詩『波乗り』

なみのりという言葉はポケモンで知った。
河原で拾ってきた石でできた自分が、蜻蛉のようにスイスイ滑って、画面の中だったらどこにでも行ける。向かうところ敵なしで、叱られるまではチャンピオンでいられる。
夕方のニュース番組で波乗りを知った。
蒼空を率いて、うねる大波を掻っ切って、白い泡の血飛沫を上げながら、滑り抜ける。自分の手から離れた世界にいる英雄は、返り血と泥みたいにこびり付いた汗を拭って白い歯を見せる。
江ノ島で波乗りを見た。
父親に言われて撒いた遺灰でできた砂浜。雨と塵でできた模糊模糊の雲。海へ引き摺り込む魔物の手へ潜在能力を引き出すウェットスーツを着た英雄は向かう。勇気ある者へ拍手を。彼は沢山のものを奉げてきた。さぁ、送り出そう。
なみのりは波乗りになっていた。


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