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KADOLABO 013 Apple Harvest Trip


諸言

シードル/サイダーは、リンゴ(Malus domestica)などの果物の果汁を発酵して製造される含炭酸アルコール飲料である。リンゴ由来の風味・味わいを活かした伝統的なタイプから他のフルーツやハーブなどを使用したモダンなタイプまでその味わいは多岐に渡る。
2021年にISEKADOでもシードルを製造した。「雪りんごシードル」という商品で、急な寒波で樹上凍結し、青果として出荷できなくなったリンゴを原材料に使用して製造したシードルだ。果汁をAmerican Aleで完全発酵させ、2.5g/LのNelson Sauvinでドライホップするというレシピで製造したところ、非常に淡白な味わいで、満足のいく仕上がりにはならなかった。
その理由は、レシピ設計にあった。食用に生産される日本のリンゴ品種は、欧米品種に比べ、酸やフェノール類といった成分が少ない。リンゴの糖分は、酵母に資化される果糖・ブドウ糖が主であり、ビールと異なり意図的に発酵を停止しない限り、甘みのないドライなシードルに仕上がる。糖分がないのに加えて、発酵プロファイルがニュートラルなAmerican Ale酵母で発酵させ、かつ少量のドライホップと、複雑さに寄与する要素も加えていないのだから、味わいに乏しい仕上がりになるのは当たり前である。ひとえに私の勉強不足による不甲斐ない結果だった。
今回のKADOLABOの取り組みでは、雪リンゴシードルのリベンジとして、味わいの厚みのあるシードルの製造を目指すことにした。より良いシードルを作るための研修として、11月にKADOLABOチームで長野県へ弾丸リンゴ収穫ツアーを敢行した。リンゴ農家への訪問・原材料調達、そして日本のシードルのトップランナーであるson of the Smithへ工場訪問をした。
水野農園では農場の見学をしてリンゴの栽培のことを学んだ。気候により生み出される成果物には変動がある。昨今は地球温暖化に由来する気候変動の影響もあり、より一層不安定になっているようだ。シードルの製造に当たっては、そのブレに合わせた設計が要求される。それはビールにも共通することではあるが、複数の原材料を組み合わせて製造するビールに比べて、単一原材料のシードルでは年によるリンゴの品質の差異の影響が大きいだろうことが予想される。
また、品種による味・香気の大きな違いも感じた。先に述べたように日本のリンゴは淡泊とひとくくりにしていたものの、香り、酸、渋みの度合いは品種によって全く異なるのを体験した。品種の選定により味づくりに広がりがあるのではないか、と希望を感じた。
son of the Smithでは、日本で最高のサイダーを作るために原材料の生産から発酵まで多岐にわたるアプローチをとっていることを目の当たりにして、非常に感銘を受けた。詳細は伏せるが、ビール醸造にはない引き出しの多さと自然と向き合う姿勢が印象的だった。
リンゴ収穫ツアーを通して学んだこと・感じたこと・考えたことをベースにレシピに落とし込み醸造を行った。
具体的には酸とポリフェノールとフレーバーを造る4つのプロセスを盛り込んだ。1つめはリンゴ品種の選定だ。日本の代表的な食用品種「ふじ」に加えて、酸味が特徴的なオーストラリア原産の品種「グラニースミス」を使用した。2つめは酵母の選定。Philly SourとKadoya-1のSubsequent Fermentationにより、酸の生成と豊かな香気成分を生成させた。3つめは酢酸発酵させた白ワインの搾りかすの漬け込み。010 Marginal Ⅲで行った手法を応用した。搾りかす由来のフレーバーとポリフェノールをサイダーへ浸出させるのに加えて、酢酸もサイダーへ移行させた。4つめはドライホップ。Hazy IPAと同等の量のドライホップを行い、フルーティ・トロピカルなアロマ・フレーバーとともにα酸とポリフェノールをシードルへ移した。
シードルはビールと構造が全く異なる飲料であり、味と香りをどのように乗せていくかということに苦心したが、自分の味覚を頼りにプロセスごとに液の経過を確認しながら、パラメーターを選択し、製造を進めた。先に述べた4つの要素それぞれが味わいを深め、満足のいく仕上がりとなった。
ビール醸造の発想から新たなシードルの形を模索する年毎の取り組みとしてこれからも深化させていきたい。

方法

長野県飯田市水野農園から購入したリンゴふじ135kg グラニースミス15kgを原材料として使用した。リンゴを破砕・搾汁し、90Lの果汁を得た。ステンレスタンクに投入し、Philly Sour酵母を添加した。翌日、底に沈澱した澱を除去したのちにKADOYA-1酵母を添加した。10日間発酵させたのち、澱引きし、酢酸発酵させたシャルドネの絞りかすを20kgを浸漬させた。漬け込み後、絞りかす由来の残糖分による再発酵が生じた。5日間浸漬したのち、絞りかすを除去し、Citra 500g, Mosaic 500gをドライホップした。3日間浸漬したのち、ホップを除去し、3日間静置した。この間毎日底に沈殿した澱を除去した。0度まで冷却し、10日間静置してから、瓶詰めを行った。

テイスティングレビュー on Podcast

アルバム

KADOLABO Team
ふじ
グラニースミス

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