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きみには不幸でいて欲しい

再会のきっかけも、わたしのことが「心配」という口実だった。
わたしのなにを心配していたんだろう。
今思えば、自分が満たされた環境で余裕があったから、余分な存在であるわたしにすら優しさをかけたかったのだろう。
もしくは友だちが昔、わたしが好きだったことを時効だと思って彼に告げたのかもしれない。

兎に角、再会した彼は昔と違わず、優しい彼のままであった。
けれど、うっすらと気付いていった。
彼は優しいというか、わたしに優しくしたいのである。わたしを心配して、慰め励まし労いたいのである。
それはある種の愛のようなものかもしれない。
だからと言って、べったりという距離感でもなく、わたしは自分が弱っている時だけ寄り掛かる都合の良い人間だった。
彼もそれを甘受しているように思えた。

わたしが弱っている時の彼はいきいきして見えた。
わたしが小さく涙ぐみながら「ありがとう」と言うのが、幸せそうに見えた。
辛いことや苛立ちも、基本、一人で飲み込むが、彼はそれを吐き出させたいようだった。
わたしはそれらを消化する力を持ち得ているのに、彼はその蟠りはずっと停滞していると思うのか、無理矢理、口に手を突っ込んで吐き出させたいようだった。
比喩ではなく、わたしが苦しそうにしていたら、実際に口に手を突っ込むことが出来るよ、と豪語していた。
わたしが平穏に幸せに過ごせるようにと、祈りをひけらかして優しく微笑むけれど、それでわたしが彼を必要としなくなったら、きっと寂しそうな顔をする。
別れ際に泣いているわたしの背中を摩る彼は、きらきらしている。残酷なほどに自分に満足をした顔をしている。
孤独を美味しそうに噛るわたしが振り向くのを、虎視眈々と待っている。優しさの愛しさの皮を被った下で、ほくそ笑む。

わたしは彼を手放したい。
しあわせになりたい。平穏でいたい。
けれど、容易くそれらは訪れない。
恋も愛も此処にはない。
目の前にわたしの不幸の維持を密やかに望む彼が微笑んでるだけ。

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