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第87回 EV/EBITDA倍率

最近、企業の決算を見ていると、「EBITDA」が表記されていることが多くなってきました。
企業によっては、「営業利益」ではなく、「EBITDA」を意識して経営しているとまで書いてあるところがあります。
そこで、この「EBITDA」ですが、「Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization」の略で、営業利益と減価償却費やのれん償却費を加えて算出される利益のことです。

「EBITDA」 = 「営業利益」+「減価償却費など非資金費用」

「EBITDA」を意識する企業は、グローバル企業に多いです。
これは、欧米の投資家が「営業利益」よりも、「EBITDA」を意識して投資先を探すようになっているからであり、一時期の「ROE」を意識した投資が流行ったのと同じようなものです。

欧米の投資家が「EBITDA」を活用する理由は、複数国に跨る同業他社間の業績を比較・分析する際に利用しやすいからです。
単一の企業の業績だけを見るなら、これまでのように「営業利益」、「経常利益」や「当期純利益」を指標にして判断すれば良かったのですが、「営業利益」には減価償却費、「経常利益」には利息、「当期純利益」には税金が差し引かれています。
実は、これが困るのです。
なぜなら、国それぞれで、減価償却方法、利子率、税金等が異なっている為、純粋に企業の収益力を比較することが出来ないからです。
真の収益力で比較したいなら、これらの影響を受けない数値で行わなければならないからです。

また、このことから「EBITDA」を求める計算式は、下記の3通りが考えられます。
利益をそれぞれの段階で分割して表示しているのですから、ある意味当然の結果です。

「EBITDA」 = 「営業利益」+「減価償却費など非資金費用」
「EBITDA」 = 「経常利益」+「減価償却費など非資金費用」+「利息」
「EBITDA」 = 「純利益」+「減価償却費など非資金費用」+「利息」+「法人税」

この「EBITDA」ですが、実は「EBITDA」自体で比較されることは少なく、「EV/EBITDA倍率」が使用されることが多いです。
「EV」とは、買収価値のことです。
その求め方は、下記のとおりになります。

「EV」 = 「時価総額」 - 「ネットキャッシュ」 + 「少数株主持ち分」

前回説明した「ネットキャッシュ」は、「現金及び現金同等物」-「有利子負債」で求められます。
ですから「EV」は、以下のように書き換えられます。

「EV」 = 「時価総額」 - (「現金及び現金同等物」-「有利子負債」) + 「少数株主持ち分」
「EV」 = 「時価総額」 - 「現金及び現金同等物」 + 「有利子負債」 + 「少数株主持ち分」

「時価総額」は、「株価」×「発行済み株式数」で算出されますから、その企業の時価と言えます。
そこから、先ずは「現金及び現金同等物」などを控除します。
その企業を買収したら、その「現金及び現金同等物」は自分のものになります。
だから時価からマイナスします。
逆に「有利子負債」は、プラスします。
「現金及び現金同等物」は自分のものになるのと同様、「有利子負債」も自分が背負うからです。
最後に、「少数株主持ち分」をプラスします。
これは、「少数株主持ち分」が会計上「デットライクアイテム」に分類されるためで、企業価値から別途控除する将来的な支出・損失又は収入減少をもたらす負債類似項目とされているからです。

以上のことから、「EV/EBITDA倍率」は、「買収価値/真の利益 倍率」と言い換えられます。
つまり、「EV/EBITDA倍率」とは、「EV(買収にかかる価値)」を「EBITDA(真の利益)」で割るのですから、「買収した経費を何年で元が取れるか」という意味になります。

これは、「EV/EBITDA倍率」が、買収を目的とした場合の企業価値になります。
当然、この値が小さければ小さいほど、早く資金が回収できるということになります。
つまり、TOB対象にされ易いと言えるでしょう。

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