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【企業分析】Carvana

CVNA(NYSE)
時価総額: 47億ドル
株価: 26ドル
売上高: 128億ドル
純利益: ▲1.4億ドル
(2021年)

事業内容: 中古車販売
設立年: 2012年、2017年上場
本社: 米国アリゾナ州
創業者: Ernest Garcia III(Chairman & CEO)
従業員数: 21,000人

概要

カルバナ(Carvana Co)は、中古車を購入するためのeコマースプラットフォームである持ち株会社である。

Carvana社は中古の自動車をオンラインで直接販売したり、購入された中古車の受け渡しを自動社販売機から受け取れるユニークなサービスなどを行っています。

自動車の中古車購入は従来は全国各地にある自動車ディーラーから買うのが一般的でしたが、Carvana社のウェブサイトを通じ購入する事ができます。

プロダクト・ビジネスモデル

Carvana社のビジネスモデルは自動車の販売者と購入者を繋ぐマーケットプレイス形では無く自社で中古車を購入して販売しています。また車を買いたい購入者向けに融資を行う金融サービス、車登録の煩雑な書類の申請サポート、購入後のアフターケアを行うサービスもあります。 

ミクロ経済学の理論に「レモン市場」という言葉がありますが、中古車市場は昔から情報の非対称性が強く働く市場でしたが、Carvana社が直接在庫を持ち販売する事によって顧客の信頼を獲得し、オンラインでも高額である自動車の販売がスムーズに行えるようになったようです。

Web上に公開された1万1000台以上の中古車の中から希望のクルマを選択すると、10分程度で購入が完了します。

カーバナの歴史をひも解くと、中古車販売を行うドライブタイム社の子会社として設立されています。ドライブタイムは1977年に創業されたアグリー・ダックリング社を基とする歴史ある企業です。自動車ローンや自動車保険を取り扱う複数の子会社をスピンオフとして立ち上げており、カーバナはその一つとして独立して営業を行ってきました。

 消費者は同社が持っている特許技術により、360度全方位から撮影した画像で、中古車の外観、キズ、内装をオンラインで確認できます。必要な書類をアップロードするだけで、わずか2分ほどで与信審査が行われ、月々の支払額が計算されます。

購入した中古車の受け取り方法は2つ。自宅への配送、または「クルマの自動販売機」です。ガラス張りの立体駐車場のような自動販売機では、特製のコインを投入し、自動車を受け取りまふ。そのクルマに乗って、そのまま自宅へと持ち帰る流れです。

Carvanaとその7つの特長

中古車購入のAmazon、”Amazon of Cars”と言われているCarvanaは、中古車購入の体験を新しいものにするために生まれました。
Carvanaの顧客はディーラーに行くことなく、すべての中古車の購買プロセスをオンラインで完結することが可能です。

中古車ディーラーの販売プロセスは、①在庫の獲得 > ②検査 > ③仕入れ > ④修理 > ⑤仕立て > ⑥販売 > ⑦配達 の7つがあると思います。

ディーラーの視点から、中古車販売の各プロセスでCarvanaがユニークな点を(S-1に記載ないため個人的な見解が多く含まれますが)整理したいと思います。

①仕入れ在庫の獲得
・仕入れ可能で、仕入れてもすぐに売れ、利益を最大化できる車は何か?それを実現するために、社内外のデータを獲得&蓄積し、仕入れ可能な車の利益予測決定モデルをCarvanaは保有。

・予測モデルと実際に自社が保有する7,300台の在庫データを掛け合わせMachine Learningを活用ながら、どのエリアで、どのメーカー、モデル、年式、色が売れ筋商品なのか消費者需要をリアルタイムに把握した上で、獲得すべき在庫にあたりをつけることが可能


Carvanaの利益予測決定モデルは、恐らく日本のガリバーが保有しているものと近しいと思います

②仕入れ在庫の購入判断

・その車を買い取るか否か?
・Carvanaはほとんどの車をディーラー向けのオークションで仕入れ、消費者からの直接買取、 ディーラー/リース会社/レンタカー会社からの購入はほんの一部
・オークションは州により商慣習が異なりますが、実際に車を見るわけではなく、オークション会場のPC画面に車がどんどん流れてきて、購入判断をバイヤーがくだします。CarvanaがVIN(車両識別番号)や画像認識を駆使して、①で選んだ車をどのように購入判断しているのか?気になります。

日本だとこんな画面をPCで見ながら、オークションで応札します

③仕入れ
・Carvanaはディーラーライセンスがあるため、ディーラー向けオークションに参加することが可能
・店舗型のディーラーと異なるのは、テキサスやノースカロライナ州に仕入れた車を保管する場所を確保しているため、全米から車を仕入れが可能

④修理
・オークションで仕入れた後、修理工場(IRC/Inspection and Reconditioning Centers)へ仕入れた車両を輸送
・この修理工場もDriveTimeが恐らく保有している工場を間借りしているのではないかと仮説
・IRCで150以上の項目で検査実施、修理後に一定基準を満たした車に”Caravan Certified”認定し、販売可能
・独自システムで各修理プロセスを管理、自動車部品サプライヤーとEDIでシームレスにつなぎ、修理部品の調達を自動で実施するソフトを自社開発

⑤仕立て
・IRCにて撮影施設を完備、車両の内装と外装を360度の角度からの画像を撮影
・欠陥がある部分を自動的に識別して、アノテーションしてくれるので、消費者は気になる点をオンラインで認識することが可能

車体をマウスでドラッグしながら、傷が付いているところを確認することが可能

⑥販売
・価格の透明性を担保した、圧力のない購入体験の提供が可能
・”Caravan Care”という、VSC経由(DriveTimeの子会社)による新車保証の終了後の車に対して保証サービスを提供

⑦配達
・販売後、購入者の指定場所までデリバリー、または、自動販売機での引渡しが可能
・自動車購入者へのデリバリールートを最適化する配送エンジンが保有
・自動販売機でピックアップした際に、ソーシャルメディアで拡散してもらうための仕掛けあり

市場動向

中古車市場の規模は巨大だ。米国における2017年の中古車売り上げは7,640億ドルに上り、2017年から2022年の年成長率は2%と予測されている。2018年第二四半期だけで1000万台が売られ、平均価格はおおよそ2万ドルだ。3年ものの中古車は平均して38日で成約する。その低い在庫回転率からは、需要の高さがうかがわれる。 

 この巨大市場にあって、中古車販売市場には独占的な地位を占めている企業がない。米国では4万3000ものディーラーがあり、最も市場シェアを占めている企業でもその占有率は1.8%に留まる。 

 実は、中古車販売は必ずしも最適化された購買プロセスになっていないのが現状だ。実に81%の消費者が中古車の購入手続きを楽しんでいないという調査がある。同調査によると、「販売員をとても信頼できる」と回答した消費者は8%しかいなかった。 

 消費者側の変化を見ると、中古車購入におけるオンラインでの活動が目立つようになっている。97%の消費者は、オンラインで中古車の情報を調べているという。販売代理店を訪れる前に、購入するクルマを決めている消費者も多い。中古車ディーラーはオンラインでの情報提供を強化すると同時に、オフラインで提供するべき価値を見直す時期に来ている。これまで通りの業務を続けていても、デジタル時代の消費者を満足させることはできない。 

中古車にはトッププレイヤーが存在しません。最大手のCARMAXで2%、カーバナのシェアは0.5%です。

寡占化されてない市場は、米国では珍しいです。例えば、小売業ならばウォールマートが54%、家電ならばベストバイが40%、オンラインストアならばアマゾンが19%を占めます。寡占されてない市場は、新興企業にはチャンスだと言えますね。

未だに拡大するUSの自動車市場

自販連全軽自協による日本国内の新車販売台数の推移
北米の年間新車販売台数の推移

日本の25倍以上の面積があるUSでは公共交通機関は全土に張り巡らされている訳ではなく、一家に1台の自動車保有はMust。そんなお国事情もあってか、リーマンショックからは完全に回復し、人口増加ともに新車販売台数も増えています。

USの自動車市場は$1.1 Trillion (120兆円)もあり、US小売市場の実に約20%・GDPの3%を占めるのが自動車市場です。
120兆市場の内、中古車が占める割合は65% = 78兆円で、新車市場より中古車市場が大きいことがわかります。
新車販売が年間1,750万台に対して、中古車販売台数は年間3,800万台、平均販売価格も$18,552と高く、USにおける中古車市場は非常に魅力的です。

US Top100社の市場シェアは「7%

USで自動車を買う方法は主に3つあります。

①店舗型ディーラー
②オンラインディーラー
③個人間取引 (Craigslistなど)
この中で、自動車販売の大部分を占める①店舗型ディーラーは全米に63,000あります。内71%の45,000店を独立系、29%の18,000店がフランチャイズ型ディーラーが占めています。全米トップ100のディーラーを全て足し合わせても市場全体の販売シェアの7%と、非常にFragmented(断片化)な市場なのが特徴です。
店舗型ディーラーで最大規模のCarmaxでも全米で150店舗/売上$15Bn(1.7兆円)しかなく、全体市場の1%程度です。

販売ディーラー最大手Carmax社のFinancials

既存と新規参入が入り乱れるレッドオーシャン市場

数社による寡占化が進んでおらず魅力的な市場には、様々な既存プレイヤーが存在し、またスタートアップによる新規参入も相次いでいます。

Establishedなプレイヤー(公開企業)
Carmaxの様に、創業から24年で売上$15Bn(1.7兆円)、時価総額$11Bn(1.2兆円)を達成する企業もあり、USの市場の大きさを物語っています。

Establishedなプレイヤー(未公開企業)
スタートアップ

なぜ、新規参入が相次ぐのか?

市場の魅力度が高い(大きな市場規模、寡占化されていない)のはもちろんですが、この10年くらいの消費者の態度変容が大きい! と思います。
ほんの15年前までは:

・ディーラーに行くまで自動車価格の詳細情報は入手困難だった
・ディーラーを選択してから車を選んでいた
・複数の車を購入前にテストドライブした
それが今では:
・平均9時間オンラインで情報収集、95%の人はオンラインで購入車を決定後、ディーラーで車を購入する
・その際、ディーラーで購入する前に平均3回オンラインで見積依頼する
・ディーラー選びは、ローカルの雑誌・TV・ラジオ広告で情報を入手し、特にディーラーの違いは見出していない
・70%の人は、1台未満しかテストドライブしない
オンラインの情報が進んだ結果、買い手(消費者)と売り手(ディーラー)の情報の非対称性が縮小し、賢い買い物客が増えた結果、買い手と売り手のパワーバランスが変わったことが大きいと考えています。

実際に、J.D. Powerによると、ディーラーの2017年1–3月の車当たりの平均割引額は$3,900。中古車ディーラーの利益構造も中古車の販売からの利益から、Vin EtchingやTheft Deviceの設置などの車両盗難防止や自動車ローン利率の引き上げなど、自動車販売の周辺サービスから利益の柱を立てるように変化している。自動車の販売だけでは儲けがでなくなってきているようです。

そんな消費者心理や態度変容により、変化が求められているディーラー業界において、商機を見出しているのがオンライン型ディーラー、その代表格がCarvanaです。

業績

売上高と営業利益の10年間の推移

過去10年間の決算書を見ると、高い成長率で売上高は増えています。20年の売上高は55.87億ドルで、6年間で133倍にも増えていますね。対して、20年の営業利益率は−5.9%と改善しているが、営業損失額も拡大しています。

粗利益率は14.2%と、Eコマースとしてはかなり低いです。

BPSEPSの10年間の推移

過去10年間のBPS(1株あたり純資産)とEPS(1株あたり純利益)です。売上高の上昇に伴いBPSは順調に増えていますね。ただし、EPSの赤字幅も拡大傾向にあります。コロナ禍で売上高は増えるも、黒字化できる見通しはありません。

CFと投資CFの10年間の推移

過去10年間のフリーCF(営業CF−投資CF)は、毎年赤字幅拡大しています。カーバナは本業の収益が稼げてない上に、投資CFも年々拡大しています。EC企業なのに設備投資が大きい理由は、中古車販売用の自動販売機を設置してるからです。

売上高は年率42%、販売台数は37%で拡大

2015年からのカーバナの業績をまとめた資料です。

カーバナは平均して年率42%で売上高が拡大しています。また、販売台数は年率37%で24万台に増え、自動販売機は年率17%で27箇所に増えています。コロナ禍でもペースは落ちず、順調に売上高と販売台数を増やしています。

カーバナは中古車専用のECサイトを運営しています。一方で、中古車の自動販売機を設置し、実店舗でも中古車を販売しています。中古車の自動販売機は他にはなく、SNSなどで話題を集めています。

米国の中古車市場は、寡占化が進んでいない特殊なマーケットです。

経営者 

カーヴァナは、2012年にErnest Garcia III、Ryan Keeton、Ben Hustonによって設立された。CEOはErnie Garcia。

Ernie Garcia 共同創業者兼CEO

Garcia氏は、25の州で126のディーラーを運営する従来の中古車事業者であるDriveTimeの子会社として2012年にカーヴァナを立ち上げました。

Garciaは、中間業者に頼らず直接中古車を販売する方法としてCarvanaを立ち上げ、同社は融資サービスも提供しています。

2017年、Garcia IIは父親の会社DrivetimeからCarvanaをスピンアウトさせ、IPOで2億2500万ドルを調達しました。

父親のErnest Garcia IIはDriveTimeのオーナー兼経営者で、Carvanaの初期開発資金を援助し、現在も筆頭株主です。

米ZDNetはErnie Garcia氏と話す機会を得て、テクノロジー投資や、業務におけるデータの役割、企業文化に対する同氏の見解を語ってもらった。また筆者は、Carvanaのモデルを研究し、最終的に同社から自動車を購入したが、その購入プロセスはほぼシームレスだった。

まず顧客と問題に目を向け、テクノロジーはその次

 Garcia氏は「われわれは、どのような問題について考える場合であっても、顧客が何を必要としているのかをまず考察し、そこを出発点にしていると考えている。つまり、テクノロジーを出発点としているわけではなく、まず顧客からスタートし、生み出すべきソリューションに向けてそこからさかのぼって進んでいこうとするのが普通になっているというわけだ」と述べている。

データの活用方法

 Garcia氏によると、データはCarvanaの事業全体を支える鍵だという。例を挙げると、Carvanaはどのような自動車をどのような価格で購入すべきかを見極めるために、「毎日欠かさず、自動車に関する膨大な数」のフィードをチェックしている。また同社は自動車の再生修理も行っているため、プロセス管理だけでなく修理のデータもある。そしてもちろん、与信枠の評価や価格付け、ローン計画の作成に関連するデータもある。さらに、運送ネットワークによって自動車を顧客のもとに送り届けなければならないため、運行計画や輸送経路の最適化に関する大量のデータもある。

株価推移

コロナで最も恩恵を受けた銘柄のひとつです。なぜならば、外出規制で中古車の需要が高まり、EC売上高が前年比+65%で増えたからです。話題性があるEコマース関連銘柄でもあり、コロナ以降に株価は急騰しています。

しかしながら足元では米金融当局によるインフレ抑制への取り組みを巡る懸念を背景にコロナ前の水準まで急落しています。

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