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25.素数選民

※以前に別名義でアップしていたもの。因みに、2021年は素数セミの大量発生の年らしいです。

 僕は、はやる気持ちを抑え、彼女からの手紙を手にとり、頑丈な包装を開いた。包装にはウィルス除去済というシールが貼られている。2043年という日付の記録から始まる手紙だった。今年は2047年。4年前に書かれた手紙である。

 2020年頃、人類はコロナというウィルスとの闘いを開始し、そして敗北した。一方で人間による科学は新たな技術を獲得。それは、人間の冷凍保存である。ウィルスとの闘いは、2030年に逃げるという形で人口の減少を抑える戦法に舵を切った。ウィルス、人間間の物理的な距離の隔離には限界があり、次は冷凍保存による時間による隔離が選択されたのである。

 そして人類はある生物の生態を模倣し、冷凍期間によるグループ化を行った。

 素数ゼミ。17年または13年で成虫になり大量発生するセミである。その素数の期間の繰り返しにより、別れたグループは時間的に隔離される。人類も17年、13年間冷凍保存の対象になる人選が行われ、その施策が実施されることとなった。素数ゼミに掛けて、選ばれた人々は素数選民と呼ばれた

 そして、選民は強制的に行われ、僕と彼女はそれぞれ17年グループ、13年グループに分けられ、冷凍保存装置に入った。

 彼女と一緒に冷凍保存装置に入るとき、僕たちは手紙を書くことを誓った。素数選民が始まってからは、これまではコンピュータによるメッセージしか無かった世界に紙の便箋による手紙が復活した。物理的、時間的距離のある相手には手書きによる手紙が選ばれたのである。

 2047年。13年間の冷凍保存から起きた2043年に書いた彼女からの手紙。

 僕は彼女からの手紙を隣に置きながら、思いの丈を手書きの手紙に書き記した。素数年数の冷凍保存がこのあとも続くのであれば、同じ世界に生きているにも関わらず、時間的な隔離により会うことはない。

 そして返信した。手紙をポストに投函し、9年後(※)の君に。

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※13 × 2 = 26、26 - 17 = 9 めんどくさ。

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