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コロナでDVは増えたのか (3)

 投稿(1)と(2)では、地方自治体に設置されている配偶者暴力相談支援センターと内閣府のDV相談プラスにおける相談の状況について確認しましたが、DVに関する相談先としては、「警察」も含まれます。
 このため、ここでは、警察における相談状況について確認します。

1.警察への相談状況

 警察へのDVの相談件数については、図1のとおりとなっており、配偶者暴力相談支援センターの相談件数と同様に、年々増加している傾向となっています。2021年には8万3,035件と過去最高を記録しました。では、この増加には、コロナの影響があったのでしょうか。
 この点に関して、前年からの増減率をみてみると、近年、増加率が鈍化しているなかで、特に、コロナの感染が拡大しはじめた2020年は、前年から0.5%増と微増にとどまっており、引き続きコロナの感染が続いた2021年も0.5%増となっています。つまり、近年の傾向からみると、コロナ発生後はむしろ、DVの相談件数の増加はほとんどみられなかったという結果になっています。

図1

 2020年に増加率が例年より低かったことについて、警察庁は、「新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛により、加害者が自宅に長時間いることで、被害者が外部に相談しづらかったケースも多かったとみられる」としていますが、配偶者暴力相談支援センターやDV相談プラスにおいて、電話による相談件数が増加していることとは整合しません。

2.相談件数の傾向が異なる背景

2.1 相談内容

 警察における相談件数が、他の相談窓口のように大きな増加がみられなかった要因を考える前提として、警察ではどのような相談を受け付けているかを確認しておく必要があります。
 警察で相談件数として計上しているのは、「配偶者からの身体に対する暴力または生命等に対する脅迫を受けた被害者の相談」となっています。
配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数には、身体的、精神的、性的、経済的なDVが含まれ、DV相談プラスにおいては、さらに、これらのDVのほか、家族、こころ、生活のことなどDVに関連した幅広い相談を受け付けて件数として計上されている一方で、警察における相談件数は、身体的DVや生命にかかわるような深刻な状況にある場合のみということになります。
 投稿(2)のなかで、DV相談プラスで最も多かった相談テーマが、精神的DV(約6割)であったことを述べましたが、警察における相談に、こうした相談内容が含まれていないことが、他の相談窓口との傾向の違いと言えそうです。
 すなわち、警察での相談件数の増加が鈍化する一方で、配偶者暴力相談支援センターとDV相談プラスにおける相談件数が大きく増加した背景には、精神的DVやいわゆる「モラハラ」に悩む被害者が相談につながったことがあるのではないかということが考えられます。

2.2 特別定額給付金

 このほか、相談件数の傾向の違いに関連しうるものとして、ここで、特別定額給付金について触れておきます。
 2020年4月に閣議決定された緊急経済対策において、特別定額給付金が一人につき10万円支給されることになりました。この給付金の受給権者は、原則として、住民基本台帳に記録されている世帯の世帯主ですが、DV等を理由に避難し、配偶者と生計を別にしている方については、世帯主でなくとも、居住地の市区町村へ事前に申し出ることにより、当該市区町村から、同伴者の分を含め、給付が受け取れるよう特別な措置がなされました。そして、この事前申出における要件の一つとして、婦人相談所や配偶者暴力相談支援センター等が発行するDV被害相談の証明書が必要となっていたため、DV被害に悩む方から、この特別定額給付金に係る手続きに関連して、配偶者暴力相談支援センター等に多くの相談が寄せられたことが推察されます。
 実際、DV相談プラスの相談においても、2020年4月~5月は、給付金に関する相談が非常に多かったこと、また、給付金に関する相談が契機となり、DV相談につながったケースや給付金の申請を援助したケースがあったことが報告されています。
 このように、警察とは異なり、他の相談窓口の相談件数が増加した背景には、この給付金が少なからず影響していたことが考えられます。

3.DV事案の検挙件数

 また、相談件数と関連して、DV事案で警察が検挙した件数を確認してみると、2020年は、前年から383件減少の8,778件となり、調査開始以降はじめて減少し、2021年も8,633件とさらに減少しました。

図2

 このように、警察における相談件数がほとんど増加せず、検挙件数が減少したという結果から、身体的なDVなどの家庭内での深刻な暴力行為がコロナ禍で増加しなかったと言えるのでしょうか。
 警察庁は、「新型コロナウイルスの感染拡大で、家族以外との接触機会が減ったことによる被害の潜在化が懸念される」としています。
 DV相談プラスの相談においても、緊急事態宣言中に、加害者が家にいることで暴力が激しくなったという相談が報告されていることを踏まえると、家庭内で加害者のコントロール下におかれ深刻なDVに悩む被害者をいかに相談につなげ、支援していくかといった課題が浮かび上がります。
 DV相談プラスでは、オンラインチャット(SNS)において身体的DVに関する相談が相当数あったこと、メール相談でも深刻な相談内容が多かったといったことも報告されており、家の中にいても外部に相談できるような多様な相談ツールを用意することが必要であることが示唆されます。

4.小括

 ここまでのことをまとめると、おおむね以下のようなことが言えます。

・ コロナ禍における警察の相談件数には大きな増加傾向はなかった。
・ 警察と異なり、配偶者暴力相談支援センターとDV相談プラスにおける相談件数が増加した背景には、コロナ禍でのモラハラ被害者が相談につながったことや特別定額給付金の影響が考えられる。
・ 家庭内の深刻なDV被害が潜在化している可能性も踏まえた相談体制の構築が必要。

 ここまで、様々な相談窓口における相談件数から、コロナ禍での傾向をみてきましたが、あくまで相談につながった件数であることから、「潜在化」の可能性を踏まえると、このことがすぐにコロナ禍での被害の状況をあらわしているとは言えません。
 コロナ禍におけるDV被害への影響を評価するには、相談件数にはあらわれない暗数があることを踏まえ、被害実態のアンケート調査などにより潜在的な被害状況も含めて把握することが必要です。


【引用・参考文献】
「DV相談+(プラス)事業における相談支援の分析に係る調査研究事業」報告書(2021年3月)エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社

角朋之(2021)「新型コロナウイルス感染症とドメスティック・バイオレンス(DV) 」『法律のひろば』74(2),14-24,2021-02,ぎょうせい

警察庁(2022)「令和3年の犯罪情勢」
警察庁(2021)「令和2年におけるストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等への対応状況について」

読売新聞オンラインニュース(2021.2.4)「児童虐待通告が初の10万人超え、DVも過去最多…外出自粛が一因か」(2022.2.6閲覧)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20210204-OYT1T50134/

時事ドットコムニュース(2021.3.4)「DV検挙8700件、初の減少 コロナで潜在化懸念―警察庁」(2022.2.6閲覧)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021030400502&g=soc


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