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同人誌の発行部数を考える

考えます。
これは同人誌(とくに二次創作同人誌)を作ろうとしている人以外には何の役にも立たない記事ですし、該当者にも特に役に立たない記事の可能性がまあありますが、書きます。

いうまでもないですがこれは私個人のごく私的な考えかたですが、自分なりの考えを作るにあたって他人の考えかたがサンプルの一つになることもあるだろう、ということでかいてます。

同人誌、どのくらい刷ればいいのかわからないですよね。
というか人の書いた同人誌は買うけれど、値札すら見ずに買うけれど、自分が書いた本って物理的に存在させる必要がそもそもあるのか? 架空の人物の架空のあれそれを妄想して書き留めた本を物理にする、これはある種の狂いでは? 資源の無駄では? と思ってしまう気持ちも理解します。
とりあえず自分が現物見てみたいだけだし3冊あればいいや、みたいに思うの、本当に、わかります。

で、わかったうえで言えることとしては「同人誌は唐揚げと思え」ってことです。


唐揚げの話

ちょっと想像してほしいです。あなたがなんらかの理由で小学生の群れとか食べ盛りの中高生やらを5、6人もてなさなければならないという事態になったとしましょう
「残りが出ないようにほどほど、ぎりぎりの量だけ用意しておこう」って思います? 思うならもう言うことはない、帰れ
おそらくですが、ネットなどで調べて米6合くらいあれば足りそうと思っても念の為に8合くらい用意するし唐揚げも想定量の1.5倍は作るでしょう。あまったなら別にその後自分で食べるなり冷凍するなりお土産に持たせるなりすればいいし。

即売会にやってくるのは小学生の群れとか食べ盛りの中高生やらだと思ってくれていいです。少なめに用意しておいてきれいに完食されたよかったよかった、というのは、実はハッピーエンドではなくノーマルエンドです。もっと食べたかったのにと思っていた子供がおそらくいたのです。全員満腹、そして若干あまるくらいの状態がトゥルーエンドです。
発行部数も同じことが言えましょう。あっというまになくなった、というのは、実は入手し損ねた人がいるという状態です。(むろん数ヶ月かけて売り切るなら全然別の話です)

冊数と印刷費は、実は比例関係ではない

さてコンビニなどにあるコピー機、これは何枚刷っても一枚あたりの単価が同じです。だからどれだけの数用意するのか、というのが完全に「必要なだけの数」となります。
ただ、同人誌の印刷の場合、冊数と印刷費は比例関係にはありません。なので一旦「必要な数だけ刷る」という考えを外して考えてみるのをおすすめします。

ここで小部数発行に強い有名印刷所、ちょこっ都製本工房(評論ジャンルや文学フリマの本、マジでほぼほぼここの印刷)の自動見積もり機能をスクショしつつご説明しましょう。

表紙フルカラーA5サイズ、34ページのゆとり納期を10冊、として見積もりしてみましょう。

安いなあ

はい出ました。実際ここに送料もかかってきますがとりあえずそこは無視で。
次におなじ仕様で、50冊刷ってみましょうか。

やっぱり安い

はい出ました。部数は5倍になっているのに、印刷費は2.7倍です。この「いっぱい刷ってるのに印刷費の上がり方が緩やかになる現象」は1000部あたりまで顕著に現れます。

つまりどういうことだってばよ

ここで3つの考え方をとることができます。

  1. 印刷費がどうとかはわかった、でもそれはそれで絶対に捌き切れる必要数しか刷りたくない

  2. なんか印刷費のあれ見てたらうまいことしたくなってきた、からあげを全員に行き渡らせたい

  3. もっとうまいことしたくなってきた

1の方はそれで良いと思います。同人誌の印刷なんて個人の趣味なのでやりたいようにやれば良いのです。印刷費として出しても許せる金額ってのも人それぞれだし。

で、ここから。実際に計算式のせるとけっこうややこしくなるので各自スプレッドシートなどで計算してみてほしいのですが、昨今の発行部数を決める際の多数派の考え方として、こんなかんじのあれがあれだそうです。(ぼやぼやした言い方だなあ)

  1. この部数ならどう少なく見積もってもかなりの確率ではける、という部数を出す

  2. 発行部数の半分が捌ければ印刷費が回収できる売値にする

ちょっとだけ例を言うと、たとえばジャンル内の人口や自分の知名度などで考えて、まあ、10部はいけるかな……と思ったら、10部売れれば印刷費を回収できるような金額設定にします。

例。一部400円にするなら10部で4000円の売り上げ。で、4000円の印刷費だと、30部刷れるな……? じゃあ単価300円にしてみよう、これだと20部刷れるな……これなら10部あまったとしても赤字にはならないし、現場で自分の予想以上に売れても手元に予想の倍持ってたわけだし、みたいな。そういう単価計算と調整をスプレッドシートでちまちまやってみましょう。

これで「いや私の本の需要は10あればむしろ余る」と10部だけ刷って行くと、予想外に現場であっというまになくなってしまい、早々とイベント会場で「完売しました」の札を下げることになる可能性がそれなりにあります。

それはそれで良いことではあるんですが、「たっぷり刷ったのになくなった」と「チキったうえビビって小部数にしたらすぐなくなった」だと会場での精神状態が全然違います。マジで違います、しっかり準備したうえでなくなったのと「まあこんなもんだろ」でなくなるのマジで違う。

とはいえそういうやらかしてしまったという記憶は自分で一度味わうべきかもしれない……年長者のお説教ですねこんなもの……すまんな……年長者はお説教をしたい生き物なんじゃよ……

とりあえず、「必要部数=発行部数」ではない、という考え方があるということだけでも覚えて帰ってほしいです。
あと「なくなったら再販すればいいんじゃないの?」という考えももちろんあると思いますが、再販って、違うんですよ。再販は、違うんですよ……!

先ほどの「冊数と印刷費は比例関係ではない」を思い出してほしいです。
10部を3回刷るのと30部を一回刷るのって、印刷費の差が1.5倍くらいになってくるんですよ。あと毎回送料もかかる
なので、多めに刷って廃棄なり何なりを前提にする、が、一番おすすめではあります。とはいえね、年長者のお説教ですからね……ええ……

この考え方で部数を決める良いところは、「たとえ見込みどおりの部数しかはけずに半分捨てることになっても印刷費は回収できているのでだいぶ心が守られる」ということです。

在庫の扱い方いろいろ

さて一言で「廃棄」と言いますが、正直にそのまま捨てる、以外にも方法はあります。

通販サイトを倉庫がわりにつかう

30部以上だった気がしますが、とらのあなやフロマージュブックス、BOOTHなども通販用の商品を先に倉庫に入れておく、というやり方があります。とらのあなは3ヶ月の期間があるそうですが聞いた話だと3ヶ月経過したから送り返しますというあれを受けた人は一人も……

なおイベントに持参したいから持ち出したい、という場合は都度送料がかかりますもちろん。

新古品としてまんだらけに送る

これもひっそりと聞かなくはない話です。もちろん印刷費回収どころか新古品価格になるわけですが、自宅保管よりもずっと状態の良い場所で保管されるし、数年後の誰かにタイムカプセルとして届く可能性もあるでしょう。(売れねえなと判断されたらひっそり処分されるかもですが自分で手を下すよりは良いかも)

次のイベント参加のタネにする

一番健全なやり方。飛び込もうぜ螺旋の渦に。

結論:個人の自由

いろいろ書いてきて序文に戻ってくるんですけど、結論として、どうしようと個人の自由です。だって趣味の活動だから。
なので「いややっぱり絶対に確実にはける部数だけ刷る」という固い意思を持つのであればもちろんそうすれば良いです。
ただ、もうちょっとうまいことやれる方法もある、ということです。おわり。






おまけ:風の噂で聞いた景気良い話とか裏技とか

さて、そうはいっても小説同人誌などだとページ数が多いので印刷費がえぐいことになりがちです。アンソロとか。
そういう人には、とらのあながコロナ禍の同人市場縮小で開始した「ゼロエン印刷」の検討をおすすめしています。

こちらは発行後の同人誌の通販をとらのあな専売にすること、提携した印刷所(有名どころぞろい!)を使うことを条件に印刷費を立て替えてくれるというサービスです。
私も以前のジャンルで家賃2ヶ月だか3ヶ月だか相当の立て替えをやってもらい、持ち出しゼロで需要どおりの印刷を行うことができました。とくにローンなどでもなく利子がついたりもしません。印刷費の上限は三百万だそうです。
事前に審査は一応ありますが、まあほぼほぼ通ります。

私に「半分は廃棄しても印刷費が回収できるように考える」ということを教えてくれたかたは、これをつかってぶあつい小説同人誌を1000部ほど刷りほぼとらのあな倉庫送りにし2ヶ月程度で完売させたりしてました。(このへんの数字のうちわけも全部教えてくれた)旬ジャンルつえー。

ゼロエン印刷で懐が痛むことなく、推しカプ本を全力で作り、在庫の山を一度も自宅経由させずに完売まで持っていく……殿上人の優雅な同人活動……


大手の話って本当に景気がよくて、バブル時代のあれこれはもちろんですけど、わりと近年でも「覇権アニメの覇権カプでアンソロ作ったら奨学金一括返済できる利益が出たので急いで節税対策で会社作った」みたいな話も聞きます。
今回の記事はそういうあれではなく、ごく小規模ジャンル&はじめの一歩的な人むけのあれです。そのわりに長い記事になってしまったけど。

まあ適度に、生活を脅かさない程度に、趣味活動を楽しみましょうね。


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