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にゃー

僕は幼い時、猫を飼っていました。
大福と名付け、ずっと一緒にいました。
僕は友達が少なかったので、学校が終わると大福に今日あったことをお話しするのが日課でした。
大福はずっと僕のお膝に乗ってたまににゃーと返事をしてくれました。言語なんて関係のない、強い絆で繋がっていました。
弟のようで、兄のようでした。

ある時、物知りの高村くんから猫はどんな高さから落ちても無傷で着地するということを聞きました。スーパーマンみたいだと思いました。
大福がそんな秘めた能力を持っているのが凄く誇らしくて、嬉しかったのを今でも覚えています。
その日は走ってお家に帰りました。
お母さんはパートに行ってたので渡された鍵をランドセルから乱暴に取り出し、鍵穴にほじくるように嵌めました。
玄関を開け、出迎えてくれた大福をお前って
すげーな!ってわしゃわしゃしました。
嫌がって逃げてく大福を掴み、僕の頭上から落とすと大福は華麗に着地しました。
かっけー!って思いました。
もう一度捕まえ、テーブルに登り、そこから落としました。
音の無い着地をみて、スーパーマンてよりスパイダーマンだな大福は!って言いました。
嫌がる大福をもう一度掴み、今度はベランダに出ました。
八階のベランダから落としました。
ぐちゃ。
下の方で鈍い音が聞こえました。
下を覗くと、大福はずっと横になっていました。
あれ?って思いました。1階まで走りました。
カラスが1羽、大福を突いていました。
大福は潰れていました。
僕は自分のしてしまったことを理解しました。
今更理解したところで、変わらないのに理解をしました。
後悔したところで、変わらないのに後悔をしました。
罪をどこかになすりつけようとしました。
「でも」「いや」「違う」「仕方ない」
粘り着く罪が首を締め涙が出ました。
殺したのに泣きました。
カラスを追い払いました。
助けたつもりになりたくて。
家族を殺しました。幸せを殺しました。素直を殺しました。信頼を殺しました。思い出を殺しました。喜びを殺しました。意味を殺しました。高いところからパッと手を離し、全てが無くなりました。簡単に無くせました。あの時の罪が僕を苦しめます。ずっと贖罪したかったです。逃げていました。ごめんなさい。その手を離してください。僕も落ちて潰れたい。逃げた先で1人で落ちる。誰の罪にもならないように。
ぐちゃ。


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