火入れの話あれこれ
火入れは難しくない
火入れといいますと、皆さんは無意識に
10kgか15kgのお茶をドラムに入れて・・・・
火入れ温度は何度で・・・、何分くらい・・・
と思い込んでしまいますが、
お客様がお茶を飲む時、急須に入れるお茶は5gか10gでこと足りるのですから、本当は手のひらにのる少しのお茶さえ火入れすればいいわけです。
多くともお店でお茶を買っていただける50gから100gをその場で火入れできれば最高ですね。
そんなことを言っても商売ですから、ある程度まとめて火入れしなければしょうがないですよね。
フライパンや釜でお茶を焙煎するのでは効率が悪いので、ドラム式にすれば10kgのお茶を一度に火入れできる。機械設計者としては当然の思考だったのでしょう。
そして10kgより15kg、20kg・・・・
バーナーもどんどん大きくしないと間に合わない・・・・
火力が強くなれば風ももっと強くしなければ・・・・・・
次第に大型化された結果、大きなお茶の塊に、より強火で、あるいは強い風量を使い火入れするようになりました。
お茶と熱源との距離がどんどん長くなりますから温度の伝わり方も悪くなります。
ドラムの内径は大きくなり、胴内の落下距離も大きく、茶葉は傷みやすく、ムラを防ぐために撹拌し、さらに茶葉を傷める結果に・・・・・
絶妙な温度コントロール可能な最新式のバーナーを装着しても、そのセンサーは一体どこに付ければいいのでしょう。
センサーの感知したその場所は広いドラム内の一か所にすぎません。
そもそも胴内の温度は均一なのでしょうか。
因みにドラム内の茶温そのものを測定することは意外に難しいです。お茶そのものの温度であるか、そのお茶を取り囲む環境温度であるかの判断がつきにくいためです。
そんなわけで、今までの火入れ機は『理想の火入れ優先』ではなく『効率優先』で設計されてきたと言っていいと思います。
昔から火入れは難しいと言われてきましたが、火入れを難しくしてきたのはその火入れ機の構造に原因があるのであって、火入れそのものが難しいのではないと感じています。
急須に入れる少量のお茶をよりおいしく飲むために、お茶をちょっと加熱して香りを楽しむ
火入れの本来の目的はそこにあったはずです。
どんな熱源であれ、少量のお茶であれば、弱火でゆっくり時間をかけて加熱し、悪臭を抜いてよい香りを引き出すことはさほど難しいことではありません。
従来の火入れ機も最大の問題は、能率の観点から、原料のお茶の層を形成してしまっていることです。
お茶を塊にしてしまってはどんな熱源でもムラになります。
火入れは原点に戻るべきだと感じます。
香りの混在・・・火入れムラが引き起こす問題点
温度コントロールの悪い火入機では思い切った火入れができません。
これは強い火が入らないことを意味します。強い火をいれようとすると高温域のお茶が赤く変色し、焦げ香を発生するからです。
もう少し強く火入れしたいのにお茶の色が変わってしまうことが怖くて出来ない経験をお持ちの方も多いと思います。
まだ生の部分が残っているのに・・・ジレンマですね。
お茶の色を保ったまま火を入れるためはできるだけ短時間で熱エネルギーを与えることが必要です。
ドラム式火入機のように熱の伝達が接触による伝導熱を利用している火入れ原理の機械では火入れ時間の問題でに温度ムラを防ぐことは出来ません。何時間もドラムで擦るわけにはいきません。
どうしたらムラなく短時間で加熱できるでしょうか。
ところで中学生の時、物理学で、熱の移動には伝導・対流・輻射の3通りがあると習いましたね。
伝導は直火のように接触することにより熱を伝えます。
対流とは自動乾燥機のように一度空気を暖め、空気の熱をお茶に伝える方式ですが短時間という意味では火入れに全く適しません。予備乾燥であればいいのですが。
上記の短時間の熱の伝達という目的では輻射熱を利用するのがベストだと思われます。これは空気などを媒介せずに直接熱を伝えるため燃料消費量も最小限ですみ、とってもエコです。
但しお茶を厚い層にしてはいけません。天日干しのように原料を薄く広げて輻射熱で短時間に熱エネルギーの伝達を行うのが条件です。
遠赤外線はお茶の色を緑色のまま加熱することのできる特性を持っています。
輻射熱という点では、マイクロ波も同じ電磁波ですが電力をかなり使うためこちらはエコではありません。しかもエネルギーが高すぎて(波長が長すぎて)葉緑素を破壊する危険性があります。
焦げ香の正体
ところでさきほど焦げ香といいましたが焦げ香の正体とは一体何でしょう。
アミノ酸のテアニンとかカテキン、カフェイン等お茶の旨み成分について語られることが多いのですが、香り成分についてはあまりに複雑なため語られることは少ないように思います。
しかし基本的な香り成分については多くの研究者により解明されています。
緑茶の香り成分は何十種類もありその組合せで何百もの要素で構成されているのですが、基本は大きく分けて3種類だと言われています。
新茶の香り | モノテルペンアルコール系のリナロール、ゲラニオール等
これらの成分比率(テルペン指標)で香りが微妙に変化します。
お茶の香りの基本をなす成分です。
玉露や被せ茶の香り | 独特の甘い香りです。
ジメチルスルフィドという成分がその正体です。
アミノ酸であるSメチルメチオニンが熱により変化したもので アミノ酸を多く含むゆたかみどりなどの被せ茶には豊富にあり、お茶の香りの最も魅力的な成分ともいえます。磯の香りともいわれ海苔にも多く含まれています。実は普通煎茶にも多く含まれていますので、この成分を上手に引き出すことでお茶の魅力をアップさせることが大変重要であると思います。
ほうじ香 | ピロール類、ピラジン類
香ばしい ほうじ茶の香り 焦げ香に最も近い香り成分ですがほうじ香は焦げ香とイコールではありません。ピロール、ピラジン類もアミノ酸が多いほど良い香りになります。
焙じといってもけして焦がしてはいけません。高温で甘みを引き出します。
上記の3種類の香り成分のどの部分を引き出すかが火入れの目的になります。
新茶の新芽の香りをどう生かして火入れをするか、被せ茶の甘い香りをどう引き出すのか、香ばしい火をお茶を焦がさずに何度でほうじ茶を作るか等、原料と目的に応じて機械をコントロールするのが火入れの技術です。
これらの3つの香り成分は加熱によって生成される温度帯がそれぞれ、ある狭い範囲で決まっていると思われます。
残念ながらこの3大成分の発生温度についてご紹介できる正式なデータは入手できませんでした。しかし、私のつたない経験で述べさせていただきますとおおよそ次のようになります。もちろんお茶によって様々ですのでご参考まで。
3大成分の発生温度
新茶の香り
常温での荒茶は保存中に吸収したの異臭を伴っていますので、予備加熱をしてそれらの雑多な香りを排出しなければなりません。
予備加熱は70度以上は必要です。おおよそ80度前後の加熱で新芽のフレッシュな香りが感じとれます。
あまり高温では消えてしまいます。
玉露や被せ茶の香り
100度から120度前後で、お茶から生まれたとは信じられないほど甘い香りが出てきます。
玉露などの被せ茶はもちろんですが、普通に管理された畑のお茶であれば普通煎茶でも感じ取ることが出来ます。
よく管理された茶畑であれば二番茶でも甘い香りを十分経験できます。
但し、過度の予備乾燥等で水分が十分に残っていないお茶は難しいかも知れません。水分と香り成分は分子結合していますので水分乾燥とともに消失してしまうと思われます。
ほうじ香 | ピロール類、ピラジン類
皆様ご存知のように130度~140度以上になると香ばしさが感知できます。
特に直火の場合、粉の火入れの際は注意が必要です。
火入れの際、温度管理がしっかり出来れば、香りのデータは自分で採取可能です。
火入れしたい原料を徐々に加熱して、良い香りの出る温度帯を探りあてればいいのですから。
いろいろなお茶で火入れをすることにより自分だけのデータの蓄積をして下さい。これこそが本当の火入れ技術であり、ノウハウだと思います。
繰り返しになりますが温度ムラのできる火入機ではどの香りを出したいのか焦点を合わせることが難しい作業です。
<新鮮な香りリナロール、ゲラ二オール>を引き出す場合は低温度帯であるため比較的簡単かもしれません。
しかし、問題なのは2番目のお茶の<ジメチルスルフィドによる甘い香り>を引き出す時です。
お茶が110~120度くらいにならないと発生しませんが、お茶の一部でも高温になると<ほうじ香>であるピロール類の焦げ香が同時に顔を出す可能性がある訳です。
2つの香り成分が混在してしまい、雑多な香りになります。
一般的にどんなお茶でも火入れをしますと3つの香り成分を含めた何十以上もの様々な香りが混在した状態になります。
香りのなかにはオフフレーバーと呼ばれる不快な香りも発生します。(いわゆる番茶臭い(番臭)においもその仲間です。)
火入れにより、あらゆる香りが混在し、それぞれの芳香がまざり合い、美しいハーモニーになればいいのですが、不安定な温度制御下ではそれぞれの香りを打ち消しあう雑多な香りになってしまう可能性が高いのです。
これは火入れに際してもっとも避けなければならない状況であると思いますがなぜか今まで問題視されてきませんでした。
実際の火入れでは<ほうじ香>の一歩手前で火入れを完了していると思いますが、それは同時にお茶の<ジメチルスルフィドによる甘い香り>を切り捨てることを意味します。
出来る限り、目的に合わせた良い香りだを引き出すことこそ火入れの意義です。そのためには一定の温度コントロールは火入れにとって不可欠な要素なのです。
私個人的な思いは、お茶の香り成分2つ目の<ジメチルスルフィドによる甘い香り>を最大限に引き出すことにより緑茶の魅力は倍増します。
皆さんどうかこの香りを体験してみてください。リーフ茶の復権のヒントがここにあると確信しています。
火入れの加熱ムラはお茶を台無しにする
『これは良い香りだ!』と安心していたら・・・
あなたは火入れしていて『これは失敗したな・・』と思った経験ががありませんか。
たいていの場合、火入れ中でなく、何日かたったあとで気が付くことがおおいのではないでしょうか。どんな火入れ機であれ、一定量のお茶に熱を当てるとその部分から芳香が発生します。
そこで『これはいい香りだ!』と、つい納得してしまうのですが、そこで安心してはいけません。なぜなら、香りの出ているお茶は火入れしたお茶のほんの一部でしかない可能性があります。
良い火入れのできたのは全体の10%のお茶で、残りの90%は火が入っていないとしても、わずか10%でもいい香りは立ち込めますから、それで納得して満足してしまうことも起こりうることです。
火入れしたときに最高の香りであったのに、時間を経過すると『あれ?こんなだった?』と感じることはありませんか。
この原因は保管状態の問題であることもありますが、じつは火入れそのものが不十分であり、加熱が均一でなかったケースも多いのです。
料理であればフライパンの中の一部を拾い上げて味見ができます。何回か味見をすれば失敗は防げます。ところが火入れの場合、香りのサンプリングというのは困難です。
火入れの加熱ムラはなぜ起こり、どういう現象を引き起こすのでしょうか。
今回一般的なドラム型の火入機を例にとります。
あるお茶を10kgドラムで火入れすると仮定します。ガスバーナーを着火し、温度を上げてゆきます。設定温度になるまで高温で加熱します。
最初はドラムの底部、バーナーの部分だけが局部的に高温になり、接触したお茶が加熱されます。ドラムが回転することにより混合し、全体に熱が拡散され徐々に一定の温度に近ついてゆきます。
ところが実際に火入れをして取り出した後のお茶の温度は同じではありません。
原因はその時間の短さです。
火入れ時間を何時間という長時間行えばやがてはすべてのお茶の温度は一定になるわけですが、お茶の比熱と形状(大きさや水分量がバラバラで、場合によっては茎や粉も含まれる)を考慮すると、30分程度の短時間では大きな加熱ムラが残ったままなのです。
大きな中華なべに10kgのお茶を入れチャーハンのように炒めることを想像してみてください。
攪拌手もなく、ただ回転するだけです。直接火の当たる部分とそうでない部分では大きな温度差が生じることは容易に想像がつきます。
10kgもの大量のお茶ですから、例えば品温(茶温)の設定温度を120℃にしても、30分程度ではすべてのお茶が同時に120℃になることはありえません。
火入れ用ドラムの形は福引などに使われるくじ引き器と同じで、よく混合する形体を持っているため温度分布がほぼ正規分布する傾向があります。
図は30分ほど経過し、取出しに近くなった状態での茶温の分布例です。
実験値としてののデータをご紹介したいのですが残念ながら現在のところ瞬時にすべての温度測定が出来る環境がありません。あくまで経験をもとにした仮説としてご理解を御願いします。(今後サーモグラフィー等の採用を検討しデータとしてご報告いたしたいと考えています。)
このように実際の茶温はほぼ120℃近くにある部分が全体の50%あると想定しましょう。130℃の部分が20%、140℃の部分が5%くらい含まれると推測できます。
香りをしっかりチェックすると、この高温の5%のお茶(図の黄色の部分)は焦げ香を発生する直前ですからこれ以上は危険であると判断します。
つまり火入れはここで終わりで、取出しになります。
品温(茶温)制御で自動取出しすると5%(500g)のお茶に過度の火入れ部分が混入します。
まーこれくらいは香ばしくていいかと安心してはいけません。
問題は下の低温の部分です。温度分布は正規分布と考えられますから設定温度プラス10℃、20℃のお茶と全く同量のマイナス10℃、マイナス20℃のお茶が含まれているわけです。
つまり、10kgのお茶のうち設定温度に達していない110℃のお茶が20%の2kg、100℃の生(なま)のお茶が500gも含まれている計算になります。
この火入れの弱い2.5kgの部分が時間を経過するにつれ明確になり、問題を引き起こします。
火の戻り?
火入れの際には設定温度を超えた高温部2.5kgの部分が強い香りを発生しますから、『いい火が入った』と感じるはずです。しかし、後日香りをチェックすると『あれ?火が弱い』と感じたことはありませんか?
『火が戻った』という言葉をよく聞きますが、それは『戻った』のではなく、実際は20%以上の『火が入っていない部分が顔を出した』と考えるべきです。
火の戻りを前もって計算して、実際の感覚より少し強めに火入れをしようとしても上記の例でいえば140℃以上の危険温度のお茶が出来てしまうため危険です。
これは厳密なデータではありません。しかし現実にこれに近い現象が起きているのは間違いないと思います。
ノーコンのピッチャー
火入れムラの大きい火入機は野球に例えるとコントロールの悪いピッチャーです。
お茶にはそれぞれ香りを最も引き出される温度帯が存在します。
そのお茶に良い香りを放つ成分が100あるとしたら、その温度において90とか95とか出来るだけ100%に近い多くの成分を引き出さなければもったいない話です。
お茶のすべてをその最適温度帯にもってゆくべきです。
ところがノーコンのピッチャーでは内角ギリギリまで攻めることができません。120℃に合わせたら140℃になる可能性があるのでは、デッドボールを恐れて110℃にしか投げられないのです。
その場合30%以上もの生のお茶を作ることになります。
フォアボールの連続では試合になりませんが、火入れはそれで何となく済んでしまいます。
せっかく精魂こめて育て、荒茶加工されたお茶のおいしさを十分引き出さないまま、飲まれ、茶殻になってしまうのでは買って頂いたお客様だけでなく、生産者の方々に申し訳ない気がします。
火入れムラの起こる火入機はお茶を台無しにしてしまう。
もったいない・・・・・
もったいない・・・・・
お茶の火入れの最適温度というのはもちろん決まった数値はありません。
『おいしいお茶』の定義がないように好みのお茶も人それぞれ千差万別です。
緑茶の火入れにおいても、品種や形状、摘み取り時期、あるいは人の好みにより『ちょうどいい火入れ温度』に範囲があるのは当然です。
しかし、そのことが『火入れなんてこんなもんでいいだろう』と安易に妥協した『テキトーな火入れ作業』で自己満足しているケースを生んでいる原因でもあるのです。
長年に渡り、全国各地の様々な緑茶を火入れした弊社の経験からいえば、お茶を焦がすとか極端なケースを除き、誰でも感じる『ちょうど良い温度』は品種に関わらずある一定の温度帯に納まっているのは事実です。
お茶を加熱して香りが出始める温度と、焦げる温度との間は物理的にも広くはないのです。
火入れの最終工程でせいぜい95℃から145℃の間に、ごく普通のお茶であればもっと狭い範囲、110℃から135℃くらいの温度範囲にほとんど納まっていると感じています。
これはお茶の旨み成分であるアミノ酸と糖分の発生する温度帯に関係すると思われます。
これにつきましては香りの混在のページをご覧下さい。
火入機の性能としてはこの25℃の範囲の温度制御を出来るだけ正確に行うことが必要です。95℃から徐々に温度を上げてゆき、好みの香りがでたらそこで調整を固定する。
火入れの基本はただそれだけです。
火入れの最終段階で希望する温度の10度~15度以内の範囲で保つことが必要になります。
何十キロものお茶のすべてを短時間に同じ温度にする、それを実現するためには方法はひとつしかありません。
お茶を何十キロの塊として考えず、一枚一枚の葉っぱとしてとらえることです。
HOT-1の火入れ原理
HOT-1の火入れ原理はごく単純で、10kgのお茶ではなく、もっと少量の1kg以下のお茶を火入れすることを前提にしています。
HOT-1のトラフ(バイブ)の全長,つまり火入れ空間は3段合計で合計5.4Mもありますが、トラフ上に載っているお茶は1台分3段合計で約1kg程度しかありません。トラフの上のお茶は一枚一枚重ねずに薄く広げます。
HOT-1の場合、温度分布はおおよそ図4のようになります。
もともとサンプルが少量のためほとんどのお茶は120℃付近になります。
ラインバーナーでありながら、トラフ全面に同一熱量を放射する独自の均一加熱構造(PAT済)を装備することによりさらに高精度の加熱が可能になりました。(各段独立自動温度制御付)
これを連続的に繰り返すことですべてのお茶を何十キロあっても120℃近辺に保つことができます。(図5)
これがHOT-1にしかない火入れの基本原理です。
HOT-1はピンポイントに温度制御できますから、お茶が最も香りを放つ温度帯ギリギリまで火入れが可能です。
しっかりした養分がそなわったお茶であれば火入れ温度を今まで以上に上げても変色せずに緑色を保ち、いっそう良い香りが立ち込めるものです。
火入れに熱ムラがあると、この領域まで加熱できません。
どんな良いお茶であっても温度制御の精度の低さによって本来のおいしさの半分しか味わうことが出来ないとしたら、もったいない話です。
言い換えると、本来備えている香り成分を限界まで引き出すことが出来れば、今までと同じ荒茶であっても商品としてのお茶の価値を大きく高めることができるはずです。
高精度でていねいな火入れをするだけで『うちのお茶はほんとうはもっとおいしいお茶だったんだ・・・』と驚かれると思います。
『火入れ技術』というものがあるとすると、すべてのお茶を同じ温度帯に保つことがまず第一の条件であり、その次に来るのが『このお茶は何度で火入れすると最高の香りを引き出せるのか』、『熱源の特性をどう生かすか』などの技術論だと思います。
今までこの第一条件を満たさないまま『火入れ技術』を云々してきたために、『火入れは難しい』という曖昧な結論で終始していたのではないでしょうか。
今皆さんがされてている火入れ方法が本当に適切なのかどうかぜひ考えてみてください。
因みに回転式ドラム以外の火入機の温度分布はどうでしょうか。
HOT-1の構造に似通っている、他メーカーのトラフ式の火入機(トラフの上から数本の遠赤バーナーで直接照射する構造)の場合。通常トラフ上に流すお茶は5mm~1cmくらいの層にするのが標準のようです。
基本的には攪拌しないため温度は正規分布しません。
ラインバーナー(直線状のガスバーナー)はトラフ全面を均一に加熱する均熱板を持っていない場合、バーナー直下部の表面だけは超高温になり、層の下部は低温のままです。またバーナーがない部分を通過する際には茶温が低下します。
ずれにしても均熱構造も攪拌構造もない場合、温度分布は大きく偏ると考えられますので流す量を少なめにして温度制御にかなり気を使って火入れする必要があります。
火入れについてご質問(熱源)
あなたは、ふどんなタイプの火入機がお好きですか?
あるいは、どれが一番良い機械と思われますか?
A~Dの中から選んでください。
A.回転ドラム火入機
B.透気式(キャピタラ式)乾燥機
C.マイクロ式火入機
D.遠赤外線火入機
どれも一長一短ありそうでちょっとわかりませんね。
それでは質問を変えますね。
あなたがもし生魚を焼くとします。たとえば旬の秋刀魚(サンマ)。
どの方法で焼きますか?
A.フライパンで焼く(但し油は未使用) | 回転ドラム方式
B.熱風を当てて乾燥させる。 | 透気式
C.電子レンジでチンする。 | マイクロ派
D.遠赤外線レンジで焼く(又は炭火で焼く) | 遠赤外線
火入れについて皆さんにお尋ねしますと必ず『火入れは難しい』とおっしゃいます。
お茶の火入れは天津甘栗や落花生やコーヒーの焙煎のようには行かないのは、その火入れ対象が種や実ではなく、もともとは柔らかな葉や芽そしてやや硬い茎や、それらが粉となってしまった物が混然とした状態ですから当然でしょうね。
お茶の火入れとは極端に言うと生の魚を加熱するのと同じで、薄い表皮まあり硬い骨もあり柔らかい部分、水分の多い部分、少ない部分も満遍なく火を行き渡らせることです。しかもそれを一度に大量に処理しようとするとなおさら難しいわけです。
お茶は生魚ほどではありませんがもともとデリケートな組織をもった植物です。
加熱することにより荒茶が持っている5%程度の水分をゆっくりと表面に出し、2.7~3%程度にすることにより、
荒茶状態で吸収していたいやな臭いを吐き出し、
内部の本来お茶が持っている自然の香りを引き出すことができます。
これが火入れの本来の目的ですから、火入れの本質とはとは焦げ香をつけることではなく『お茶をじょうずに全体に満遍なく加熱する』のこと。まるで魚を焼くようにゆっくり加熱して傷をつけず、余り風を当てずに風味を残すことです。
A.回転式ドラム方式
お茶をフライパンで直火で焼くことはできますが非常に難しい技術です。葉の表面が焦げて硬化すると、内部の水分が葉表面に出るのを妨げてしまいます。お茶の内部に水分の残る原因になります。秋になって変質し変色してしまう秋落ちの現象です。いわゆる下級茶を大量に火入れするには適していますが上級者には不向きです。
魚でいえば表面は焦げ、中は生、カツオならうまくゆけばタタキが出来上がります。でもサンマは無理でしょうね。
B.透気式
お茶は熱風により乾燥します。火入れとして前半の水分を取る工程はいいのですが、後半の②の工程に問題があると思います。透気式といっても引き出し乾燥機であれば排気ファンを調整して(時には停止させて)丁寧に火入れすればよい結果が得られますが、自動乾燥機ではせっかくの良い風味の大半は排気されて粉塵や粉といっしょ飛んでいってしまいます。※棚が網ならよいですがキャタピラではフライパンと同じ直火加熱です。
※この件につきましては【碾茶の製造に携わる皆様へ】をご参考に。
サンマならカラカラに乾燥して保存食にはいいかもしれませんが晩御飯のおかずにはちょっと食べたくはないですね。
C.マイクロ波
電子レンジは内部の水分を引き出すには最適です。お茶の場合日持ちをさせるための装置としてはたいへん優れていると思います。硬くなったお餅をチンすると内部の水分が表面にゆっくり出て、みごとに元の柔らかなお餅に復活します。マイクロ波は構成する分子を振動させて熱を発生させるためお餅そのものが熱の発生源ともいえます。
しかし火入機として考えたときはどうでしょう。おいしい焼餅にしたくとも焼いた香りは出すことができません。(実際に市販されているほとんどのマイクロ波火入機は、別体のドラム型火入機が後工程に設置されています。上段のマイクロ波照射機と、下段のドラム型の火香付け機が二段積みにされた、一体構造となっているのが一般的です。)上段のマイクロ波でお茶の水分を効率よく抜き取りますが、そのままでは香りは全く出ないためです。
サンマを電子レンジでチンしてみてください。上手に芯まで加熱されますがお味のほうはいかがでしょうか。香りは出ますでしょうか。勇気のあるかたは試してください。
D.遠赤外線
遠赤外線はマイクロ波と同じ電磁波ですが波長はずっと短く、可視光線との中間の特性をもっています。ガスコンロの火で炙るより炭火で焼いたほうがおいしいことは魚や焼き鳥がお好きな方はご存知だと思います。これは炭火から出る遠赤外線の効果であることは広く知られるようになりました。石焼き芋も熱せられた石から出る遠赤外線が芋の内部から温めるため、おいしく焼きあがるわけです。ガスバーナーでファインセラミックを熱すると遠赤外線が発生する原理によりここ数年で高性能の遠赤外線バーナーが開発されるようになりました。
遠赤外線のこの先端技術をお茶の火入れに生かしたのが火入機HOT-1です。
遠赤外線バーナーを既存の火入機、例えば回転ドラムや透気乾燥機に単純に取り付けるのでは本来の効果は発揮できません。なぜなら既存の機械は熱を直火や対流(空気)によって加熱するのに適した構造になっているからです。
お茶同士を摺り合わせて傷をつけたり、むやみに風で吸引して香りやホコリを出す必要はありません。熱の伝わり方が全く違うのですから、本来は熱の特性に合わせた構造にすべきなのです。