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「常に『今の時代』の物語を書きたい」 紫金陳先生インタビュー

「本格ミステリ×社会派」の警察サスペンスの指折りの書き手で、大陸で絶大な人気を誇る紫金陳先生。
 昨年には人気シリーズ第一作『官僚謀殺 知能犯之罠』が邦訳刊行され、また、累計5億PV突破という驚異的な視聴回数を記録したサスペンスドラマ『バーニング・アイス』(原作『推理之王2 無証之罪』)の原作者として日本でも注目される紫先生に、創作の姿勢や好きな日本ミステリについて、インタビューしました。
(このインタビューは、2019年5月開催の『知能犯之罠』出版記念イベントの来場者特典冊子に収録されたものです)

―先生の作品には「監視カメラをかいくぐる」トリックがたびたび登場します。こうしたモチーフを描くことにこだわりがあるのでしょうか?
「推理小説は時代に即していることを必要とし、時代と共に変化しなければなりません。私は常に『今の時代』の物語を書きたいと思っています。
 目下、中国の各大都市において防犯カメラシステム『天網』は巨大な規模を有しており、警察の事件捜査における依存度は非常に高くなっており、最も重要な事件解決手段と言えます。
 推理小説は現実の技術を避けるのではなく、技術の進歩に従って前進するべきと私は考えます。『黄金時代』には存在しなかったDNAや微物検出鑑定技術を、その後の推理小説が取り入れていったのと同じです。

―執筆の上で大切にされているポイントを教えてください。
「小説を書く上で私が最も重視しているのは、“読者にはっきりと白状する”ことです。『これは伏線だよ、あとで使うよ』とはっきり見せてしまうのが好きです。分かりづらい書き方で読者をミスリードさせ、どんでん返しの効果を狙うことは好きではありません。
 読者に結末を思い至らせない方法は2種類あります。一つは、手がかりを大量に用意し、読者を追いつけなくさせ、最後に無数の手がかりの中から一つだけ役立つものを見つけるというものですが、これはレベルの低いやり方と言えます。レベルの高いやり方とは、たった一つの手がかりで、大勢の読者をミスリードさせるような方法でしょう。ただし、作家が言葉を用いて、故意に読者をミスリードさせるものではありません。
 もう一つはストーリー性です。
 私は、中国内の大半の推理小説家以上にストーリー性を重視している人間だと思います。彼らの多くは、創案したトリックを実現させるために、現実には到底ありえない無理がある環境をつくってしまいます。私から見ると、これでは『推理クイズ』と何の違いがあるか分かりません。では読者はなぜ論理パズルを解くだけで満足せず、推理小説を読むのでしょうか?
 推理小説とはそもそも『小説』です。私は、小説とはプロットが王であり、トリックはプロットに奉仕するものだと固く考えています。ストーリーが悪ければ、トリックがどれだけ優れていても意味があるでしょうか」

―『知能犯之罠』の徐策の動機は、現実の事件がモデルになっていると聞きました。今後、先生が小説にしたいと考えている事件・トピックスはありますか?
「私にとって小説を書くきっかけは2パターンあります。
 一つは、偶然『こういうものを書きたい』と思い、創作意欲が沸いてくる場合。もう一つは小説を書いていない空白期間において、今後数年後にどんなネタが流行するか予想する場合です。執筆で食べている私にとっては、市場とは考慮しなければいけない非常に大切な要素です。
 実際にあった(殺人)事件を推理小説にしたいと考えたことはありません。なぜなら、実際の事件は大半が行き当たりばったりで、動機は取るに足らないものだからです。文芸作品において、そのような『現実的な動機』は逆に嘘っぽくなってしまいます。
 文芸作品では、動機は感情や道理にあったものに変えていかなければなりません。感情や道理に合うということは、現実の事件において極めて稀です」

―日本のミステリは読んでいますか?
「この頃は会社を立ち上げ、株式投資を行い、さらに執筆をするという生活で、小説自体なかなか読めていません。
 日本の作家だと、東野圭吾と伊坂幸太郎を読んでいます。『毒笑小説』『怪笑小説』『黒笑小説』が一番好きです。この3冊は多くの部分で、“東野おじさん”(中国特有の呼び方)が執筆する際の状態を感じ取ることができました。
 そして、推理小説を書く上では、いかなる拘束や制限を受ける必要がないということを分からせてくれた作品です。小説とは、伝統的な規則の束縛がないものであるべきです」


(翻訳:阿井幸作  質問・構成:菊池篤)

風狂奇談倶楽部による、ドラマ『バーニング・アイス ―無証之罪―』をまだ観ていない人に向けた見どころ解説動画はこちら!




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