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巨人・大鵬・卵焼きとの和解

「巨人 大鵬 卵焼き」
戦後すぐの時代に大多数の日本人が好きだったもの


さて、
音楽、文芸、映画なんでもいいが、メインストリームとサブカルチャー=サブカルがある。メインストリームはヒットナンバーやベストセラーやロードショーのような、時代の最大公約数的コンテンツ。サブカルは時代の王道を外れたマイナーカルチャーである。サブカルとしてブレイクしたハチは、メインストリームでも米津玄師として登りつめた、みたいな感じ。

大学時代の私はサブカルの人だった。マニアックなミニシアターやライブハウスに通い、ユリイカやガロを読み、大学の授業にも出ずにポストモダンの概説書と格闘した。幸い私が通っていたのは、3年までは週1〜2回行けば進級出来る日本一緩い大学だった。

もともと好きから入ったサブカルだったが、この頃の私は大衆(=巨人 大鵬 卵焼き)的なものを半ば小馬鹿にするようになっていた。いま振り返ると、ただのこじらせ、悪性のスノビズムでしかない。自分を大きく見せるために、多くの人にはわからない知識で武装し、悦に入っていたに過ぎない。類は友を呼ぶで、サブカル界隈の人と会話すると、よりマニアックな知識や作品の深読みによるマウント合戦みたいになったものだ。

そんな折、大学4年で同じ研究室(理系だったので)にいた同級生I君と話すようになった。I君は子供の頃から巨人軍王選手の大ファンで、ドリフと少年ジャンプが大好きだという。まさに当時の私が小馬鹿にしていた対象。3年までは話すこともなかったが、卒研のバディみたいな関係になったため、そうもいかなくなった。

二十歳過ぎても、野球は巨人、お笑いはドリフ、漫画はジャンプ。好きなものを好きと、迷いなく言い切る彼との出会いは鮮烈だった。サブカル界隈の人たちと違って、人の発言の裏読みをせずに素直。明るくてよく笑う。何やら、自分の歩んで来た道が間違いだったのでは、と思わされるほどだった。

彼は私に、バック・トゥ・ザ・フューチャーシリーズのビデオを勧めた。あまり気乗りしなかったが、試しに見てみるとその面白さにぶっ飛んだ。

巨人 大鵬 卵焼き的なものとの和解の瞬間であった。

I君との出会いを経て、メインストリームの中にもたくさんの好きなコンテンツがあることを発見した(ただし好きと言えるまでにはもう少しかかった)。それ以上の収穫は、人とのコミュニケーションが格段に楽しくなったこと。マウント合戦ではなく、面白いと思ったものを面白いと共有するだけの会話である。

I君もサブカルに興味を持ってからは、バック・トゥ・ザ・フューチャーの中のサブカル的要素をレクチャーしたり、ジャンプの連載漫画になぞらえて哲学を語ったりするのが楽しかった。それまでに蓄積してきた机上の空論が、突如動き出したような気がしたものだ。

今ではAKBも歌って踊れる。

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