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【企業分析】メルク(Merck & Co.)

MRK(NYSE)
時価総額:2,900億ドル
株価:114ドル
売上高:487億ドル
営業利益:138億ドル
(2021年)

事業内容:医薬品の製造・販売
設立年:1891年
本社:米国🇺🇸ニュージャージー州
代表者: Theodore Weicker(創業者)、George Merck(創業者)、Robert M. Davis(社長兼CEO)
従業員数:68,000人

概要

Merck & Coは、アメリカ合衆国ニュージャージー州に本社を置く、製薬会社である。

処方薬やワクチン、動物向け製品の開発、製造・販売を手掛け、世界140カ国以上で展開している。

1990年代までは医薬品業での世界売上高が断続的にトップであったが、2000年代はM&Aによる業界の再編に伴ってサノフィ・アベンティス、ファイザー、グラクソ・スミスクラインなどに抜かれた。しかし米国メルクは2009年11月に米同業大手のシェリング・プラウを買収、売り上げ規模においてはファイザーに次ぐ世界2位に復している。

メルク本社

設立の経緯

メルクは1668年にフリードリヒ・ヤコブ・メルク氏が経営権を獲得した薬局が始まりです。その薬局はドイツのダルムシュタットにありました。 

 また、その一族からは作家であり、ゲーテの友人・後援者であるヨハン・ハインリッヒ・メルク氏が出ています。化学や薬学だけではなく、文学や芸術にも造詣の深い一族でした。

会社としての設立は1827年です。1827年にドイツで創業されたメルク社(Merck KGaA)のアメリカ拠点として1891年にニューヨークに設立されたのが始まりで、それを第一次世界大戦中の1917年、敵国企業としてアメリカ合衆国連邦政府がその資産とともに接収し、別個のアメリカ企業として独立させたものである。

ニューヨークに米国メルク(Merck & Co.)を設立したのは、メルク社(Merck KGaA)をドイツで創業したエマニュエル・メルク(Emanuel Merck)の孫、ジョージ・W・メルク(George W. Merck)であり、この設立年である1891年が米国メルクの設立年とされている。

一方、第一次世界大戦後にもドイツを拠点とするメルク社(Merck KGaA)は事業を継続していたため、結果として二つの「メルク」が今日まで存在し、それぞれ医薬品を扱う世界的企業として発展するに至っている。

NYSE上場のメルクアンドカンパニーは北米でのみメルクと名乗ってます。日本など海外ではMSD【Merck Sharp & Dohme】です。日本子会社は昔の萬有製薬です。海外ではメルクを名乗る権利を有していません。

 ドイツのメルク社は北米では【Emanuel Merck, Darmstadt】という名称です。名称権を北米ではMSDが持っているからです。ティッカーは「ドイツDAX」のMRKがドイツメルクでNYSEのMRKが米国メルクです。

両社は組織としては別会社です。

分社後の米国メルク社は規模が非常に大きく、1990年代までは業界首位級の売上でした。しかし、世界的な製薬業界の合併、再編の流れでファイザーやサノフィ、グラクソの後塵を拝することになります。

プロダクト・ビジネスモデル

米メルクはオンコロジー(がん)や糖尿病、肺炎、循環系など多様な分野に製品ポートフォリオを持つちます。

2009年にシュリング・プラウを買収して世界トップクラスの規模に成長しました。

売上高の4割強が米国で、その他欧州・中東、アジア等世界中で事業を展開しています。

地域別売上構成比

地域別売上高推移

開示セグメントは製薬と動物医薬の2つに分かれますが、売上高の9割は医薬品部門です。

セグメント別売上構成比

セグメント利益推移

また医療用医薬品では以下の9つの事業領域に特化しています。 

Oncology(ガン)
Vaccines(ワクチン)
Hospital Acute Care
Immunology(免疫疾患)
Neuroscience(神経疾患)
Virology(ウイルス性疾患)
Cardiovascular(心臓血管系疾患)
Diabetes(糖尿病)
Women’s Health

主なパイプラインとしては免疫チェックポイント阻害によるがん治療薬の「キイトルーダ」、糖尿病治療薬の「ジャヌビア」「ジャヌメット」、子宮頸がん予防ワクチンの「ガーダシル」、高脂血症治療薬の「ゼチーア」、C型肝炎治療薬の「ゼパティア」などがあります。

キイトルーダ®点滴静注 100mg 製剤写真

キイトルーダを始め革新的な医薬品ポートフォリオを持ち、他の製薬メーカーに比べて値上げし易い状況にあるのがメルクの強みです。一部のバイオシミラーの事業資産をスピンオフして、がん治療など革新的な医薬品開発に注力する方針です。

開発品のパイプライン

フェーズ3 30
フェーズ2 82
フェーズ1 非公開
(公式HP参照)

ものすごく充実したパイプラインです。

特に後期段階(Phase2,3)にある製品も多く、今後もしばらくは継続して新薬が出てくるとと考えられます。

現在のメルクの主力商品は、がん治療薬Keytruda(キイトルーダ)です。キイトルーダの全社に占める売上比率は3割と、依存度は高めです。

キイトルーダは、小野薬品工業/ブリストルマイヤーズのオプジーボの独壇場だった免疫チェックポイント阻害薬*の市場に2017年殴り込みをかけました。そして2018年以降適用例を増やし、2019年には世界で最も売れた医薬品ランキングで3位につける大ヒットとなっています。

・キイトルーダは競合品オプジーボをおさえ、市場シェアトップ。2025年は22,200百万ドルに上り、世界医薬品売上ランキング1位との予測もある。当面の売り上げ基盤は盤石とみられる

ただし、2028年に特許が切れることから、”キイトルーダ後”に備えた仕込みが必要。その一つとして、今年前半に婦人医療の分社化をする。それにより、経営資源を成長領域のがん治療、ワクチン、病院製品、糖尿病治療薬、動物用に集中させる方針

キイトルーダ以外の製品では、以下があります(カッコ内%は売上構成比)

・子宮頸がんに対するHPVワクチンのGardasil(ガーダシル):3,938百万ドル(8%)

・糖尿病薬Januvia(ジャヌビア):3,306百万ドル(7%)

ただ、ガーダシルは米国特許切れ2028年ですが、ジャヌビアは22年ですので、今後製品ポートフォリオの拡充を加速させる必要があります。

メルクは、過去に結核の特効薬、麻しんワクチン、おたふくかぜワクチンなどヒット商品を世に出してきた開発力が強み。2019年は製薬会社世界2位の研究開発費規模だったが、今後も成長市場向けの積極的な研究開発投資で、バイオ医薬品トップ企業を目指す方針

市場動向

製薬会社 世界ランキング

ロシュ 5.1%減収も4年連続の首位

コロナ禍に見舞われた2020年、世界の製薬企業で売上高トップとなったのは、スイス・ロシュ。624億600万ドル(約6兆6488億円)を売り上げ、前年から5.1%(公表通貨ベース)の減収となったものの、2017年から続くトップを守りました。2位は486億5900万ドル(前年比2.6%増)の同ノバルティスで、3位は479億9400万ドル(2.5%増)の米メルクでした。

世界の医薬品市場

世界の医薬品市場の売上は、2021年、全体で1兆4,235億ドル(日本円にすると、約157兆円)に上ります。地域別で見ると、一番大きい市場はアメリカで、世界の約40%を占めています。次に、欧州5カ国、中国と続き、日本は第4位、市場規模は約9.4兆円です。アメリカは、企業が薬の値段を自由に決めることが出来ます。一方、日本を含めた多くの国では、薬の価格(薬価)は行政機関によって決められます。

上位4地域の2017年から2021年の年平均成長率が最も大きいのが中国で、日本は、ほぼ横ばいでした。

世界の癌治療市場

世界の癌治療薬の市場規模は、2021年に1,774億米ドルとなりました。

同市場は、2021年から2026年にかけて12.1%のCAGRで拡大し、2026年には3,137億米ドルに達すると予測されています。

製薬会社のビジネスモデル

新薬を発売するには、9年から16年にも及ぶ研究開発期間と、数百億円から、場合によっては1,000億円を越える費用が必要であり、およそ25,000個の化合物から1つの新薬が生まれるというほど、大変ハードルが高いものです。一方、このような過程を経て承認された新薬は、特許期間や再審査期間の間は、独占販売が認められます。(ジェネリック医薬品は、開発期間が3~4年、開発費用は数億円と言われています。)

新薬は発売後、独占販売期間中は売上が拡大するものの、独占販売期間が終了すると多数のジェネリック医薬品が登場し、売上が急激に落ち込みます。売上の急激な減少は、そのグラフの形から製薬業界でパテントクリフ(=特許の崖)と呼ばれています。私たち新薬メーカーが、パテントクリフを克服し持続的に成長していくためには、研究開発を通じ絶え間なく新薬を開発・発売していく必要があります。

業績

売り上げと利益推移

  2010年の売上増は、「コパトーン」シリーズのスキンケアで知られるシェリング・ブラウのM&Aに伴うものです。その後、事業の再編を行い、一部事業をドイツのバイエルに売却しています。2011年、2012年の営業利益の増加はそれに伴うものですね。

2015年以降は落ち着き、免疫チェックポイント阻害薬「キートルーダ」の貢献もあって売り上げは右肩上がりになっています。同分野でキートルーダは先行するオプジーボと競合、凌駕しつつあり、抗がん薬としての地位を確立しています。

 ちなみに、2018年の世界における売上高はキートルーダが61.2億ドルで、先行するオプジーボとほとんど同じでした。両剤とも、22年には100億ドル近くまで売り上げを伸ばすと言われています。すでに2019年3Qで30億ドルの売上ですから、前倒して達成する可能性がありますね。

 子宮頸がんなどの原因になるヒトパピローマウイルス (HPV) の感染予防ワクチン「ガーダシル」、糖尿病薬の「ジャヌビア」、抗リウマチ薬なども広くシェアを獲得しています。

ちなみに研究開発費は競合と比較して高水準です。メルクは、歴史的にも結核の特効薬、麻しんワクチン、おたふくかぜワクチンの開発、ブロックバスター、降圧剤バソテックの開発など、高い研究開発力が強みです(参照元)。そのため、キイトルーダ以外の軸を育てるべく、積極的に研究開発投資を行っていくと考えられます。

キャッシュフロー

バランスシート

資産

負債純資産

バランスシート構成は流動資産3割、固定資産7割です。流動資産は現金、在庫、売掛債権といった運転資本。固定資産はのれんと無形資産が多いです。無形資産は買収で取得した医薬品の販売権、特許権などです。

株主還元

配当は緩やかながら増加基調。自社株買いも継続的に実施しており、総還元性向はほぼ毎年100%超です。

経営者 

創業

メルクのルーツは17世紀のヘッセン=ダルムシュタット州(現在のドイツの一部)にまでさかのぼります。1668年、薬屋であったフリードリッヒ・ヤコブ・メルクは、ダルムシュタットのエンゲルアポテーク(天使薬局)のオーナーになりました。

1816年、創業者の子孫であるエマニュエル・メルクが薬局を引き継ぎました。メルクは科学的な教育を受け、研究所でさまざまなアルカロイドを分離し、その特性を明らかにすることに成功し、多くの医薬品を発明した。1827年、彼はこれらの物質を「大量に」製造し始め、「医薬化学品の革新的なキャビネット」と称した。彼とその後継者たちは、医薬品製剤の原料に加えて、その他多くの化学物質や(1890年から)医薬品を生産する化学医薬品工場を徐々に建設していった。

1891年、ゲオルク・メルクはアメリカに進出し、セオドア・ウィッカーとともにニューヨークでMerck & Co.を設立しました。Merck & Co.は第一次世界大戦後に接収され、米国で独立した会社として設立された。現在、米国の会社は、米国とカナダ以外ではMerck Sharp and Dohme(MSD)として活動し、120カ国で約6万8千人の従業員を抱える(2021年12月)。67カ国で60,334人(2021年12月)の従業員を抱えるドイツの先祖より大きく、世界トップ5の製薬会社の一つである。ダルムシュタットのメルクは、本家メルクの法的後継者であり、米国とカナダを除くすべての国で「メルク」の名称の権利を保持していますが、北米では「ドイツのメルク」または「メルク・ダルムシュタット」と呼ばれることもあります。以前は「E.メルク」(エマニュエル・メルク)とも呼ばれていた。

CEO

ロブ・デイヴィスは、メルク社の取締役会長兼最高経営責任者です。

前職はメルクの社長として、ヒューマンヘルス、アニマルヘルス、マニュファクチャリング、メルク・リサーチ・ラボラトリーズの各部門の責任者を務めた。それ以前は、グローバルサービス担当執行副社長およびメルクの最高財務責任者を務めた。

ロブは2014年に最高財務責任者として入社し、さらに不動産事業、企業戦略、事業開発を担当しました。2016年、彼の役割は、情報技術と調達の責任に拡大され、グローバルサービスを形成しました。2021年4月に社長、7月1日にCEO兼取締役、2022年12月1日に取締役会長に就任した。

メルク入社以前、ロブはバクスターの医療用製品事業のコーポレート・バイスプレジデント兼社長を務めていた。バクスター在職中は、腎臓事業の社長、最高財務責任者、会計責任者などの役職を歴任した。2004年にバクスターに入社する以前は、イーライリリー・アンド・カンパニーで14年間、責任ある立場で数々の役職を経験した。

また、米国最大級のエネルギー保有会社であるデューク・エナジー社の取締役を務め、財務・リスク管理委員会の委員長およびコーポレートガバナンス委員会の委員を務めている。また、医療従事者が最も必要とされるときに、最も必要とされる場所で、専門的なケアを提供できるようにすることを目的とした非営利団体、プロジェクト・ホープの理事を務めています。また、女性のキャリア機会と企業リーダーシップへの平等なアクセスを促進する世界的な非営利団体であるカタリストの理事も務めています。

ノースウェスタン大学ロースクールで法務博士号を、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBAを、マイアミ大学でファイナンスの学士号を取得しています。

株価推移

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