読書② Amazonの如く合理的に優しく
私は、様々な企業のなかでAmazonが特に好きです。全企業中、最も多くの人に、「優しさ」を供給していると思っているからです。
安く、早くモノを買える。そこそこ最新の映画をいつでも観れる。
物質的な意味合いで、これまで一部の人にしか許されなかった体験の供給を実現してしまった企業です。
Amazon以前は、精神的・ホスピタリティ的な体験を供給することが「優しさ」とされていたように感じています。
それはときに、
サービスそのものでは不足があるので、遺憾の意をサービスそのものではないところで表明する
という、少々穿った見方もできてしまうものでした。
Amazonのように、サービスそのもので優しさを実装したいと思い、私は起業しているわけなのですが、今回読んだ本はこちら。
「Invent & Wander──ジェフ・ベゾス Collected Writings」
優しい人には誰でもなれる
「ジェフ、賢いよりも優しいほうが難しいんだ。いつかおまえにもきっとわかるときがくる」
タバコを吸っている祖父に対し、フェルミ推定型の計算を用いて「寿命が●年縮んだね」と鼻高々に言った少年がしばしの沈黙の後、言われた言葉です。
ジェフ・ベゾス10歳の夏の日の出来事でした。
2010年、大学の卒業式に呼ばれた彼は、このように語りかけます。
才能をどのように使うのか、それが選択です。
誰かを傷つけてでも自分の賢さを主張するのか、人に優しくなるのかは選べるのです。
身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任があるのだと説く"ノブレス・オブリージュ"という道徳観が西洋にあります。
では、身分が高くないときには、人に優しくしなくて良いということなのか?
という疑問に対して、「否」と言っているのが、彼の言葉だと感じました。
優しさとは外面化した内面である
Amazonのサービスがなぜ人に優しいのか。
エンジニアの人数が多いとか、世界中の配送網とか、マーケットプレイスでのサプライヤーとの交渉力とか色々な「優しさを実現できている理由」はあると思います。
しかし、全ての源泉は「思想」です。
そもそもこの技術があれば、競合他社を市場から退場させた後、値上げをすることもできてしまうわけです。
実際にAmazonに潰された会社は市場にはたくさんありますが、ユーザーのためにそれをやっているので、競争が「聖戦」として受け入れられているのです。
人に優しくなるという軸が最初で、その実行手段として経営戦略・サービス戦略という目に見えるものが次に来るのです。
優しくあり続けるために
本書ではAmazonの意思決定についての見解も語られています。
意思決定には影響が深刻で取り返しのつかないもの、またはあとでもとに戻すのがかなり難しいものがあります。
そうした片道切符の決定は、順を踏んで注意深くゆっくりと、さまざまなことを考慮し検討したうえで行わなければなりません。
いったん決定を下して扉を開けてからがっかりしても、もとには戻れない意思決定を「タイプ1」と紹介しています。
一方で、ほとんどの意思決定には引き返せる往復切符があるのです。
このような「タイプ2」の決定については、それが間違っていたと気づいたら、そこに留まる必要はないと説きます。
問題は、人も会社も大きくなると、後戻りができないタイプ1の意思決定のプロセスを、タイプ2にも当てはめてしまいがちになることなのです。
私は、優しくあり続けるためには、
「自分が価値を届けたい相手に優しくないことをするかもしれない」
と事前に想定される意思決定にはタイプ1を適用し、
「何かを実行した結果を踏まえて行う」
意思決定についてはタイプ2を適用することが大切であると思います。
私は会社員時代に、「消費者に対して電話勧誘販売を始める」という意思決定を迫られる場面がありました。
このとき、電話での勧誘を行うことで消費者からの評判が下がるかもしれないというレピュテーションの観点および、アウトバウンドコールを行うためのコールセンターの運用コスト観点での検討はタイプ1でありました。
一方で、電話勧誘販売を実施した結果、消費者からの「望まない商品を売られた」といった反応を得て、行動の修正を行うのはタイプ2の適用であったと思います。
結果的に、このとき「電話勧誘販売は行う」というタイプ1意思決定のうえで、「取り扱い商材を増やし、満足させられる商材を案内する」というタイプ2意思決定を行いました。
サービスそのものの不足に対して、それを拡充するという選択が、選べる優しさでした。
どうしても、置かれている環境によって、自分の思う優しさを思い通りには発揮できないかもしれません。
その環境で既に行われたタイプ1の意思決定は不可逆であるのです。
それでも、優しくありつづけるための自分自身のタイプ1の意思決定を守り、タイプ2の意思決定を柔軟に繰り出すことが、「才能を使うべき選択」であるのです。
今回の本
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