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シーソーシークワーサー Ⅱ【 71 ニセモノのホンモノ】

【シーソーシークワサーⅠのあらすじ】

 母を亡くし、その孤独感から、全てを捨てて沖縄から出た凡人(ボンド)こと、元のホストの春未(はるみ)。

 一番に連絡をとったのは、東京の出版社に勤める絢だった。

 絢に会うまでの道のり、人々との出会いで得たことは何だったのだろう。島に帰った凡人は、母亡き後の、半年間時が止まっていた空間に佇みながら、生い立ちを振り返っていた。

 生前の凡人の母、那月は凡人を守って生き抜くために、様々な選択をする。

 沖縄から遠く離れた本土の片田舎で育った凡人の母、那月。母の重圧に耐えかね、家を出た。家出少女を何も聞かずに受け入れたMasaとその妻、順子。Masaは那月に3ヶ月で売り上げを3倍にすることを条件に、次の日から衣食住の提供と引き換えに那月を自分の古着屋で働かせる。

 その店に決まって現れる女とMasaの関係に気づいた那月。それ以外は満たされた労働環境のはずだった。店を出る決意をした那月が生きる術として選んだのは……


Ⅱ【71ニセモノのホンモノ】

 男と別れたのはいやに暑い日だった。大阪駅に行けばそれからはなんとかなると一歩踏み出した那月の足元は、コンバースの靴だった。「これからはコレが定番になるからとMasaがくれたものだった。古着屋を営むMasaのその仕入れは「ピンときた」という感覚に頼ったもので、その頃の那月にはまだ理解できないものだった。

 こんにちは〜こんにちは〜、と、どこかから聞こえてくる有線放送の曲が、大阪万博を名残惜しく歌っていた。あの家のテレビやラジオからも聞こえていた歌だ。Masaは毎日、新聞という新聞を読んだ後、妻の順子には世の中で起きているあらましを調子よく語り、そして、素知らぬ顔で、定期的に水曜の女に会い、澄ました顔で家に戻った。

 昨日まで当たり前のようにあったその風景がその裏底がすり減ったスニーカーを履いた景色で見ることで、一歩進むごとに反芻する。昨夜の雨が作っていた水たまりは、水をじゅうっと靴下まで染み込ませ、那月にコンバースの限界値を悟らせた。

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