読書⑨ toCテレマが今もイケてる施策である理由を考察する(保険業界編)
私はかつて保険代理店のコールセンターにて事業企画を行っておりました。
やっていることといえば消費者に向けて電話をかけアポイントを取り付けるようにオペレーターに指示したり、アポイント獲得内容の品質管理をしたりでしたが、当時から思うところがありました。
「電話勧誘なんてイケていない。時代はWEBマーケでしょう。」と。
しかし、私はとあるマーケティング理論の本を読み、考えが変わりました。
読了後、私は当記事タイトルのとおり、
「toCテレマがなぜ有効なのかについての仮説」
を考えるに至りました。
一見逆張りに見えるこの思考法が、私と同じく日々施策を考えるマーケターの皆さんにとって、新しいアイデアの素になると嬉しいです。
ビジネスの目的とは?
マーケターのミッションについて再考する
「マーケティング活動」は様々な意味合いで使われる言葉です。商品開発のために市場調査をすることを指したり、原材料(有形・無形商材問わず)を安く多く仕入れることを指したりもします。
しかし、それら諸活動の最終目的はビジネスの成長です。
ビジネスは、ドメインが成長産業・成長事業であればあるほど、コストを減らして数字を大きく見せるのではなく、コストを増やしてリターンを増やすという考えで組み立てられます。
それはすなわちマーケターと呼ばれる人々が求められるドメインであればあるほど、ということです。
本書では、ここから既存顧客のロイヤリティを高めることに意味はあるのか?という文脈で、まだ顧客になっていない「未顧客」の理解についての有益性が語られますが、私は以下のように考えました。
同じ予算ならアウトバウンドコールに投下
既存顧客向けの施策を導入することにより、その顧客の消費量が大きく変わることはないと想定されます。
*例外:"初回無料、二回目以降から課金"モデルの商品販売で「初回で終わらせないようにする」という目的で行う施策はそれとは異なります。
ここから新規顧客を獲得するチャネルとして、アウトバウンドコールを何度も行う意味を見出しました。
たとえ獲得効率が悪くとも、限界までは活動量を増やした方がよいのです。
では増やすとして、どれくらいが限界なのか?
これを考えるタイミングで既存顧客のロイヤリティ(つまりLTV)の議論となるのです。順序はこうです。
つまり、新規獲得の単価(CAC)がLTVとバランスするのが限界です。
ここまでで、既存顧客よりも新規顧客のために予算を割くべきであると整理できたとして、広告ではなく電話に使うのはなぜでしょうか?
次に考えてみました。
マーケティングはセリングを殺すか?
今回のケース(保険業界)
私が担当していた保険代理店ビジネスの大枠のフローは以下でした。
コールセンターのオペレーターがお客様にアウトバウンドコールを行う。*お客様目線ではいきなり電話がかかってくるということではある。
オペレーターがお電話口でお客様に、保険相談の面談への参加をおすすめする。お客様が参加をご希望されると、面談を行う別の営業担当者(つまりフィールドセールス)の紹介および日時の調整を行う。
営業担当者がお客様と商談を行い、保険商品の提案を行う。
営業担当者による商談の結果、お客様に保険に加入いただけると保険会社から代理店手数料を得られる。
*業界についての補足:お客様から保険料を上乗せしていただくのではない。保険会社から所定の料率でいただく。そのため当フローでお客様が余分に払って損をするわけではない。
CEPを作ることが大事。だからWEBマーケじゃない
CEP=「カテゴリーエントリーポイント」とは、商品を利用するきっかけとなるシーンやタイミングです。
こちらが本書で引用され主張されるCEPの概念です。
すなわち、ユーザーのニーズに合わせて様々な見せ方やチャネルでプロモーションを行う有効性を説いているのですが、私は「だからこそ電話営業」ではないかと思いました。
未顧客とはブランドをそもそも知らない、あるいは知っていても興味がない人たちです。そのため具体的な理由を持ってブランドを選んではいません。
選んだ後で理由を考えるのです。
本書でも、
「言語化する必要に迫られたとき、自分が納得できる理由を考えて答える」
という「人の性質」に触れられています。
つまりこの理論において、「電話がかかってきて勧誘された」というお客様の体験はCEPの創出であるのです。また電話口でお客様が応じたとき、その理由はお客様が後で考えてくれるのです。
WEBマーケの場合、CEPの創出はいくらターゲティング広告でもお客様の側で意思決定し内容をご覧いただく(クリックや動画を視聴いただく)必要があります。
一方でアウトバウンドコールの場合(お客様目線ではいきなりかかってくるので尚更)、こちらのコントロール性が高いのです。
セリングはマーケティングと一体化して生き残る
大見出しの「マーケティングはセリングを殺す」とは、ピーター・ドラッガーの有名な言葉です。マーケターなら誰もが知るのではないでしょうか。
これは売り込みが不要になるということではなく、売り込みのプロセスにマーケティングの要素が組み込まれるようになるということだと考えます。
この解釈について以下に例をご紹介した後、まとめとします。
テレマーケティング再解釈
子どものお風呂への解釈(本書で語られる例)
お風呂が嫌いな子は、風呂は作業で、遊びの中断と認識します。
そのためお風呂に入れるのに一苦労します。
お風呂が好きな子はお風呂を遊び場の一つと認識し、水遊びなど次の遊びをする場と認識します。
つまり、「次の遊びをお風呂でしましょう」と働きかけることが、子どもの欲求にフィットしたマーケティングコミュニケーションなのです。
アウトバウンドコールの再解釈(保険の場合)
保険の提案を受け慣れていないお客様は、保険面談への参加を提案された時点で「断らないと売りつけられてしまう」と認識をされます。
そのため、良い商談の場となりません。
保険の提案を受け慣れているお客様であれば、「保険の商品そのものはどの営業担当から加入しても同じなので、どんな話なのか聞いてみよう」と認識をされます。
オペレーターは電話口で、保険商品の購入をおすすめするのではなく、新しい話が聞ける場としての「目的」の設定をお客様と一緒に行うのです。
つまり、保険の提案を受けるハードルを下げることが、「売りつけられたくないが、役に立つ話は聞いてみたい」という欲求にフィットしたマーケティングコミュニケーションなのです。
まとめ
以上、アウトバウンドコールについて肯定的に考えを述べました。とはいえ勿論この手法はお客様にストレスを与え、ブランドに対するネガティブイメージの醸成にもつながるリスクがあります。運用にはモラルが求められるのは言うまでもありません。
しかし「そもそもブランドを知らない未顧客」に対する施策であり、「印象がゼロだったものがマイナスになるインパクト」と「新規顧客に転換するインパクト」の天秤については、一考の価値があるのではないでしょうか。
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