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08. 満員電車というもの

 太陽が照りつける中、ネクタイを締めて電車に乗った。電車のクーラーは弱めで、汗が流れ落ちる。隣の人の肩が顎にぶつかる。耳をつんざくような大きな音で、電車の出発を知らせるブザーが鳴った。
 どう考えても閉まらないだろうという位置に人がいるのだが、扉が動くと同時に遠くから駅員が走り寄り、体当たりの要領でその人を電車内に押し込む。同時に扉が閉まり、少しづつ電車が動き出す。体を動かせるスペースは全く無かった。この状態で次の駅まで身動きが取れないんだろうと、これ以上動くのを諦めた。
 同じ車両の反対側では、同級生がはしゃいだ顔をしながら、笑いをこらえていた。僕はそれどころじゃなく、それには反応せずに無言でつり革にぶら下がっていた。すると、次の駅に着いたのか、急に電車がスピードを落とし、隣のおじさんがもたれ掛かってくる。
 「おい!」電車の中で、だれかが叫ぶ。「あたってるぞ!」言われた若い男性は無言で、腕の位置をずらすが、怒りに顔を赤くした男性は、収まらない様子で「おい!」ともう一度叫んだ。

 こんなことが起こっていたのか。

 確かに教科書で見るのと、実際に満員電車というものに乗ってみるのでは感じ方が全く違う。「なんなんだよ」僕はもう耐えられなくなり、つぶやいた。反対側では、まだ笑いを堪えている同級生がいる。
 「ピーピー」警告音とともに電車内からオンラインの学校の教室に風景が変わった。2時間のVRによる体験学習は終了。僕は投げ捨てるように、ヘッドセットと体につけたセンサーを外した。今までになく汗をかいてしまっていた。
 今日はバブル時代の通勤風景でした。仕事をするにも、こんな修行のようなことを昔の人はやっていたわけです。信じられないですね。では、休憩です。

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