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一生読まない本への愛を語る2 〜眠れぬ夜の招かれざる客編〜

人生は色んな人の影響があるとは言え、大抵の人は最終的な責任の所在を自分であると考える。自分で選択したからこうなった、と。

だからこそ「お前のせいだ」と言われると、そうではないと分かっていても、正直ドキッとしてしまう。

この本にはそんなパワーが秘められているように感じる。

怖い。単純に怖い。

ぜったいに金子文子が獄中にぶち込まれたことは僕のせいではない。なんと言っても、彼女は僕が生まれる前に死んでいるし。それでも、なんかだか後ろめたい気持ちにさせられる。

金子文子はアナキストで、そういう意味では僕は共感できる部分はあるはずだ。でも、怖いものは怖い。「一番綺麗な私を抱いたのはあなたでしょう?」(中島美嘉『一番綺麗な私を』)に似た執念を感じて仕方がない。

岩波文庫のコーナーに行くたびに、僕は金子文子に見られているような感覚に陥る。幸い、この本は『方法序説』や『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』ほどに有名なわけではないので、恐る恐る棚を眺めても、そこには金子文子がいないことの方が多い。それでも恐怖は消えない。パノプティコンが看守を必要としないように、岩波文庫のコーナーが罪悪感を味わわせるためには、本物の金子文子は必要ないのだ。

こんな恐ろしい本を読むことはきっと一生ない。それでも僕は岩波文庫のコーナーを訪れれば、この本を探さずにはいられない。「よかった。見られていない‥」と安堵するためだ。もちろんその安堵は心の底からの安堵ではない。恐る恐る預金通帳を眺めてみて今月の支払いに支障がないことが明らかであり一旦は安堵したとしても、すぐさま来月の恐怖がやってくるのと同じである。

きっと、いつか絶版になったとしても変わらないのだと思う。いっそ読めば、僕が責められているわけではないことがわかり、安心できるかもしれない。

‥いや、きっとできない。行間に潜む悪魔が、僕をチクチクと攻撃してくるはずだ。決して僕が責められているわけではないことを確信することはできないだろう。

僕は子どもが言うことを聞かないとき、「早く寝ないとお化けがくるぞ」と脅しをかけることがあるが、その脅しは意味をなさないことの方が多い。これからはこんな風に言えばいいのかもしれない。

「早く寝ないと、金子文子が来るぞ」と。

僕に言うことを聞かせたければ、それが一番有効なのかもしれない。


トントントントン‥。

おや、ノックの音がする。

誰か来たようなので、それでは失礼させていただくとしよう。明日もnote頑張って更新するぞー。

1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!