自然派SFはなぜ存在しないのか?

たいたいのSFは、メガシティ・管理社会系か、核戦争やらなにかで文明が滅んだ後のポストアポカリプス系だ。順当に文明が進歩しながら自然と共生し、人々が音楽と日曜大工と家庭菜園に満ち溢れた余暇を楽しむタイプのSFは見たことがない。もしかしたら存在するのかもしれないけれど、でも僕は知らない。

きっと僕たちの想像力の限界なのだろう。そのような牧歌的な社会でテクノロジーが発展するだなんて、僕たちは考えられなくなった。逆に、もしテクノロジーが発展するとすれば、資本主義を加速した先にしかなく、それは都市化と管理社会化を伴うものであると、僕たちはついつい考えてしまう。

もしかすると、今の時代には自然派SFが必要なのかもしれない。

もちろん、「自然との共存」なんて、テーマとしては馬鹿げている。それは程度の問題でしかないさらだ。僕たちは自然と共存しなければそもそも生きられない。ターシャ・テューダーも自然と共生しているし、与沢翼も自然と共生している。

「どんな生き方が自然か?」というテーマも無意味だ。地球は生命がDIYしてきた惑星なのだから人新生も自然だと言い張ることも可能だし、そうではないと言い張ることもできる。この議論に人類がどれだけ時間を無駄にしてきたかは知らないが、そもそも「自然」とは人間の設定したカテゴリーであって、そんなものは存在しない以上、問いそのものがナンセンスと言わざるを得ない。

ならばここで問われるべきは「どんな生き方や、どんな生き方ができる社会が、僕にとって望ましいか?」だ。それをテーマにしたSFが今の時代に必要だ。

これは単純ではないけれど、多くの人は、ブラック労働も、児童労働も、残酷な工場畜産も、その現場を目の当たりにするならば、肯定はできないはずだ。みんなが幸せならいいよね?と聞いて反論する人類は存在するとは思えない(それは不可能だ、という反論を除いて)。

残念ながら囚人のジレンマ的な市場の論理が世界を覆い尽くした今、そのようなオーガニックでスピリチュアルな発想は許されない。

いや、辛うじて許されている。平飼い卵とオーガニックの野菜、グラスフェッドビーフを売れば良いのだ。もちろんそれを売るには広告を垂れ流す必要がある(物を売る方法は、大量生産するか、広告でブランディングするかという、ゴミみたいな2択しかない)。

大量生産品を買おうとしなければ、消費者の食費は倍以上に嵩む。SDGsっていうのは、そんな消費行動を続けながら教育資金と老後資金を貯めるという曲芸を、僕たちに要求している。それでいて、労働者を搾取せずに、自然環境を守りながら、会社を成長させろだと?

残念ながら平飼い卵を買い続ける資金を貯めるには、倉庫作業員を最低賃金以下で働かせるしかないね! 借金まみれの農民が生産した綿花を叩き買いするのもいいね!

‥ということになる。ビルゲイツは慈善活動を行う原資を貯めるために、特許権で世界の発明を囲い込み、テクノロジーの発展を阻害した。今の社会システムでは、結局どこかで金を稼ぐという悪行に手を染めなければならないわけで、つまるところこの先に自然派SFなんて思い描きようがないのだ。

僕は金を稼ぐことは根本的には悪だと思っている。多くの人は、金を稼いでいるということは、それだけ役に立っているという前提で話を進める。つまり、ジェフベゾスが国家予算レベルの金を持っているのは「本人の才能や努力の賜物であり、彼はそれだけ世界に貢献している」ということになる。

無論、そんなわけがない。彼の給料は政治で決まる。別に彼は倉庫労働者に倍の給料を支払って、月に行くのを諦めることだってできるのに、そうしないのは、彼が頑張って働いているからではなくて、政治の問題だ。それに、そもそもAmazonなんてたいしたサービスではない。

成田悠輔は格差拡大をすすめろ!という全くもってデータに基づかない暴論を吐いていたが(じゃあ、レソト人とボツワナ人は幸せで金持ちでフィンランド人とスウェーデン人は不幸で貧乏なの?)、それも「金=役に立っている」の前提に立っているから出てくる言葉だ。

こうやって考えていると、自然派SFの世界を実現するには、金を引っこ抜くしかないように思う。つまり金のない社会を作るのだ。資本の投下は確かにテクノロジーの発展には重要だっかもしれないけれど、知らんが衣食住さえ補償しておけばニュートンはピリンキピアを書いたろうし、烏合の衆が集まってLinuxは作れたわけじゃん。資本主義はテクノロジーの発展を阻害しているという意見もあるわけだし、なんとかなるんでないの?

結論、自然派SFの世界には、貨幣経済は存在しない。貨幣経済が存在しない社会を思い描けない以上(どんなファンタジーゲームだとしても、お金が登場しない物を見つけるのは難しい)、僕たちは自然派SFを思いつくことができなかった。

今ならできる。誰か、作ってくれー。

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