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11.隠される世界

 昔は紙の教科書というものを使っていたということを聞いたことがある。今は教科書といえば端末が普通になっているし、実際こっちの方が楽だ。端末を使った授業では、随時情報はアップデートされていくので昨日の授業が正しかったかどうかは分からないのが辛いところだ。特に社会の授業なんかは、ニュースの内容がすぐに教科書に入ってくることもあって、テストを受ける身としてはたまったものじゃない。

 社会の授業で、僕が以前から気になっているのは、どうも地図が少しづつ変わっているような気がすることだ。友達の山田にも話したことがある。「今週もやっぱり地図が小さくなってない?」

 最近は感染症防止のため、学校にも登校することは無いので、端末を利用して山田に連絡を取ってみたのだが、返信は無かった。オンラインの授業にも出席していない。山田が休んでいること自体、周りの友達は気づいていないのだろうか。先生にも聞いてみると、意味ありげな顔をして、あることを教えてくれた。それを聞いて、僕は山田の家に向かっていた。胸騒ぎがする。

 端末に表示される最新の地図をもとに山田の家を目指した。地図はやっぱり変わっているような気がするし、変わっていないような気もする。各地区は詳細に区分けされ、エリア番号が振られている。今は、エリア番号毎に高い壁で仕切られており、壁をまたぐ移動においては、センサーでの体温チェック等が行われるのだ。

 先生から聞いたことは、こんなことだった。「最近は感染症で亡くなったり、授業に出られない子が沢山いるから、それをひとりひとり伝えることは無いの。何も起こらなかったことにして、話に出さないっていうのがルールになっているの」

 そうそう、山田の家はこの壁の向こうだ。そこにいくといつものように壁があった。壁を抜けるためのセンサーゲートを通ろうとすると、アラームが鳴った。

 この先は通行止めです

 無機質な自動音声が再生される。モニターには小さい文字で以下のように表示されていた。本エリアでの感染症検知により、この先のエリアは封鎖されました。今後、ここは地図から抹消されます

 確かにあったはずのゲートの向こう側は、何もない真っ暗な空間が広がっていた。

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