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「ありた」という犬(幻)

私には「ありた」という名前の愛犬がいました。
犬種は不明ですが、グレーの短い毛で、額の模様のせいでいつも困っているような表情をしている、野良出身の老犬でした。

「ありた」との出会いは、保護団体が開催しているふれあい会に、友人の付き添いで行ったことでした。
犬、猫、ハムスターなど、ことごとく動物が苦手な私でしたが、少し高い昼ご飯につられて、しぶしぶついていくことになりました。

犬達に怯えながら、できるだけ距離をおいて歩いていると、困った顔をした犬がじっと私を見ていることに気がついたのです。
大人しく、敵意も感じられなかったので、私はずっとその犬を見つめていました。
目の中にいる私は、なんとも不思議な表情をしています。
困った顔の犬もじっと私を見つめていました。 

「行くよー。」

友人の声でふと我にかえり、友人のもとへ走って戻りました。
そのあとの昼飯は何を食べて、どんな味がしたのか覚えていません。
ただ、あの困った顔の犬の事だけを考えていました。

そして翌日から、犬に慣れる特訓が始まります。
友人宅に押しかけ、最初は頭を撫でるところから。
手からエサを上げ、ブラッシングし、抱っこ…と、徐々に段階を踏んでいき、散歩ができるようになりました。

そして半年後、困り顔の「ありた」と暮らすことになったのです。

ありたは、私が寝ようとすると、必ず隣にきます。
夏でも冬でも。
残業で夜遅くに帰宅しても、玄関で待っていて、一緒に寝床に入ります。
保護される前、よっぽど寂しかったんだろうと思うと、心がぎゅっと潰されました。

毎日、毎日、一緒に寝るのは、ありたが小さなツボにはいるまで続きました。

ありたがいなくなったある日の事、寝ていると、隣にありたの気配を感じて、思わず「ありたっ!」と言って飛び起きました。
伸ばした手は虚しく空気を切りました。
ありたはもういないんだ。

感傷にひたる私を、困り顔で見ているありたの写真がありました。


他にも川遊びのエピソード等あるのですが、恐ろしい事に全部夢の出来事です。
(ありた!と叫んで起きたのは本当)

飼った事のない犬がいなくなった喪失感で、昨日の午前中はずっと落ち込んでいました。    

今日はゆっくり過ごそうと思います。

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