第16回 『return』の大きさ

『risk』には、必ず『return』が存在します。
それなら、『return』が存在すれば、その危険は『danger』ではなく、必ず『risk』になるのだろうかという疑問が湧きます。
結論から言えば、必ずしもそうはなりません。
多分、既に気づいている人も多いと思いますが、『risk』に見合った質量を有する『return』でなければ、『risk』を冒す意味が希薄になるからです。

例えば、目の前に切り立った谷があるとします。
この例え話は今後も良く使うことになるので、この谷を『例えの谷』と名付けるので、覚えておいて下さい。

谷の幅は10メートルほど。
走り幅跳びで超えようとしても、カール=ルイスでも難しい幅です。
そして、深さは300メートル。
壁は抉《えぐ》れるような急峻なものであることから、落ちれば谷底まで一直線、転落死を免れることはできません。
でも、この谷には、一度谷底まで降りて、再び登るという道が作られています。
その道は階段状に整備されている上に、転落防止の柵や手すりも付いている安全なものです。
ただ、降りて、登ってするのに2時間程度かかりるほど長いのです。
階段も数千段あるので、体力もかなり奪われる。

この『例えの谷』に、丸太の橋がかかりました。
人一人を何とか支えられる程度の細さで、固定もされていないので、体重の入れ方によっては左右に揺れます。
そんな丸太の橋を見て、あなたは渡ろうとするでしょうか・・・・。

私なら、渡らないと即答できます。
時間がかかっても、安全な道を選びます。
わざわざ不安定な丸太を渡るような危険を冒す必要は無いと考えるからです。

しかし、早く向こう側に行きたい事情があれば、話が変わってしまいます。
2時間かけて谷を降りて登る時間が惜しいとなれば、絶対に渡らないと即答するのが難しくなります。

ただ、その事情も、学校や仕事に遅れるという程度なら、私は渡らないと即答できます。
遅れたところで、被る被害はたかが知れています。
学校や仕事ごときのために、命を懸けることはできないと考えているからです。

ならば、賞金が掛かっていればどうだろうか!?
早く到着すれば賞金が貰えるレース中に、そのような場所に出くわしたらどうするだろうか!?
丸太橋を渡る??それとも、渡らない??
私なら、賞金額で変わると思います。

1万円なら!?
10万円なら!?
100万円なら!?
1,000万円なら!?
1億円なら!?

つまり、同じ『risk』でも、『return』が異なれば、冒す危険に価値があるかどうかが変わってくるのです。
ならば、賞金額が幾らなら、丸太橋を渡ろうと考えるのか・・・・。

実は、ここが重要なポイントになります。
人によっては10万円でも渡るという人もいれば、1億円でも渡らないという人もいる。
なぜなら、人それぞれの能力や、お金の重みが違っているからです。

例えば、日ごろから綱渡りをやっているサーカスの曲芸師と、高所恐怖症の引きこもりの人では、丸太橋に対する『risk』は大きく異なります。
曲芸師なら、「危ないだろうけど、いつも通りにやれば大丈夫さ」と考えるでしょう。
引きこもりの人だと、「いや、外に出ることさえ無理なのに、あんな丸太なんて渡れない」と考えるでしょう。

それぞれの丸太橋に起因する『risk』に対する意識が違うことから、『return』も変わる。
曲芸師なら、100万円も貰えれば、渡ることを選択する。
引きこもりの人なら、1億円でも渡ろうとしないだろう。

つまり、丸太橋という危険な存在は、全ての人に対して平等に存在している。
誰かには渡り易く変化し、誰かには渡り難く変化するなんてことはありません。
しかし、人それぞれの能力に違いがあることから、『risk』に対する意識が異なることになります。
『risk』に対する意識は、『risk』の大小の違いと理解しても良いです。
つまり、全ての人にとって同じトラブルでも、その人の能力によって『risk』の大きさは異なるということなのです。

実は、これが非常に大事なことなのです。
集団で『risk』に対処しようとすれば、『risk』の共有が必要になります。
しかし、それぞれの能力の差で、『risk』に対する意識が大きく異なってしまいます。
その結果として、『risk』の共有は出来ないということになりかねないからです。

それなのに、職場では直ぐに『risk』を共有しようとするでしょう。
実は、ここで言うべきなのは『risk』の共有ではなく、そのおおもとにあるトラブルの共有になります。
トラブルを共有して、そのトラブルに対して最も『risk』が小さい者に対処させる。
この点を間違っている日本人が、非常に多いのです。

因みに、30年前の私なら1,000万円で渡っていたでしょうが、今の私なら1,000億円でも渡らないですね。
もう、命を懸けてまでお金は欲しくないですから・・・・。

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