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【読書記録】こちらあみ子/今村夏子

※本の内容には触れております。少しネタバレを含んでおりますのでご注意ください。


「こちらあみ子」の本を購入したのは実は1年前、映画「花束みたいな恋をした」を見たことがきっかけ。


主人公の麦くんが絹ちゃんに
「偉い人かもしれないけど、その人はきっと今村夏子さんのピクニックを読んでも何も感じない人なんだと思うよ」
といったセリフ。

自分が読んだらどう感じるんだろう。私も何も感じないのか。
と興味本位で購入。映画ではどんな話かも触れていなかったのでタイトルから推測するとほのぼのした話かと思いきや・・・。

こちらあみ子/今村夏子

今村夏子さんの「ピクニック」は「こちらあみ子」に掲載されています。

ピクニック/今村夏子

1年前、ひとまず先に「ピクニック」を読了しました。
読んだ後のずしーんと気分が沈むこの感じ、久々の体感でした・・。
人間関係の歪み、いびつさを真正面から見せられたような。でもいじめ側もいじめられている側も他人事とは思えなく余計気分が沈む。
しかも物語の終盤になって、序盤に感じる違和感(優しく見える同僚達には実は悪意がある)ということが語り口で分かっていくのが余計ぞわっとする。
無意識な悪意なのか、悪意があるけどそれを善意の皮を被り楽しんでいるのか、もう一度読み返すのが怖くて推測できないのですが、私には心臓に悪いお話でした(誉め言葉)


「偉い人かもしれないけど、その人はきっと今村夏子さんのピクニックを読んでも何も感じない人なんだと思うよ」
映画「花束みたいな恋をした」より


麦くんと絹ちゃんは何を感じたんだろう。何を感じてほしかったんだろう。
人間関係の残酷なところに心を痛めたのか。
それともマイノリティな主人公に共感をしたのか。
本人たちに聞いてみたい。


こちらあみ子/今村夏子

そして「こちらあみ子」を読了したのはつい昨日。
本棚から発掘し、「そういえば表題作を読んでいなかった」と気づき読み始めました。すらすらと読め、一日で読了。
「ピクニック」並みのショッキングさはありましたが、こちらのほうがまだ救いがあるような印象でした。
まぁそれでも読んだ後は心臓がバクバクし、しばらく寝付けなかったです(笑) 寝る前に読まなきゃよかった(笑)

【あらすじ】
あみ子は、少し風変わりな女の子。優しい父、一緒に登下校をしてくれ兄、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいる母、憧れの同級生のり君。純粋なあみ子の行動が、周囲の人々を否応なしに変えていく過程を少女の無垢な視線で鮮やかに描き、独自の世界を示した、第26回太宰治賞、第24回三島由紀夫賞受賞の異才のデビュー作。
Amazon「こちらあみ子」内容より

言ってしまうとあみ子は空気が読めず、他人の心が分からない子供である。もしかしたら発達障害があるのかもしれない。
(読むからにかなり放任されて育たれているので、教育的なところもあるのかは謎のまま。)

あみ子からみた語り口で物語は進んでいくのだが、あみ子から見た情報だとかなり情報が少ないところが、あみ子の心情を疑似体験ができるようで少し切ない。
母がおなかの子を死産したときに、弟の墓を作ってお母さんを喜ばそうとしたがお母さんは泣いてしまいそこから家庭は崩壊。母は鬱に、兄は不良に。

お母さんがどうして泣いたのか、兄がどうして怒ったのか。あみ子は分からないので書かれていない。読者は描かれていないお母さんや兄の心情を想像し、第三者としてこの物語を読むと余計心が痛む。
でもあみ子の気持ちも分からなくもないというか、あみ子は母を喜ばせたくてしていること。
あみ子ほどではないかもしれないが、子供のころの失敗とか無垢な残酷さとか、少なからず誰しも持っていたと思う。
自分も子供のころ人を無意識に傷つけたり怒らせたりしたことがあるなと思い出してしまい、ちょっと気分が沈んだ(笑)

ただそれが人を傷つけてしまうことだと教えてあげられる家族がいたら良いのにと思ってしまう。
昔は教育していたのだけど、伝わらなかったのか。それさえも分からないけども。

あみ子の同級生の坊主頭の子。
最初は嫌なやつなのかと思いきやこの物語で唯一あみ子に「教えてあげられる人」だったように感じました。
お風呂に入っていないあみ子に「お前お風呂はいっているのか、はっきり言うけどお前くさいぞ」と注意してあげたり、あみ子に「(自分は)気持ち悪かったかね」と聞かれたとき、「気持ち悪いっていうか、しつこかったんじゃないか」と教えてあげたり。
いつも片方だけのトランシーバーのように一方通行なあみ子の会話。
唯一通信できたのは、この坊主頭の子だけだったんじゃないかな。


同収録の「ピクニック」よりも人の優しさが垣間見れたお話だったので、すこーし気分が救われましたが、それでも両親があみ子に対して諦めているように感じたのも、あみ子の無垢な残酷さで人が傷つく様子なども読んでいて辛くなりました。

他の人の感想もネットで読んだのですが、人によっては爽快や痛快さを感じた方もいるということで、読む人によって全然印象の違う小説なのだと感じました。
そんな小説をデビュー作で執筆してしまう今村夏子さん、すごい・・・。


そして、今年映画化することを初めて知りました。

井浦新さんと尾野真千子さんが出演しており、もうクランクアップされたみたいです。
ちょっと気になるけど、映画館で見るのは気分が最大限に落ち込みそうで怖いなぁ・・・。(笑)






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