見出し画像

シーソーシークワーサー Ⅱ【 70 名もなき雑踏 】

【シーソーシークワサーⅠのあらすじ】

 母を亡くし、その孤独感から、全てを捨てて沖縄から出た凡人(ボンド)こと、元のホストの春未(はるみ)。

 一番に連絡をとったのは、東京の出版社に勤める絢だった。

 絢に会うまでの道のり、人々との出会いで得たことは何だったのだろう。島に帰った凡人は、母亡き後の、半年間時が止まっていた空間に佇みながら、生い立ちを振り返っていた。

 生前の凡人の母、那月は凡人を守って生き抜くために、様々な選択をする。

 沖縄から遠く離れた本土の片田舎で育った凡人の母、那月。母の重圧に耐えかね、家を出た。家出少女を何も聞かずに受け入れたMasaとその妻、順子。Masaは那月に3ヶ月で売り上げを3倍にすることを条件に、次の日から衣食住の提供と引き換えに那月を自分の古着屋で働かせる。

 その店に決まって現れる女とMasaの関係に気づいた那月。それ以外は満たされた労働環境のはずだった。店を出る決意をした那月は……


Ⅱ【70 名もなき雑踏】

 完全な理想に合う人間は、この世に存在しない。出会ったと思っても、それは一瞬の幻で、単なる期待に過ぎず、あとは減点方式で自動的に欠けた部分さえ愛おしいと思えるか、許せないと思うかである。

 自身の描いた完全な理想のさえ、揺らいでいくもの。自身がそうなるか、それとも70点くらいの大人になることで満足するか、だ。それでもその70点は自分自身でつけたもの。どこまでいっても自分だけは自分に付き纏う。いつまで経ってもその答えは出ない。

ここから先は

767字

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?