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パラダイス
さわきゆりさん作「パラダイス」が全13回の連載を終えたので感想文的なもの。
初めての中央道は「中央フリーウェイ」をBGMに走った。調布基地跡に建つ味の素スタジアム、東京競馬場、サントリー武蔵野ビール工場を目にして下り線を走ると、ユーミンワールドの一部になったような気がしたものだ。ただ、黄昏時は上り線の小仏トンネルでつかまり、「流星になったみたい」にはなれなかったが。
さわきゆりさんの「パラダイス」の前半部には、そんな楽しさがある。千葉の柏インターから常磐道を北上し、磐越道、東北道、山形道を乗り継ぎ、秋田まで至る。途中、桜土浦インター、いわきジャンクション、安達太良山、銀山温泉、最上川、鳥海山などの地名が並び、同じルートを走ったことのある読者に一層の臨場感を提供している。ロードムービーの楽しさと言ってもよいだろう。
さて、ロードムービーの一つのフォーマットは、日常や社会の閉塞感から旅に出た主人公が、非日常的な風景やドラッグの酩酊による開放感から、一時のパラダイスを見たのち破滅に向かうというもの。タナトス(死への誘惑)の側に落ちるということだ。「イージーライダー」や「テルマ&ルイーズ」がこれにあてはまる。旅や非日常の刺激を通じて発見したパラダイスは、たとえ映画の様な破滅に至らなかったとしても、いずれは色あせ、新しい日常、閉塞感へと変わっていくものかもしれない。
さわきさんの作品は、それとは真反対の「パラダイス」である。
このロードムービーの主人公は兄と妹あずさ。
旅に出るきっかけは、あずさの恋人(パートナー)隆さんが故郷の秋田へ帰ったためだ。ガンを患い、死期を悟った隆さんは、「これ以上弱っていく姿を見せたくない」と書き置きを残し、あずさのもとを去った。あずさは隆さんと再会するため兄に助けを求める。小説は自動車であずさを秋田の隆さんのもとまで送り届ける兄のまなざしから描かれている。
後半部は隆さんとあずさの物語。隆さんとあずさの関係は両親から認められたものではないのだが、兄のまなざしは常に優しい。あずさの兄への信頼もあつい。日本海象潟で海を見ながら、「隆さんの隣はね、あたしにとってパラダイスだったのよ」と、あずさは兄に話す。
隆さんはあずさとホスピスで再開した後、ほどなくこの世を去ってしまう。これによりパラダイスを失うことになったあずさだが、エンディングは絶望ではなく、新しいパラダイスへの希望を感じさせるものだ。あずさの成長物語でもある。
パラダイスは旅に出て見つけるものではないということを、あらためて教えてくれる作品。切なさの後、心地よい読後感を残す。
全13回。
昨日の沙々良まど夏さんの記事でも、旅に出ないでたどり着けるパワースポットについて記載があったので、こちらもご参考まで。
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