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第86回 「現金等残高」と「現金比率」

キャッシュフローの欄の中には、キャッシュフローの他に「現金等残高」と「現金比率」いう欄があります。

まず、「現金等残高」ですが、これは「現金及び現金同等物」の残高について記載されています。
「現金同等物」とは、容易に換金できるものであり、かつ、価値の変動リスクが小さい短期投資の債券等のことです。
例えば、期間が3か月以内の定期預金、譲渡性預金、コマーシャル・ペーパー、公社債投資信託等です。
つまり、いつでも流動資産として現金化し、支払いに充当できる金融商品ということになります。

この「現金及び現金同等物」は直ぐに支払いに回すことが出来ることから、「手元資金」と呼んだりします。
また「現金及び現金同等物」が多い企業は、キャッシュリッチ企業と呼んだりします。
なぜなら、このような企業は、実質的に無借金経営に近く、新規事業への設備投資や配当等に回せる余裕資金が多いからです。
このことから、投資対象として非常に魅力的であるとも言われています。
更に、買収後に企業を解散して財産を分配したときの解散価値が高いので、ファンドなどの買い占め対象になり易いともいわれます。

しかしながら、今のことを悪く言えば、単なる金余り企業と言い換えられます。
利益を人件費や設備投資、研究開発費などに再投資することなく、内部留保として単に蓄えているだけだからです。
人で言えば、大金を持ちながらも、銀行にすら預けず、タンス預金しているようなものです。
悪意を持って言えば、デブデブの水膨れ状態です。

しかしながら、一般的にこうした企業は、資本政策として増配や自社株買いなどの株主還元策を行う可能性が高いと見なされています。
特に自社株買いは、自己資本の削減につながり、ROEを高める効果があります。
また、PERやPBRはより割安に計算されるようになるため、発表後に広く投資家に買われる要因になります。
特にここ最近は、東京証券取引所から株主還元を積極的に実施するようにという依頼が上場各社に出されているので、内部留保を積極的に株主に対して還元しようとする企業が増えています。

また真の意味で、企業がキャッシュリッチかどうかを測る最も代表的な尺度として、「現金及び現金同等物」から「有利子負債」を差し引いた「ネットキャッシュ」というものがあります。

「ネットキャッシュ」 = 「現金及び現金同等物」-「有利子負債」

これは、手元資金から借入額を差し引いたもので、実質的な借金依存度を示すものになっています。
この値がプラスなら、実質的には無借金経営と言うことになります。
逆に大幅にマイナスならば、借金依存度が高く金利上昇局面では注意が必要な企業と考えることが出来ます。

また、「ネットキャッシュ倍率」というものがあります。
これは、時価総額を「ネットキャッシュ」で割ったものです。

「ネットキャッシュ倍率」 = 「時価総額」 / 「ネットキャッシュ」

「ネットキャッシュ倍率」が小さい企業ほど、蓄えた現・預金が有効に活用されていない上、株価として割安と評価されます。
このため、敵対的買収などのM&Aの標的にされやすいです。
ですから、「ネットキャッシュ倍率」が小さい企業は、買収防衛策の一つとして、その倍率を引き上げる為に、時価総額(株価)の上昇とネットキャッシュの減少を迫られます。
その結果として、増配や自社株買いなどの株主還元を行う可能性が高いとして、投資家が注目することになります。

続いて「現金比率」です。
「現金比率」とは、総資産に対する現金等残高の割合を示すものです。

現金比率 = 総資産 / 現金及び現金同等物

比率が高ければ高いほど、より自由度の高い資産として企業が保有しているとみなされます。
企業として、この値が30%以上あれば問題ないと一般的に言われています。
逆に比率が低ければ、固定資産などの容易に現金化できる資産ではなく、自由度が低く最悪の場合は黒字倒産に陥る「risk」もあるということです。

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