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かぼちゃの怖い話「ひとりぼっち」

ひとりぼっち

ある若者の男が会社をサボって河原に来ていた。男は何をすると言うこともなくぼーっと流れる川や流される木の葉などを眺めていた。

この男、根は真面目だが短気で怒りっぽい性格をしており昨日の会社で上司とケンカになった。

真面目な性格だからいつもなら会社には出勤するところだが、この日初めて会社をサボることにした。

それは昨日の上司とのケンカが原因だった。ちょっとした書類のミスを指摘された際、男はカッとなり上司の胸ぐらを掴んだ。

「何だ、その手は?」と上司は言い
「ぶん殴ってやる」と男は凄んだ。

「やってみろ」そう上司が挑発的な笑みを浮かべて言うから「この野郎!」と男は右拳を思いっきりぶつけようとした。

その拳は上司に当たることはなく、フワッと浮くような感覚の後、背中に強い衝撃がきた。

どうやら上司は柔道の経験者らしく軽々と投げられてしまったのだ。

女性社員がいる中で投げ飛ばされバツが悪い男はその日は顔を真っ赤にしながら下を向いて仕事をするしかなかった。

それで次の日、つまり今日は会社に行くことをやめてサボることにした。

男は自分に恥をかかせた上司に復讐してやりたいと考えたが、良いアイデアが浮かばず河原でぼーっとしている。

そんな中、川の上流からキラキラと光る何かが流れてくる。

それは徐々に近くなりやがて正体が判明した。

「ツボだ。木の栓がしてある」男の座っている位置から少々遠かったが、川の流れは速くなく深さもそれほどではなかった。

男は上着とズボンを脱ぎ、パンツ姿で川へ入った。そのままツボに向かって歩き、胸の辺りまで水面が来たところでそれを取る。

岸に戻りツボの蓋を開けてみるとモクモクと紫色のケムリが立ち上った。

男はとっさにツボを投げ捨てる。カンカンカンと地面にツボが転がり、ケムリは徐々に消えていく。

男は恐る恐るツボの中身を確認したが中身は空だった。

「なんだ、単なる子どものおもちゃか何かか」
そう呟く。

「ちょいとそこの君!」
どこかから軽快な声に呼びかけられた。

男は周りを見たが誰もいない。

さっきのケムリでおかしくなったか?そう思っていると

「そっちじゃないよ!上だよ、うーえ!!」とまた声が聞こえる。

言われた通り上を見ると、三角の耳に吊り目をして全体的に黒色で細長い尻尾を生やしたやつが浮いていた。

「悪魔みたいだ」男がそう言うと
「ご名答!よく知ってるねぇ、きみ!」
と悪魔は言う。

男はポカンとしてしまった、状況がよく飲み込めないのだ。

「おいおい、悪魔がツボから出てきたんだぜ?願い事言いなよ、願いごと!」
男は自分の頭が狂ったと思い手で頬を引っ張ったり叩いたりしている。

「大丈夫だって!君が見てるのは現実だから!」

悪魔はそう言い、男の近くまで降りてきた。

「じゃあ、悪魔らしいことをやってみろ」

男が悪魔にそう言うと
「本当に良いの?そんな願いで一つだけ何でも叶えられるんだよ?」

悪魔がそう忠告してきたので男はハッとして「違う違う!」と必死に訴えた。

「じゃあ、願いごとはなに?」
「あとで魂取るとかないよな?」
「その質問に答えることが願い事ってことでいい?」
「違う!待ってくれ」

“どうやら悪魔に質問するのは願い事になるらしい、ここは慎重に考えるべきだ”
男はそう思い黙ってジッと考え込んだ

真っ先に思い浮かんだのは大金だった。会社を辞められるし一生遊んで暮らせるだろう。
しかし大金を出されたところで運ぶ手段がない。

仮に「一生遊んで暮らせる金を銀行口座に振り込んでくれ」と言った場合。

「お金」と「振込」の二つの願いになってしまいどちらも叶えられないかもしれない。

次に思いついたのは「全ての知識をくれ」というものだ。

これならば願いは一つに適うし、大金を稼ぐ知識もつくだろう。

しかし、それもやめた。なぜなら知識は本で読んだり人の話を聞いたりすれば増やすことができるからだ。

そうして最終的に思いついたのは「最強の体にしてくれ」だった。

体というのは生まれつきでどうすることもできない、また全ての知識だって最強の体の中に含まれるのではないか?そう考えたのだ。

何より明日の会社で上司をコテンパンにしてやりたい気持ちもある。

男は悪魔に「最強の体にしてくれ」と頼んだ。
「本当にそれで良いんだね?」とお決まりの確認がある。

「ああ、それで頼む」
男は決心してそう告げる。

「分かったよ!じゃあ最強の体になぁれ!」

悪魔の言葉と共に光が出て男の体はそれに包まれた。

やがて光はおさまり元の風景に戻る。

「本当に強くなったのか?」
悪魔に尋ねる。

「なってるよ!試しにそこのでかい石を握ってみなよ」

男は悪魔の指さす方にある大きな石を握った。まるでプリンを潰すような感触で石を潰すことができた。

「本当だ、すごい。ところで強くなったのか?という質問は願いごとにならないんだな」

「もう!意地悪だなぁ、僕たち悪魔にだってルールや決まりはあるんだよ!

願いごとをキチンと叶えたかどうかの確認は仕事のうちなんだ。

あと願いごとが一回なことを伝えないといけないし、最終確認も取らなくちゃいけない。それがルール!」

「分かった分かった。悪かったよ。この力をくれたことに感謝するよ」

「じゃあ、確認も済んだし僕はもう行くね!バイバーイ!」

悪魔は再びツボに入り、ツボは宙に浮いた後スーッとどこかへ消えた。

それからの男の人生は見違えるように変わった。

まず、悪魔から力をもらった次の日に予定通り上司をコテンパンにした。

その後、社長に呼ばれて説教を喰らったから社長も殴り飛ばした。

警察に連行されかけたが、警察も跳ね飛ばした。

拳銃で撃たれても体は傷一つ付かない。

走っている車にぶつかっても壊れるのは車の方だった。

殴られても首を絞められても撃たれても平気、まさに最強の体となった。

男は最強の体を活かし、ボディガードとして働いたりあらゆる格闘技の大会で優勝し賞金を得たりした。

いろんなテレビにも出演し、最強の体を披露した。

ある番組で「最強の体テスト」なるものが企画され呼ばれた。

その番組では「電流」「炎」「絶対零度」「放射能」に至るまでありとあらゆる実験が行われた。

男の体は全て無傷だった。

中でも瞬間視聴率が最高に上がった企画は「目ん玉に針をぶっ刺す企画」だったが、なんと針は目ん玉に当たった瞬間折れてしまった。

料理番組では「未調理のフグ」などを食べて見せたし、腕相撲の番組では握力が100キロを超える大男に対し小指で挑んで勝つなどの快挙も見せた。

男は世界中の女からモテてたくさんの子どもを作った。

繁殖力も凄まじく年間100人を超える子どもが生まれた。

最強の体を手に入れた男が日本や世界で活躍する中で強い危機感を持ったのが世界中の政府だった。

「あの男の体は異常だ!危険すぎる!」
「あの男の子孫は残すべきではない!」

そんな意見が飛び交う。

何とか男も男の子どもたちも根絶やしにしようという方向へ話が進む。

しかし男は元々、短気で怒りっぽい性格をしておりその性格は治るどころか強まってしまっていた。

だから下手に攻撃すると一国丸ごと全滅する。

だが、男が最強なのは体のみで知識や精神力は大したことはなかった。

短気で怒りっぽい性格が最強の体を手に入れたことでより傲慢に強化されたくらいのものだ。

だから適当にすごいすごいと褒めてやり怒らせないように良い気にさせておけば何の危害もない。

警戒すべきは男の子どもたちだった。

年間100を超える子どもが男と同じように最強であれば脅威になり得る。

しかしその心配は単純な理由で消える。

男の子どもが小学校での健康診断や体力テストをした結果、他の子どもと変わらないごく普通の数値だったのだ。

各国の政府はとりあえず一安心し、男だけを注意深く見守ることにした。

男は相変わらずテレビに出演したり女と遊んだり好き勝手に自由気ままな生活を送っていた。

特に何のこともなく時が流れた。

しかし、そんな平和は一度にして無くなる。
どこかの国の核兵器ミサイルがある国に撃ち落とされた。

落とされた国は甚大な被害が出る。

その中には男の子どもがいた。
それを聞きつけた男は急いで核兵器を使った国に行き暴れる。

一発の核兵器が引き金となり、各国で大戦争が起きた。

軍人も民間人も政府も動物や虫も全てが死滅していった。

結局、地上に残されたのは男一人のみ。

最強の体は放射能から身を守り、飢えから身を守り、暑さも寒さからも身を守った。

さらに老いてすらない。あの日河原で悪魔に最強の体にされた後から一切老いていない。

何もない誰もいない地球でただ一人、男は死ぬことがなく生きている。

自殺しようと舌を噛んでみたが舌は平気で歯を押し除ける。

つまり死ぬことさえ許されない体になってしまったのだ。

男は何も考えることなく歩き、疲れることも喉が乾くこともない。

何日も何ヶ月も何年も休むことなく歩き続けた。

ふと光るものを見つけた。近づいてみると木の栓がしてあるツボだった。

男は開ける、紫色のケムリが立ち上る。
やがて悪魔が姿を現した。

男は必死に「お願いだ!死なせてくれ!」と頼んだ。

悪魔はそんな男を見てニタニタと笑うだけだった。

怒りが込み上げ悪魔を殴る。悪魔は一瞬で生き絶えた。

すると男の目の前にツボが降ってきた。男は木の栓を取る。悪魔が姿を現す。 

「死なせてくれ」

悪魔はニタニタ笑う、男は殴り悪魔は死ぬ。
何度も何度もそれを繰り返す。

何度目かの悪魔は少し様子が違っていた。肌の色が白色だった。

男は「死なせてくれ」と同じように頼んだ。
その悪魔はニタニタと笑うことなくこう言った。

「僕は人の手によって作られたんだよ」

希望とは違う答えに男はカッとなりその悪魔も殴って殺した。

もう、男の目の前に悪魔が入ったツボは降って来なくなった。

あとがき)

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