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木翳より

わたしじゃなくても、よかったんだよね?
と、そんな健気な質問を投げることすら、する気力もなかった。
分かり切っているから、それを明白にさせることはわたし自身よりも、彼自身を自己嫌悪への底へと蹴落す冷酷さのようにも感じた。
この関係に責任とか、絆とか、そんな有無すら曖昧な感情と思考の双頭怪獣みたいな脅し文句はいらないと思う。
 長い事、引き留めていたのは、わたしの方だったし、その鍵を開けたのも、わたしだった。
出来るだけ感情的な関係にはなりたくない。
もう、嫉妬だとか、束縛は懲り懲り。少しでも独占欲の匂いを感じたら、全速力で遠退く。
それが「大切に想う」とか「大事にされる」という意味合いだったとしても、裏側に潜む闇を感じてしまう。それはわたしの怯えが、勝手に作った闇の場合もあるかもしれない。
でも、わたしは怖くなってしまう。自分の創り出した闇を。過去の幻影を纏っているから。
もう、放っておいて。こっちを向かないで。わたしを見ないで。
誰かの感情に支配されて、泣きたくはない。
運命もなにもない。 
偶然、目の前に現れた玩具くらいでいい。それくらいの扱いでいい。誰かの玩具かもしれなくても、目の前に転がって来たから、拾って遊んでみたってだけでいい。

実際に馴れ合いを感じるし、居心地の良さも正直、感じているけれど、それ以上は求めない。
それこそ、わたしの目の前に面白そうな玩具が転がってきたら、喜んで戯れるだろう。 
 彼は怯えている。
わたしが相手をしなくなることを怯えている。恥ずかしげも無く縋ってすらくる。
そんな姿は、鬱陶しい。
何故か昔から、男に泣かれることが多い。しかも、号泣するやら、土下座するやら…それらで、許されると思ってるんだから、馬鹿馬鹿しい。
そういう、わたしを分かってるから、怯えながらも、わたしの不機嫌が治ることを祈って、彼はただ泣かずに待ってる。
それが正解なのか、わからない。

もう、わたしがいけないとか思う人生はやめた。
自分がいけないかもしれないけど、いいや。

日も浴びずに、木翳でこそっと呟いた。



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