見出し画像

コロナでDVは増えたのか (2)

前回の投稿(1)では、配偶者暴力相談支援センターの相談件数の状況について確認しましたが、ここでは、「DV相談プラス」の相談状況についてみていきます。

1.DV相談プラスとは

DV相談プラスは、内閣府が、コロナの感染拡大に伴うDVの増加や深刻化への懸念に対応するため、2020年4月20日から新たに開始した相談窓口です。
配偶者暴力相談支援センターとDV相談プラスの2020年度における月別の相談件数は、図1のとおりです。

図1

DV相談プラスの相談件数は、開始当初の4月を除けば、おおむね4,200件から5,000件で推移しています。
配偶者暴力相談支援センターが300カ所弱あることを踏まえると、DV相談プラスが、コロナ禍において、全国からの相談の大きな受け皿となったことが受けつけた相談件数の多さからもわかります。
この新たな相談窓口によせられた相談は、コロナに起因するDVの増加によるものだったのでしょうか。
それを確認する上で、まず、配偶者暴力相談支援センターとの比較から、仕組みや集計対象の相談の特徴についてみていきます。

2.配偶者暴力相談支援センターとの比較

表1は、配偶者暴力相談支援センターと比較し、違いを整理したものです。DV相談プラスによる相談対応の特徴として、電話相談が24時間対応であることやチャット(SNS)やメールでの相談を受けつけていることなどがあげられます。これは、配偶者暴力相談支援センターは、開所時間や相談の手段などの相談対応体制がそれぞれ異なり、地域によって対応が限定的となる場合があることから、こうした支援体制を補完する形で対応されたものだということができます。

画像2

投稿(1)でも触れたように、2020年度の配偶者暴力相談支援センターとDV相談プラスの相談件数を合算した件数と昨年度の配偶者暴力相談支援センターの相談件数を比較して、「1.6倍」の増加があったとしていますが、表1のとおり、その相談件数の集計対象が異なることに留意が必要です。

配偶者暴力相談支援センターの相談件数は、DV防止法上のDVに関する相談である場合に限って集計していますが、DV相談プラスの相談件数には、DV以外の相談も含まれています。
例えば、被害者本人以外からの相談が含まれるほか、加害者について、DV防止法上の整理である配偶者や事実婚の相手に限られておらず、恋人からの暴力(いわゆる「デートDV」)や児童虐待などのその他の暴力、家族や生活に関する悩みなどDV以外の相談も含まれています。

3.DV相談プラスにおける相談の特徴

相談者からの相談について、DVに限らず、広く受け止め、丁寧に対応することは相談窓口の対応として非常に大切なことですが、「DVの相談件数」を確認する上では、こうした点を注意深くみておくことが必要です。

内閣府の調査研究事業で、2020年4月下旬~10月末の約半年間におけるDV相談プラスの相談内容等の分析を実施していますので、その報告をもとに、主な特徴をみていきます。

まず、相談の受けつけ状況を確認します。なお、集計は、相談員が入力する相談記録の内容をもとに行われており、当該記録における入力の有無により各集計の対象者数が異なっています。

3.1 相談者

相談者は、上述のとおり、被害者本人からの相談以外に、家族や知人からの相談(5.6%)も含まれています(図2参照)。

図2

3.2 相談の手段

相談の手段(図3参照)は、全体としては、電話による相談が多いですが、10代~30代の若い世代については、チャット(SNS)による相談が比較的多くなっています。DV相談プラスの相談窓口につながった経路が、行政機関等からの紹介ではなく、多くがインターネットからの情報によるもの(56.5%)となっていることを踏まえると、これまで、配偶者暴力相談支援センター等の専門機関に相談していなかった層が、インターネットを介して、チャットというこれまでDV相談においてあまり普及していなかった身近なツールがあったことにより、相談につながったことが考えられます。

図3

3.3 相談時間帯

次に、電話での相談について、時間帯別の入電数(電話がかかってきた件数)の状況をみると、夜間(20~23時台)が一番多くなっています(図4参照)。
配偶者暴力相談支援センターなどの地方自治体の相談窓口は、夜間から早朝にかけて対応を実施しているところは非常に限られています。このため、24時間対応をしているDV相談プラスが、地方自治体の相談窓口が閉まっている時間帯の受け皿として作用したことが考えられます。

図4

3.4 DV相談プラスの仕組み

ここで、改めて、DV相談プラスの目的について確認しておきます。調査研究事業の報告書によると、以下のとおり整理されています(一部筆者にて文章を補正)。

DV相談プラスの目的は、第一義的には各地域の配偶者暴力相談支援センターや警察、自治体の相談支援担当などの、継続的な支援ができる既存の支援機関に相談者をつなぐこととし、その前段階の悩みの傾聴・気持ちの整理の援助、支援・解決方法の提案と支援機関の紹介を行うこととしている。

つまり、DV相談プラスでは、電話やチャットなどの遠隔での相談対応を行っており、直接的な対面での支援ができないことから、こうした支援が必要な相談者については、配偶者暴力相談支援センターなどの関係機関を紹介することとしています。
このため、DV相談プラスでの相談後に、配偶者暴力相談支援センターに改めて相談する相談者が一定数存在することとなり、DV相談プラスと配偶者暴力相談支援センターの相談件数を合算した件数には、この「重複」部分が存在していることを踏まえて解釈することが必要です。

なお、DV相談プラスでは、相談内容から緊急的な状況であると判断される場合は、当該事案は、相談員からコーディネーターに引き継がれ、相談者がいる地域の支援者・支援機関に連絡をとり、安全確保や同行支援等の直接的な支援につなぐことも行っています。2020年4月から10月の間に、こうした直接的な支援を行った件数は、269件となっています。

3.5 相談内容

それでは、次に、DV相談プラスには、どのような相談が寄せられていたのか、具体的な相談内容を確認します。

相談員が、相談の中で聞き取った情報をもとに選択した「相談テーマ」(複数選択)の内訳は図5のとおりとなっており、精神的DVの相談が約6割と圧倒的に多く、次いで身体的DV(約3割)となっています。
DVのイメージとして、殴る、蹴るといった身体的DVを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、実際に寄せられる相談の内容としては、精神的DVに関するものが一番多いという結果となっており、このことは、DVの一般的な認識を改める必要があることを示唆する重要な特徴であると言えます。
なお、報告書によると、精神的DVには、大声で怒鳴る、人格を否定する、無視する、見下す、脅すなどの相談内容が含まれているとしています。

図5

なお、「2」で触れたように、DV相談プラスの相談件数には、DV以外の相談が含まれていることに留意する必要があります。図5の相談テーマのうち、配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数の集計の中に含まれるのは、身体的DV、精神的DV、性的DV、経済的DV、社会的DVに関する相談のみとなります。このため、これら以外の相談件数を合算して「DVの相談件数」と整理して前年度の実績と比べることはやや強引な印象があります。
図5は、複数選択のため、例えば、精神的DVにより、心身に不調を感じ、このことを相談した場合、「精神的DV」と「こころのこと」、「からだのこと」に同時に件数としてカウントされることがあります。このように同時に選択された相談テーマの状況について、報告書によると、「離婚のこと」や「児童虐待」を相談した人のそれぞれ約8割が「精神的DV」の相談もしていることなどが述べられており、DV以外の相談をした方には、同時にDVに関する相談もしている場合があることがわかります。
このことから、相談の多くは、自身のDV被害にかかわる内容であったことが推察されますが、DV相談プラスの相談件数のなかには、少なからず、DV以外の相談に関するものも含まれているということは注意する必要があります。

さて、投稿(1)では、配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数の調査では、相談に至った経緯や理由まで集計されていないため、相談件数の増加がコロナによる影響なのかどうかは明確にはわからないことを述べました。
しかし、このDV相談プラスの調査研究事業では、チャット(SNS)やメールの相談について、その内容を分析しているほか、DV相談プラス事業の受託団体へのヒアリングを通じて、その相談内容の特徴について聞き取りを行っており、コロナの影響にも触れられています。
報告書では、具体的にコロナの影響として以下のような事例があげられています。

・もともと暴力を振るわれていたところに在宅ワークによって暴力が深刻化した。
・夫が特別定額給付金を渡してくれない、浪費してしまった。
・夫が「コロナが危険」と言って保育園に預けることを許さず、職場復帰を断念した。
・失業や困窮といった経済的な問題を抱える交際相手のストレス発散の対象として暴力が発生した。

このように、普段からの暴力が深刻化した事例や、コロナを口実に相談者の行動をより制限しているケースが報告されています。
また、特に、2020年4月~5月は、特別定額給付金に関する相談が多数寄せられたようですが、こうした給付金に関する相談がきっかけで家庭内のDV被害の状況がわかり、DV相談として対応されたケースもあったとしています。
こうした事例から、DV相談プラスに寄せられた相談の背景には、少なからず、コロナによる生活環境等の変化によるものがあったことが示唆されます。

4.小括

ここまでのことをまとめると、DV相談プラスについて、おおむね以下のようなことが言えます。

・配偶者暴力相談支援センターの補完的な受け皿となった
・コロナに起因するとみられるDVの相談があった
・相談件数にはDV以外の相談も含まれていること、DV相談プラスと配偶者暴力相談支援センターの相談件数を合算した件数に「重複」部分が存在していることに留意が必要

これまで、配偶者暴力相談支援センターとDV相談プラスについて相談状況をみてきましたが、これらの相談窓口がすべてではなく、これ以外にも、警察や地方自治体の相談窓口など、DV相談を受けつけている機関があることも踏まえ影響を評価する必要があります。

【参考文献】
「DV相談+(プラス)事業における相談支援の分析に係る調査研究事業」報告書(2021年3月)エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社

角朋之(2021)「新型コロナウイルス感染症とドメスティック・バイオレンス(DV) 」『法律のひろば 74(2), 14-24, 2021-02』ぎょうせい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?