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キャンプの人たち

わが家きっての甘えん坊で普段は母ちゃんから離れない小1の三男がキャンプに出かけている。いささかノリで行くことを決めたため多少のたじろぎはあったものの、早朝の集合には思いのほかすっきりと出かけた。
「5時台ってこんなに気持ちいいんだね~!」
と、車窓からの朝日を胸いっぱいに吸い込んで目をキラキラさせる夜更かし親子からは、いつの間にか眠気はどこかに飛んで行っていた。

キャンプは3泊4日。母ちゃんから離れて寝たことのほとんどないこの人には無謀にも思えるが、本人がこのキャンプに
「行く行く~!」
と二つ返事したのは、保育園時代の仲良しが参加するってことと、卒園した保育園の先生が3人もこのキャンプに関わっているという安心感が大きい。

先生たちは毎年のようにこのキャンプに参加していて、今年も2人の先生が参加する。中でも一番古いであろう先生は、自身の子どもの頃から何十年もこのキャンプに毎年参加していて、その奥さんもさらに歴が長く、二人はこのキャンプ関連の活動で知り合って結婚されたと聞いた。二人には生まれたばかりの赤ちゃんがいるので、小学生から毎年参加の奥さんは今年はベビーを連れて、もう一人のやはり0歳ベビーのいる先生とともに3日目から1泊だけ参加する。なんと、キャンプ2世たちだ。

先生たちばかりでなく、40年近く続くこのキャンプに毎年のように参加する子どもたちはたくさんいて、彼らが高校生になると今度は「指導員」として参加していく。その姿を毎年見ているので、今度は自分がそうなっていくことを当然のように感じているふうである。キャンプというものがイベントや体験に留まらず、継続して子どもを大人へと成長させる場=コミュニティとしての役割を担っていることに目を見張った。三男がその入り口に立ったのかは、今回どんな顔をして帰ってくるか次第だろう。

集合すると見慣れた先生たちに案内され、一瞬、卒園したはずの保育園の行事に参加しているのかと錯覚する。しかし保育園とは関係のない参加者たちは彼らが保育士だということすら知らなかったりする。

「このキャンプ、陰キャの集まりだよね(笑)。」
同じく初参加のママのこんな感想に思わず頷いてしまうくらい、ここに来る子たちはあまり派手さがなく、控えめで、教室ではきっと目立たなかったりちょっと繊細だったりするようなタイプに見えた。(逆に青年のお姉さんたちは髪をカラフルに染めたりして、派手な子が多かったりもする。)

練習のデイキャンプでは、隣のスポーツ系の団体とは正反対のオーラを放っていた。それでも、誰もを受け入れる独特の優しい空気にこの子たちは安心して、このキャンプでは自分のままでいられるようだった。本番のキャンプ前に毎週のように集まって彼らは、自分たちで何曲も歌を作り、ギターや鍵盤ハーモニカやタンバリンを鳴らしながらよく歌った。何度も何度も、確かめるように大切に歌い、熱い心を一つにしていった。この昭和感、ほのぼのとした優しさと若さと静かな熱さが同居した、独特の雰囲気がそこにあった。

今回三男のチームを率いてくれる青年指導員の二十歳のTが、三男に寄り添い、持ち物を点検などしてくれている。その添いかたがなんとも自然なことに感嘆し、私はしばらく彼を目で追う。

Tはすらっと長身で髪はやや長く、素朴な顔立ちをしている。素朴な身なりに、片耳だけピアスが光っている。笑顔はとてもさわやかで屈託がないが、言葉やふるまいには無駄がなくクールだ。何より彼のあり方には、1ミリの緊張も気負いも感じられない。最も自意識が強くなりがちなこの年代にありながら、自分が他の人からどう見られるかということをまるで気にしていない様子のTを見て、あっけにとられる。恥ずかしながら40代の私はまだその域に達していない。

Tの生まれつきの性質もあるだろうけれど、二十歳という年齢ですでに身につけているこの落ち着きと他者への献身は、参加者から高校生指導員を経て、青年指導員になるまでの毎年の積み重ねが育んできたものなのだろうな。つくづく、人生で大切なのは行動。そんな彼らの姿を見て、学校教育以上の教育成果を感じてしまうのは私だけだろうか。

三男と同じ保育園を卒園した三つ上の男の子Dくんが、やはり小1から毎年このキャンプに参加している。Dくんもとても大人しくて繊細な子だ。互いにあまり相手のことを覚えていない中での再会だったが、同じチームの三男のことをDくんは静かに見守っている。

バスに乗り込んだ彼らをいよいよ見送ろうというとき、保護者からちょうど反対側の窓際に座った三男のことが全く見えなかった。Dくんのお母さんと
「うちの子が見えない~。」
と話していたら、こちら側の窓際に座ったDくんが指をさし、口パクで三男の居場所を私に教えてくれる。バスは遠く分厚いガラスに仕切られてもいたので、私たちの会話がDくんに聞こえるはずはなかった。それなのに、私が三男を探していることを察して教えてくれた、普段は大人しいDくん。キャンプは今年で4年目。その気の回り方に感服する。

バスはゆっくりと出発した。バスが向きを変えたときに、ガラス越しにこちらに気づいた三男が、あどけない顔で懸命に手を振っている。彼らがいてくれるから、初めての三男もきっと大丈夫だろうと私は妙に安心した。


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