第57回 狡兎三窟(ウサギの三窟)

自分の身は、自分で守る。
既に有名無実化してきた退職制度と年金制度の中で、いかに家族に不自由させず、豊かに生活するかは、自分の両肩にかかってきたということです。
国や会社は、当てになりません。
そこで、そのための手法として、「狡兎三窟」の考え方を学べばよいと思います。

「狡兎三窟」は、諸子百家の中の縦横家の教書である「戦国策」の中の「斉策」にある一話です。
「狡兎」は「狡賢いウサギ」、「三窟」は「3つの穴」という意味です。
狡賢いと言われれば良くない印象ですが、生き残るための策略を巡らすという意味で使われていると思ってください。

出演人物
孟嘗君~斉の王族であり、名宰相だと世間から尊敬を集めている≪読み:もうしょうくん≫
馮驩 ~孟嘗君の食客≪読み:ふうかん≫
湣王 ~斉の国王であり、孟嘗君の従兄の子≪読み:びんおう≫
昭王 ~魏の国王≪読み:しょうおう≫

孟嘗君は斉王国の王族であり、宰相を務めていました。
ところが、国王であり従兄の湣王は、孟嘗君が嫌いでした。
なぜなら、有能な孟嘗君の名は世間に蔓延っており、斉国内であっても湣王より孟嘗君を慕う人たちの方が圧倒的に多かったからです。
このため、湣王は、近臣の甘言に乗って、ついつい孟嘗君を宰相の地位から罷免してしまいました。
罷免された孟嘗君は、領土である薛公国に帰ることにしました。

この時、孟嘗君の食客である馮驩が、孟嘗君に対して一つの忠告をしました。
「狡賢いウサギでさえ、巣穴からの出口が3つ(三窟)あって、やっとのことで狼から狩られずに済んでいるんです。今、あなたには1つしかなく、枕を高くしてお休みになることは出来ません。」
「それはどういう意味だ!?」
「大丈夫です、あなたのために私が、あと2つ掘ってまいりますので、馬車を一乗お貸し願いたい。」
そう言って、馮驩は馬車に乗って旅立ちました。

まず馮驩が目指したのは、隣国の魏王国でした。
魏王国は、孟嘗君が斉王国で宰相に就任する前に、宰相を務めていた国でした。
魏王国の昭王は孟嘗君を手放したくなかったのですが、斉王国の宰相である孟嘗君の父が危篤になり、泣く泣く帰国を許したら、孟嘗君はそのまま父の後を継がされてしまったという経緯がありました。

そこで馮驩は、昭王に孟嘗君が解任されたことを教えました。
昭王は再び孟嘗君を宰相にする好機が来たと大喜びし、契約金に当たる金銀財宝を馬車に乗せて、臣下を薛公国に向かわせました。
馮驩は使者を先回りして、急いで孟嘗君に会いました。
「魏の昭王があなたを宰相に迎えるための使者が来ますが、決してお受けにならないように。」
「どうしてだ!?」
「もし受けてしまったら、窟は2つしか掘れません。3つ目を掘るには受けて頂かないことが条件なのです。」
「分かった。君の言うとおりにしよう。」
馮驩は孟嘗君と約束すると、急いで今度は斉王国に行き、湣王に謁見しました。

湣王は馮驩が孟嘗君の食客だと知っているので、明らかに不機嫌そうでした。
「陛下は、魏王が孟嘗君を宰相に迎えるために使者を遣わしたことをご存じですか!?」
「いや。」
「陛下は孟嘗君の名声を嫌というほどご存じでしょう。もし孟嘗君が魏王国の宰相になれば、多くの人たちは魏王国に従うことになるでしょう。」
「それがどうした!?」
「しかし、孟嘗君を斉王国の宰相に復位させれば、多くの人たちは斉王国に従うことになります。斉王国は陛下の国です。賢明な陛下であれば、どちらが良いかお判りでしょう。」
「なるほど。孟嘗君が魏の宰相となってしまったら従わせることが出来ないばかりか、魏王の名代としてワシが従わなければならなくなる時があるということか!?」
「ご明察の通りです。陛下は魏王に倍する金銀財宝を臣下に持たせて、罷免したことを詫びつつ復位させるべきです。」
「分かった。」

こうして孟嘗君は、再び斉王国の宰相になった。
そして湣王に会うときに、馮驩に言われた通りのことを願い出た。
「わが薛に、王家に対する忠誠の証として、威王、宣王の廟(お墓や神社みたいなもの)を建てたいのですが、ご許可頂けないでしょうか!?」
威王、宣王は、湣王の祖父、父に当たることから、湣王は喜んで許可した。

「斉の宰相という2つ目の穴と王家の廟という3つ目の穴を掘りました。これであなたも、枕を高くして眠れることでしょう。」
馮驩は孟嘗君の耳元でそう言いました。

後に、やはり湣王は孟嘗君を煙たく思い、再び宰相を罷免しました。
そんな時に、楚王国が孟嘗君の薛公国に攻め込みました。
多勢に無勢で、さすがに孟嘗君も為す統べなく滅ぼされそうになった時に、湣王が援軍を派遣して、楚軍を追い払いました。
湣王は、援軍を出す気などさらさら無かったのですが、このまま放置すれば薛にある祖父と父の廟が楚軍に踏み荒らされることに気づいて、嫌々援軍を出したのでした。

この時代、楚王国は、南方の野蛮国家という扱いでした。
馮驩は、孟嘗君を守るためには、薛公国という領土の存在だけでは足りないと考えていました。
より安全策のために、斉王国の後援が要ると考えたわけです。
ただ、湣王との仲が悪いことから、復位してもいずれ再び罷免されるだろうと考え、罷免された後も湣王が無視できないよう廟を薛に建てさせたのです。

このように「risk management」的にも、1つに縋ることは良くないことだとわかります。
我々でいえば、収入減が一つであることは良くないことだと考えるべきです。
労働して対価を貰うことが今の日本人の生活の大前提です。
しかし、給与だけに頼った人生設計をしているから、離職することを過度に恐れ、現職に縋りつかなくなる訳です。
ですら、狡兎三窟のように、収入源は3つ持つべきなのです。

1つ目は、労働の対価、仕事、給与で良いと思います。

2つ目は、資格、趣味などを、収入が得られるほどに頑張るべきです。
給与と同額を得なければならない訳ではなく、月1万円程度でも良いと思います。
別に収入源を持つことで、不思議と余裕が出てきます。

3つ目は、投資です。
仕事と趣味で時間を費やしていたら、時間はあまり残っていません。
だから、自分ではなく、財産に仕事をしてもらう訳です。
投資は、その要諦さえ理解出来たら、それほど時間をかけずに行うことが出来ます。

ここでは、基本的に「投資」について学んでもらおうと思っています。

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