家や権力、貨幣に対する哲学的考察に塗れてしまえば、興醒めだ。そこでルフィの出番だろう。

バギーは反国家的でありながらも、結局は新しい国家を建設する営みに帰着するだろう。ミイラ取りがミイラになるわけだ。

一方でルフィは、あらゆる形態の支配をも拒否する。ONE PIECEという物語の最後には、世界政府が倒れ、クロスギルドによる支配が倒れ、国家権力のない自由な世界が実現するはずだ。

もしかすると、その時には貨幣の存在も消えているかもしれない。貨幣は権力そのものなのだから、権力を嫌うルフィが願う新時代には似合わない。

ますますONE PIECEという物語が楽しみになってきたよ。

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