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15.宇宙の航泳

「今日の航行スピードはかなり落ちています」
「ここ数日は、かなりスピードダウンしているな」

 この言葉が聞こえたように、宇宙船の中でうめき声が聞こえた。地球という星を離れてから約1000年。人間は世代交代を繰り返してここまで順調に進んできた。人が住める星の間を行き来するには、未だ人類の寿命は追いついていないのだ。地球はもうとうの昔に消滅しているだろう。

 ただ、"今の"宇宙船が最後、ここに乗っているメンバーは目指した星までは届かない可能性が高い。そんなことを思いながら、宇宙船内の壁をさすっていた。壁からは、粘度の高いオイルが染み出しているのが見える。もぅすぐか?

 人類が乗るための宇宙船は多種多様なものが製造され、地球を旅立った。中には数日で故障し、宇宙の藻屑となったものもあった。その後、1000年近く旅を続けてきたが、結果的に残ったのはこの"生物"宇宙船のグループだけだった。

 この生物宇宙船は、惑星間の海を重力の波を泳ぐように進んでいく。生物宇宙船は、人類と同じように寿命を持つが、同時に人類と同じように生殖活動を行い、子供を産んでいくのである。生物宇宙船の腹の中にいる人類は、生物宇宙船の子供ができると臍の緒を通じて、その子供の腹の中に移り、そこで新たな暮らしを始めていく。これまで、その繰り返しを行うことによって、生きてきたのである。

「ただな、この船はもう長くない。歳をとってしまった。」

 そう、今乗っている生物宇宙船は、カップルになれなかったのだ。一緒に泳いでいる他の生物宇宙船に未来を託し、我々はこの船と一緒に寿命を迎えることになる。

宇宙船の壁からは、涙のような水が流れ、脈打つ音が静かになった気がした。

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