ぼくたちの”Field of Dreams”
早朝のダグアウトに座っていると、ときどき、見えないものや、聴こえない声に出会うことがある。
真夏の熱戦も、とうとう最終回!
一点ビハインドの”ワイルドギース”、2アウトランナー二塁のチャンスを生かすことができるのか⁈
おっと、ヘッドコーチが指差したのはブルペンです。
延長戦に備えてウォームアップしていたのは誰だ!
エース”亜麻色のハヤブサ”こと、カリン・キンセラです。
カリン、バットを持ってバッターボックスへ向かう。
すかさず”コーラル・ホーマーズ”のダグアウトから、
「三振、三振、おとこ女は大三振!」と、これは下品、差別用語そのもの、いかに少年とはいえ、いや、少年だからこそ品位と友愛の精神で…、
うわっ、放送席に冷凍ミカンの皮が投げ込まれました。ゆで卵に陶器のお茶瓶まで!まるで夜行列車に乗って海を越え、鉄の雨を掻いくぐってやってきたがごとくの有様です。
我が国のスポーツマンは、選手である前に礼節を重んじる清々しい青少年でなければなりません。こういう場面に遭遇しますと生きてる間の道徳教育が、いかに大切なものかと実感する次第であります。
と言ってる間に、カリンの打席はフルカウント!
おおっ、カリンのバットが指しているのはレフトスタンドです!
あそこに放り込むわよ!とでも言うのでしょうか?
一切かまわず、”コーラル・ホーマーズ”のエース、”超特球”ヨシアキ・スティーブが剛速球を投げ込んだ!
カリン、はっしとばかりフルスイング!
白球、青空高く舞い上がり、ライトフィールダーは背走につぐ背走!
と、何を思ったっか、フィールド上のプレーヤーはもとより、ベンチの選手たちも、おお、なんと、かっ飛ばした本人、カリン・キンセラまでが白球を追いかける!
追いかけ、追いかけ、みんな青空に昇っていく。
海からの強い風に煽られて、野球帽をかぶったタンポポの綿毛たちが、あちこち、てんでばらばら、ダンシング。
ふわふわ、どんどん、ふわふわ、どんどん昇っていく。
笑ってる、みんな、ゲラゲラ笑ってる。
おーい、カリン、おんなの子のゲラゲラ笑いはお行儀が悪いぞ~、ママに叱られても知らないよ~、
風向きが変わり始めたね。
海からの風は、朝を迎えたばかりのマンションのベランダをすり抜けて、やってきた海へと帰っていく。
あちこち、てんでばらばら、ダンシング。
ヨシアキ~、カリンをたのんだぞ~。
ぼくも、朝露に濡れた芝生のフィールドを横切って、まだ夢の中にいそうな家人のもとへ帰っていく。
みんな、元気で、とりあえず元気で。