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行った:手帳類図書室

写真は同日行った資生堂パーラーの桃のスープのあれです。

存在を知ってから行きたいと数年思い続けていた「手帳類図書室」、声をかけてもらって行ってきました。めっちゃよかった。


手帳類図書室とは

手帳「類」です。
概要をいうと、他人の手帳やメモ帳や日記帳、家計簿に小学生の連絡帳といった「他人の本物の手帳類」を集めているコレクターの人が、ギャラリーの一室に収蔵したそのコレクションを見せてくれる、という場所です。

私、施設名と「他人の手帳が見れる」という情報だけ知ってたので、こう、展覧会みたいにガラスケースの中に見開きで置かれた手帳があって、それをこう順路で見ていく、みたいな場所だと思ってたんですよね。日本画の展示とかってそういうかんじじゃないですか?

でも全然そうじゃなくて、まず普通にギャラリー(手帳類図書室はギャラリーの中にあります)のバックヤードに通されるんです。バックヤードのすぐ隣はレジで、店員?学芸員?さんがなんか事務作業もしてる。バックヤードにはナンバリングされたファイルボックスがぎっしりつまった棚がある。倉庫だなあ、という感覚、ここでは。

で、いろんな手帳(類)の情報を記したカードの束が渡されるんです。
「この中から気になるカードを三つ選んでください、番号とこのファイルボックスは連動してるので」
といいつつファイルボックスの一つを引き出す、その中にはジップロックにつまった明らかに使用感ましましのノートと手帳がみっちり詰まってるんですよ。
ここでテンション上がりましたね。とたんにさっきまで背景画だったファイルボックスの詰まった棚が宝物庫的な輝きを帯びてくる。この……中身が……全部……!?

ということで、本物の他人の手帳を手にとって好きなだけ読み込めます。すごいです。本当に、すごかった。

どういう手帳があるのか

コレクターの方は、最初は人伝で買い取っていたようですが、近年は手帳類図書室の存在が広く知られるようになったため、寄贈されることも増えてきたようです。なので本当に本当にいろんな種類がある。
もちろん全部は読めなかったのですけど(最初に選んだ3つを読み終えたら別のを出してもらうことももちろんできる)、読めなかったなりに気になったものは、ざっと思い返すとこんなかんじ。

・舞台女優の日記(毎年6、7月以降がまっしろになるのが親近感)(でも数年分ちゃんとある)
・風俗嬢の収支とプレイ記録日記
・ポエトリーリーディングの詩人の日記(無印良品のノートがあんな姿になるんだ、というあれ)
・小学一年生の連絡帳
・男子高校生の恋愛日記
・ふじょしのダイエット日記(ジャンルとカップリング特定余裕だった)
・小学生の交換日記
・還暦後の生活日記
・男子小学生の連載漫画(同行者が読んでた、十冊くらいあってすごい密度でとてもちゃんとしていた)(後半はわらばんし)
・男子小学生の自作モンスター図鑑(正方形カードが数十枚ファイリングされている)
・闘病日記
・平成のギャルの日記(そのまんまギャル語で書かれている、あの書体で)
・某大作テレビドラマのスタッフの日記(日記というか業務日誌)
・メンヘラの人の日記(注意事項としてところどころに血痕ありと記されていた)

もちろんまだまだ全然あります。ナンバリングが200くらいまであったから200人分くらいあるんだと思う。

わたしが読んだ手帳

同行者はじっくり読み込んでましたが私はわりと流し読みでした。

還暦デザイナーの手帳

やや同業者なので気になって読んでみたんですけど、よかったですね。A4版の大きい手帳に行った展示会や博覧会のチラシをはさんでいるのですごい分厚さ。記載されているのは仕事の納品日、工事や入院といったイベント、それと買ったものの記録のみ。
DTPデザイナーらしく文字が読みやすくて綺麗、たぶんあの黒とあの質感は製図用ロットリング……

インプットとイベントのみで構成されたこのA4版手帳もよかったんですけど、縦書き文庫サイズのノートを使った手帳も20冊ほどあって、これがまた良い。シンプルながら要点を押さえた見やすい構成で、さすがデザイナー……
左に食事記録、右にその日の移動記録をフローチャートみたいに書かれてる。「事務所泊」の日が数日続いたり、そのあたりだと食事記録がぬけがちなのも、いい。

あと筆跡がとっても歴戦のDTPデザイナーのそれで嬉しくなりますね。

この人絶対にアイデアメモや感想文もつけてるんだよなあ。それも見てみたいけどそっちは出せないかなあ。

30代プログラマーの手帳

コレクターさん本人の手帳類だそうです。ジップロックの中にいろんな版形のメモ帳がどっさりつまった状態でお出しされました。
一筆箋を縦書きにして日記にしたり、メモ帳をそのまま日記にしたり、あと思いつきや感想がつまってるのでかなりツイッター的な内容です。ゲームも作ってる?作ろうとしてる?のか、そのアイデアメモがメモ帳をまたがって出てくるのも良い。

コレクション一冊目の手帳

手帳類図書室のコレクターさんが一冊目に入手した手帳だそうです。大学生? の男性がほぼ日手帳に記したものです。
が、記入されているのは全部で20ページ前後くらい。記入されている日も短文ツイートみたいな一言だけ。

なのにすごく味がある、いい、これ、いいなあ! と思える。たしかにこれは「他人の手帳っておもしろいのでは」と収集を決意させるものがある。人気あるというのも納得。見てほしい。

ある女性の家計簿(4年分)

同行者がめちゃ読み込んでた手帳……というか、ノート。家計簿なんですが、毎日の収支とは別に自由欄に日記を書いてて、この日記がすごい。まず字が細かい。1mmくらいだとおもう。ほんとに。すごい。
で、4年分の家計簿に「女」の人生がある…… 同日に行った「行方不明展」ではないですけど、記述から生活の変化が見える。なんかネタバレしたくないのですごかったけど語れない。家計簿のネタバレとは?

手帳というものとの向き合い方と考え方が激変する

私は本noteに手帳に関する記事それなりに書いてるし、書くとまあアクセス増えるし、みなさん興味あるジャンルなのでしょう。とくにアウトプットをするような人には。
なので手帳の本みたいなのも当然読んできたし読んでるでしょう。

でも、言いたい。「本物」を見たほうがいい。

たとえば「家庭料理」って本当に本物のリアルがないからみんな「家庭料理の本」を読んで、こうあるべきとか毎回こうしなきゃって思って、そういうふうに作り込んでいくじゃないですか。こんなんじゃあの本やあのツイートのレベルに達してないから全然だめだ、みたいな。
でもなんというか、本当に持続できる「本物」って、他者にみせられるもののなかにはないんですよ。きっと。

で、手帳類図書室の手帳たちを読んで、たぶんこの人たちは手帳本なんて読もうと思ったこともないんじゃないか、って感じたんですよね。
なんかそういう自由さというか、こうあらねばみたいなのが全然なくて、ただ書いた、それが積もった、それだけ。

手帳類図書室のあとに伊東屋でいわゆる手帳本が置いてあったのでぱらぱら見たんですけど「綺麗すぎる」「ファンタジー」「丁寧」「違う」と、同行者と「本物」を見てしまったゆえのあれそれを口にしていました。
いや、いろんな事例が掲載されてたし良い本だったと思う、手帳類図書室帰りでなければ買ってたと思う。
でもああいう手帳本の魅力って「人の事例」の写真でもあるじゃないですか。なら手帳類図書室に行け、本物が年単位で見られるから。見開き写真の掲載はフォーマットを見せるためのものでしかなく、連続性のパワーとして浴びる経験、手帳好きで手帳本とか買っちゃう人ほど、見たほうがいい。

なお同行者はCoCプレイヤーで、探索者とすすめたシナリオの記録をトラベラーズノートにつけてるそうです。そういうのいいなあ。いいねえ。

全然見たい手帳がまだまだあったし、最寄駅の参宮橋駅もすごく雰囲気よくて、個人商店とよさげな喫茶がたくさんあったので近いうちに再訪したいです。

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