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シーソーシークワーサー Ⅱ【59 うつくしさのうら】

【シーソーシークワサーⅠのあらすじ】

 母を亡くし、その孤独感から、全てを捨てて沖縄から出た凡人(ボンド)こと、元のホストの春未(はるみ)。

 一番に連絡をとったのは、東京の出版社に勤める絢だった。

 絢に会うまでの道のり、人々との出会いで得たことは何だったのだろう。島に帰った凡人は、母亡き後の、半年間時が止まっていた空間に佇みながら、生い立ちを振り返っていた。

 生前の凡人の母、那月は凡人を守って生き抜くためにある決断をしていたのだが……


Ⅱ【59 うつくしさのうら 】


 絵に描いたような家族の温かさは、湿気を含んでいた。時にその絵から放たれる湿度は高く、胎をえぐるような痛みを連れてやってくる。

 Masaに連れられるまま地下鉄に乗り、3駅ほど行った先の、5番出口で、彼の伴侶が傘を携えて出迎えてくれた。

 美しい。「うつくしい」という言葉が彼女のためにあるような整った女性が、微笑んでいる。

「マサから聞いています。少しの間、いえ、気のすむまで家にいてくださいね」

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